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末永健雄[クボタスピアーズ船橋・東京ベイ]◎本日も席を渡さず。
すえなが・たけお。1994年7月31日生まれの30歳。今季は開幕からの14試合中13戦に出場。すべて7番で先発。(撮影/松本かおり)

末永健雄[クボタスピアーズ船橋・東京ベイ]◎本日も席を渡さず。

藤島大

 高層ビルが林をなす。その、ふもと。立ち退きを拒んで、小さな一軒が角地に踏ん張っている。

 末永健雄。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの7番である。178㎝。98kg。いま体重の数字を確かめて、あと2kg重くなくてよかった、と思った。この人は100kgの手前にとどまってほしい。すなわちロマン。

 ほとんど南アフリカ共和国とトンガ王国の連合軍のごとき怪力強靭巨漢のひしめくチームのFWパックにあって、本日もそこにいてくれる。タワー下の家屋、近くで目にすれば、おそろしく頑丈に設計されている。それでいて、しなりもあって衝撃にびくともしない。今季リーグワンでは第13節の欠場を除いて、すべて先発だ。くどいけれどロマン!

 4月6日。秩父宮ラグビー場での第14節。スピアーズはリコーブラックラムズ東京を42-14とあっさり寄り切った。スピアーズのオープン側フランカーは目立たぬことにより力を示した。球を持ってほとんど走らず、ひたすらボール防護および奪取のためのクリーンアウトやタックルに徹する。

 試合後の取材スペースで聞いた。ランを封じて、倒して倒しまくる。あれは役割の分担なのですよね?

「はい。サポートして速く球を出す。ディフェンスでは、ファーストフェイズで僕のところにくることが多いので、そこでしっかり仕留める」

 本当はパスなどアタックも上手だと、こちらは知っています。

「もう、アタックをやらなすぎてへたになってるかもしれません」

この低さが信頼を集める。(撮影/松本かおり)


 この日、後半20分で務めを終えると、かわりに出てくる人はピーター・ラピース・ラブスカフニである。189㎝、106kg。南アフリカ出身。キャプテンシーも託されたジャパンでは19キャップを得ている。クラブ内の競争の厳しさはこれでわかる。

 ちなみに2018年春、このラピースが明かした。「南アフリカでは、みんな、わたしのことを小さいと言います」。ゆえに大を制するための動きと心構えを磨くのだと。「サイズはファイトする心の中にある」。こんな歴戦の勇士と出番を競うのだから楽なはずもない。

 メンバー表の上から7番目にはまたもまたもや「末永健雄」。この3シーズン、ほとんど出場していますよね?

「この前(第13節の三菱重工相模原ダイナボアーズ)と優勝したシーズンのキヤノン戦(第12節の2023年3月18日)を除いては、そうですね」

 愚問は承知。大男の並ぶチームにあってレギュラーであり続ける秘訣を。

「常に出られるような準備はずっとプレシーズンからやっているので。本当、気持ちの面だけですね。正直、今シーズンは最初、あまりパフォーマンスはよくなかった。それでも出る以上は責任があると思うので、毎試合、100%やり切ろうと」

 普段の練習、2mや120㎏級の海外出身の重量級とぶつかり合うだけでもしんどいのでは? 「いや、味方側なので僕は」。レギュラーの特権というやつか。
 
 30歳。福岡県出身と知って、反射的に東福岡高校卒業だろうと想像する。違った。県立福岡高校に学んでいる。往時の強豪で文武の名門ももはや花園へなかなか近づけず、なお高校日本代表に呼ばれたのだから能力は間違いなし。同志社大学に進んでも新人にして定位置をつかんだ。

 あらためて的をくり抜くタックルは美しいほど。地面の球への働きかけはハードかつ緻密だ。攻撃の位置取りやハンドリングも実に滑らかである。

 でも。しかし。日本代表のキャップを持たない。そこで、つい声をかけた。スエナガ・タケオ、ジャパンになっておかしくないのに。愚問どころか質問にもなっていない。

「もちろん選ばれたらそこで頑張りたい。ただ世代交代もあり、いい選手も出てきて、いまはなかなか厳しそうなのですが、それでも、こちら(リーグワン)ではそうした人たちに対しても絶対に負けないつもりでやっているので。よく言われることではありますが、このチームでできることをやり切るだけです」

 自分は小さいのだとあまり考えないほうがよい? 

「そう…ですね。気持ちで負けないことがいちばん大事です。まずフィジカルで負けない。そこを逃げるとずっとついてまわるので。小さいからといって、(タックルを)下にばかりいくのではなく、状況に合わせる」

 フラン・ルディケHC(ヘッドコーチ)は、巨人国の南アフリカでもさらにパワーとサイズにとどろくブルズを率いた。もともとは「小」に懐疑的ではなかったのか。

「入ったときは選手から『お前はスクラムハーフか』とからかわれたことはあります。細かったので。でもフランにはそういうところはありません。まあ自分でわかっていたので。まず1年目、2年目に体をつくり直しました」
 
 福岡高校1年はロック。2年がフランカー。3年でナンバー8。同志社では前述のとおり1年よりFW第3列で起用される。当たってよし。抜いてよし。ほとんど万能のごとき存在だった。歳月を刻んで、現在はもっぱら労働の質量で勝負する。
 スピアーズ入りに際して切り替えたのですよね? 

「それもあります。ただ膝のケガもあったので」

5歳で、かしいヤングラガーズへ。ビール好き。(撮影/松本かおり)


 同志社3年の秋の初戦で深い傷を負った。復帰は4年のシーズンの同じく開幕戦。もどかしい1年における熟慮や観察が結論を導く。 

「ボールキャリーより仕事で生きていくほうがいいかなと」

 ケガは意思を問う。応えた者は試練を踏み台に跳躍できる。古今東西の優れたアスリートのたどる道である。

 対ブラックラムズ。同僚のぶっとい腕や長く広い骨格が防御のチョーク(ボールごと抱えて身動きを奪う)に威力を発揮する。そこには登場しない背番号7はその前に職責を果たしている。強い。うまい。激しい。大きくはない。

 快勝の攻防。スピアーズの11番、根塚洸雅は際立っていた。どんなパスにも適応できる懐の深さや柔らかさが速さと削り合わない。一貫性で鳴るフィニッシャーに「他者(ひと)のことですみません」と断ってから教えてもらう。
 ともに芝に立つ立場から末永健雄のどこが優れている?   

「クボタは海外出身のFWが多い中で仕事量は健雄さんがいちばんだと思っています。あとシンプルに外国人が走ってきてもタックルの姿勢のような基礎がすごいので1対1で負けない。ジムでウエイト、めちゃやってるんで。ずっとクラブハウスに残って。ああいう地道なトレーニングが健雄さんをつくっているのでは。わかりませんけど」

 最後の「わかりませんけど」は後輩についてなら「知らんけど」か。そしてラグビーの現場では突き詰める者が突き詰める者を語るときに用いる。「そうに決まっている」という意味だ。


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