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1年前は、自分が福岡に暮らすことになるなんて頭の片隅にもなかった。
当時23歳だった若者の人生は、2024年に入って大きく動いた。
スペンサー・ジーンズは、「人生、何が起きるか分からないから、いまにベストを尽くす」と話す。
九州電力キューデンヴォルテクスでの2回目のシーズンがまもなく始まる。
12月21日、福岡・ベスト電器スタジアムでおこなわれる釜石シーウェイブス戦が2024-25シーズン(リーグワン ディビジョン2)の開幕戦だ。
ジーンズはその試合で9番のジャージーを着る。
昨季ヴォルテクスのスクラムハーフに怪我人が相次いだこともあり、シーズン中だった2月29日、チームはジーンズと契約を結んだことを発表した。
175センチ、82キロのハーフバックは、レギュラーシーズン2戦と順位決定戦の計3試合に出場しただけだったけれど、強烈な印象を残すパフォーマンスを見せた。
非常事態にスクラムハーフを急いで探したヴォルテクスにとっては、幸運な出会いだった。
2022年シーズンにスーパーラグビーのレッズと契約を結んだジーンズは、その年5戦に出場。すべて途中出場ではあったものの、2023年シーズンも新たに契約した。
しかし2季目は怪我もあってプレーできず。新しい活躍の場を探している途中に日本から声がかかった。
数名の候補者の中にジーンズの姿を見つけたヴォルテクスは、映像で見たプレーでピンときた。
オンライン面談で話した結果、その人柄にも惹かれた。当初提示した短期間契約にも、前向きで情熱が感じられたから契約がまとまった。
そんな経緯で来日して、いま2季目を目前に控えているのは、ジーンズ自身がピッチ上で、すぐに信頼を得たからだ。
僅かな試合数で欠かせぬ存在となった。
新シーズンは昨季と違い、プレシーズンからチームメートとともに準備を重ねて開幕を迎える。
「前シーズンは少ししかプレーしかできなかったので、フルで働ける今季が楽しみで仕方ない」と話す。
社員選手とプロ選手がともに活動し、同じ方向を向いているチームのことを気に入っている。
「お互いを尊重し合っているから、ファミリーのような雰囲気がある。それがラグビーでも、自分たちのカラーになっています」
日本のテンポのはやいラグビーへの対応は、特に自分のスタイルを変える必要はなかった。
「もともと速い展開が好きだし、パスにはプライドを持っている」からだ。キレのある動きでチームにモメンタムを与える。
ゴールドコースト・イーグルスというローカルクラブで5歳の時にラグビーを始めた。
高校はサウスポートスクールへ進学。地域の高校代表、オーストラリア高校代表に選出された。
高校卒業後はボンド大学で経営学を学び、同大学でプレー。活躍し、レッズのアカデミーを経てスーパーラグビーの舞台を踏んだ。
2022年2月5日のワラターズ戦でデビュー。テイト・マクダーモットからバトンを受けてピッチに立った。
そのシーズンはハイランダーズ戦にも出場し、同じポジションの選手として手本にするアーロン・スミスとのマッチアップもあった。
「僕が出場したあと、彼が数分後に交代したので僅かな時間でしたが、それでもプレーの精度や周囲への指示、ナレッジの深さを感じました」と回想する。
レッズがスーパーラグビーで優勝した2011年は11歳の少年だった。豪快に走るFWのランディケ・サモ、トライゲッターのディグビー・イオアネが好きだったという。
スクラムハーフではないポジションに目がいっていたのは、幼い頃はフランカーでプレーしていたからだ。
バックロー出身者だけに、「タックルには自信があります」とサラッと言う。
先におこなわれたスカイアクティブズ広島とのプレシーズンマッチ(12月7日)でも、コーナーギリギリでボールキャリアーを外へ出すトライセービングタックルを決めたシーンがあった。
ヴォルテクスらしいプレーを自然にやれる。
この1年を振り返り、「人生なにがあるか分からない。自分が日本でラグビーをプレーしているなんて、思ってもみなかった」と笑う。
レッズ在籍時、埼玉パナソニックワイルドナイツとの間で毎年実施されている2022年の「グローバルラグビーフェスタ」に出場するため来日した。日本のラグビースタイルやカルチャーが好きになったものの、その中で暮らすようになるとは。
「いまの生活を、この先も続けていけたら。そのためにも、ヴォルテクスでのプレーにフォーカスします」
目の前のことにベストを尽くす。そして、「いま自分がしていることを楽しむ」生き方を、これからも続ける。
来日直後の3か月間、ラグビー部の寮で生活し、チームメートに言葉やカルチャーを学んだ。
豚骨ラーメンが好き。オフの日には散策、ゴルフを楽しむ。独学に励む日本語も上達中。
練習中、「いきましょう!」と声を出してチームを盛り上げる。
国を問わず、スクラムハーフに大事なことは知っている。