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スペンサー・ジーンズ[九州電力キューデンヴォルテクス]◎日本好き。日本向き。
2000年10月19日、オーストラリアのゴールドコースト生まれ。175センチ、82キロ。(撮影/松本かおり)

スペンサー・ジーンズ[九州電力キューデンヴォルテクス]◎日本好き。日本向き。

田村一博

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 1年前は、自分が福岡に暮らすことになるなんて頭の片隅にもなかった。
 当時23歳だった若者の人生は、2024年に入って大きく動いた。

 スペンサー・ジーンズは、「人生、何が起きるか分からないから、いまにベストを尽くす」と話す。
 九州電力キューデンヴォルテクスでの2回目のシーズンがまもなく始まる。

 12月21日、福岡・ベスト電器スタジアムでおこなわれる釜石シーウェイブス戦が2024-25シーズン(リーグワン ディビジョン2)の開幕戦だ。
 ジーンズはその試合で9番のジャージーを着る。

 昨季ヴォルテクスのスクラムハーフに怪我人が相次いだこともあり、シーズン中だった2月29日、チームはジーンズと契約を結んだことを発表した。
 175センチ、82キロのハーフバックは、レギュラーシーズン2戦と順位決定戦の計3試合に出場しただけだったけれど、強烈な印象を残すパフォーマンスを見せた。

 非常事態にスクラムハーフを急いで探したヴォルテクスにとっては、幸運な出会いだった。

 2022年シーズンにスーパーラグビーのレッズと契約を結んだジーンズは、その年5戦に出場。すべて途中出場ではあったものの、2023年シーズンも新たに契約した。
 しかし2季目は怪我もあってプレーできず。新しい活躍の場を探している途中に日本から声がかかった。

ゴールドコーストの海辺のバーで働いていたこともある。(撮影/松本かおり)


 数名の候補者の中にジーンズの姿を見つけたヴォルテクスは、映像で見たプレーでピンときた。
 オンライン面談で話した結果、その人柄にも惹かれた。当初提示した短期間契約にも、前向きで情熱が感じられたから契約がまとまった。

 そんな経緯で来日して、いま2季目を目前に控えているのは、ジーンズ自身がピッチ上で、すぐに信頼を得たからだ。
 僅かな試合数で欠かせぬ存在となった。

 新シーズンは昨季と違い、プレシーズンからチームメートとともに準備を重ねて開幕を迎える。
「前シーズンは少ししかプレーしかできなかったので、フルで働ける今季が楽しみで仕方ない」と話す。

 社員選手とプロ選手がともに活動し、同じ方向を向いているチームのことを気に入っている。
「お互いを尊重し合っているから、ファミリーのような雰囲気がある。それがラグビーでも、自分たちのカラーになっています」

 日本のテンポのはやいラグビーへの対応は、特に自分のスタイルを変える必要はなかった。
「もともと速い展開が好きだし、パスにはプライドを持っている」からだ。キレのある動きでチームにモメンタムを与える。

 ゴールドコースト・イーグルスというローカルクラブで5歳の時にラグビーを始めた。
 高校はサウスポートスクールへ進学。地域の高校代表、オーストラリア高校代表に選出された。

 高校卒業後はボンド大学で経営学を学び、同大学でプレー。活躍し、レッズのアカデミーを経てスーパーラグビーの舞台を踏んだ。
 2022年2月5日のワラターズ戦でデビュー。テイト・マクダーモットからバトンを受けてピッチに立った。

 そのシーズンはハイランダーズ戦にも出場し、同じポジションの選手として手本にするアーロン・スミスとのマッチアップもあった。
「僕が出場したあと、彼が数分後に交代したので僅かな時間でしたが、それでもプレーの精度や周囲への指示、ナレッジの深さを感じました」と回想する。

 レッズがスーパーラグビーで優勝した2011年は11歳の少年だった。豪快に走るFWのランディケ・サモ、トライゲッターのディグビー・イオアネが好きだったという。
 スクラムハーフではないポジションに目がいっていたのは、幼い頃はフランカーでプレーしていたからだ。

 バックロー出身者だけに、「タックルには自信があります」とサラッと言う。
 先におこなわれたスカイアクティブズ広島とのプレシーズンマッチ(12月7日)でも、コーナーギリギリでボールキャリアーを外へ出すトライセービングタックルを決めたシーンがあった。
 ヴォルテクスらしいプレーを自然にやれる。

昨季はディビジョン2で5位だったチームを引き上げたい。(撮影/松本かおり)


 この1年を振り返り、「人生なにがあるか分からない。自分が日本でラグビーをプレーしているなんて、思ってもみなかった」と笑う。

 レッズ在籍時、埼玉パナソニックワイルドナイツとの間で毎年実施されている2022年の「グローバルラグビーフェスタ」に出場するため来日した。日本のラグビースタイルやカルチャーが好きになったものの、その中で暮らすようになるとは。

「いまの生活を、この先も続けていけたら。そのためにも、ヴォルテクスでのプレーにフォーカスします」
 目の前のことにベストを尽くす。そして、「いま自分がしていることを楽しむ」生き方を、これからも続ける。

 来日直後の3か月間、ラグビー部の寮で生活し、チームメートに言葉やカルチャーを学んだ。
 豚骨ラーメンが好き。オフの日には散策、ゴルフを楽しむ。独学に励む日本語も上達中。

 練習中、「いきましょう!」と声を出してチームを盛り上げる。
 国を問わず、スクラムハーフに大事なことは知っている。


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