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服部亮太[早大1年]◎10番で勝つ。
早稲田大学スポーツ科学部に学ぶ。178センチ、80キロ。(撮影/松本かおり)

服部亮太[早大1年]◎10番で勝つ。

田村一博

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 右足がボールにヒットした時の音が、他の選手と違うと感じるのは気のせいか。
 青空に吸い込まれるハイパント。ひと伸びするキック。赤黒のジャージーを前に出す司令塔だ。

 早大の背番号10を1年生の服部亮太がつかんでいる。
 11月3日(日)に秩父宮ラグビー場でおこなわれる関東大学対抗戦の帝京大戦でもスタンドオフで先発する。

 ルーキーイヤーの今季、チームが戦った3試合のすべてに出場。デビュー戦となった立教大戦こそ途中出場も、直近の2試合には先発している。
 距離の出るキックと長短のパス、そしてランを織り交ぜるプレースタイルで存在感を高めている。

 帝京大戦は10月12日に戦った青学大戦以来の試合だ。
 太田(群馬)での一戦で服部は、70分間ピッチに立ち、チームの力を引き出した。キックを巧みに使いながらゲームを作り、チームは10トライを奪った。

 そのうちの2トライは自ら挙げたものだった。
 後半9分、スクラムからの1次攻撃で巧みなパスを出してチャンスを広げた。その後、自ら仕留めた。ラックから出た3次攻撃のボールを受けると、FWの後方から巧みなコースを走り、インゴールに飛び込んだ。

 2つめのトライは後半16分。きっかけは、自陣深い地点でのターンオーバーだった。FB矢崎由高がPKから速攻を仕掛け、ハーフウェイライン手前まで前進。そこでできたラックから出たボールを受けた服部は、スピードにのった走りでディフェンダーを抜き去り、ステップを踏んでトライラインを越えた。

センター分けの髪型は、4年生のSH細矢聖樹にカットしてもらっている。(撮影/松本かおり)


 ジャッカルで相手ボールを奪い取ったのも服部。そこで安心せず、すぐに次のプレーについていったから生まれたトライだった。
 センスとハードワークの両方が感じられる一連のプレーだった。

 最終的に67-0と早大が大勝したその試合後、若き司令塔は「キックにフォーカスして臨んだ試合で、そこがうまくいきました。よかった」と笑顔を見せた。

 12番の野中健吾と連係を取りながら、機能的に動けた試合でもあった。「うまくコミュニケーョンをとりながらプレーできたと思います」と手応えを話す。
 ダブルSO。状況によってどちらがファーストレシーバーとなるか分からないから相手も的を絞りにくい。「臨機応変にプレーできました」。

 自らの2トライは、広く視野を持ってプレーしたから生まれた。「前を見て、空いていたら走る」と積極性を見せながらプレーするから、防御側にとっては厄介だ。
 決断力がある。 

 佐賀工業高校出身。2人いる兄たちと、北九州市(福岡)で活動している帆柱ヤングラガーズに入ったのは小学校入学前だった。
 次男の莞太さんは、現在、関東学院大の4年生でSH。その人が佐賀工に進学したから、自分も続いた。

「練習に参加させてもらった時に感じた雰囲気や、スキル指導に触れていいな、と」決断したのは正解だった。
 3年時は夏の全国高校セブンズで日本一となり、花園でもベスト4に進出。多くのものを得た3年間となった。

 高校時代はキャプテンではなかったものの、中心選手として周囲に影響を与えていた。最後の花園前、全国制覇を目指す司令塔は「日本一を獲るために日本一の練習をする」と言って、周囲の選手たちに的確な言葉をかけていた。

「自分ひとりでやろうとしないことが大事」と話す服部に、ストレートな言葉を口にする理由を尋ねると、「それで違う意見が返ってきたら、よりチームがよくなるので」と答えた。

 当時、アイルランド代表のキャプテンでSOのジョナサン・セクストンのプレースタイルは参考になると話していた。
「味方を生かすために60〜70パーセントの速さでプレーし、相手を抜くときは100パーセントのスピード」
 その緩急が勉強になると話した。

高校日本代表としてイタリア遠征の経験もある。FBでプレーした。(撮影/松本かおり)


 高校入学時は小柄だったが、2年時の1年間でいっきに15センチほど身長が伸びた(現在178センチ)。そのタイミングで、キックの距離も長くなったという。
 下級生との日々のキック練習も実り、いまがある。

 早大入学後、リハビリ期間にスピードトレやフィジカル強化に取り組んで、強度の高い大学ラグビーでプレーするための土台を作った。
 栄養面にも気を配り、体重は入学時より3キロ増。接点に強い帝京大との試合で積み上げてきたものが通用するか否か注目される。

 大田尾竜彦監督は、高校、大学の先輩でポジションも同じ。10番視点でのアドバイスをもらうことが多いという。
「例えば、9番と10番の距離。高校時代より長くした方がいいなど、立ち位置など細かなところまで言ってもらえます」

 パスのスピードや長さについての考えも伝えられる。求められている基準が分かるから、やるべきことの方向性も明確になる。
 日本代表で経験値を高める、FB矢崎由高からも、防御時のポジショニングなどについてアドバイスを受け、「チーム的にも個人的にも刺激になっています」と話す。

「矢崎さんはスピードがあるから、パスやキックひとつで(防御を)切ることができる」と話す一方で、その頼りになる先輩がチームを離れる時期がこの先にあったとしても、「局面を打開していけるアタックをできるようにしないといけない」。
 要のポジションを任されている自覚がある。

 U20代表や日本代表は自身の描く未来のなかにあるけれど、「まず目の前の大学ラグビーでしっかり結果を残して、それから」と急がない。

 シーズンが深まると、ここまでの3戦とは違う圧力下でのプレーが当たり前となる。
 濃密な時間を1月13日まで続けられたなら、さらにスケールの大きくなった自分と会える。




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