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矢崎由高[日本代表/早大2年]◎怖いぐらいの未来。
やざき・よしたか/2004年5月12日生まれ。180センチ、86キロ。FB、WTB。高槻ラグビースクール(4歳/幼小)→吹田ラグビースクール(中)→桐蔭学園高校→早稲田大学2年。日本代表(キャップ3)。ジャパンXV、U20日本代表、高校日本代表。(撮影/松本かおり)

矢崎由高[日本代表/早大2年]◎怖いぐらいの未来。

田村一博


 ハタチで、いきなりテストマッチ。
 本当に大丈夫か。
 そんな心配は、すぐに次の試合でも見てみたい、に変わった。

 矢崎由高(早大2年)の、初めての日本代表でのシーズンが終わった。
 サマーキャンペーンと言われる5試合で、3つのテストマッチ(イングランド、ジョージア、イタリア)とマオリ・オールブラックスとの2試合(ジャパンXVとして対戦)、チームが戦った5戦すべてに15番を背負って出場した。

 初キャップだったイングランド戦こそ55分でピッチから出たものの、他の4戦はフルタイムでプレーした。
 チームを率いるエディー・ジョーンズ ヘッドコーチは矢崎に関して、「未来が怖いぐらい」という表現で、才能と将来性に期待を寄せる。
「30キャップ、40キャップ重ねる可能性がある」とした。

 この春に大学2年生になったばかりの好ランナーは、7月21日に札幌でおこなわれたイタリア戦を終えて「1 週間、いい準備ができたと思います。それが、勝ちにつながらなかった。悔しいです」と、14-42と完敗した悔しさを滲ませた。

「(相手)9番、10番からの高いキックが多くなるのは予想していました。前半の最初に1本落としましたが、そのあとは処理できた場面が多かった」と自身のパフォーマンスを振り返り、チームの掲げる超速ラグビーを遂行できなかった理由を「フィジカル面で圧力を受け、ブレイクダウンでプレッシャーを感じました」と話した。

 日本代表の枠の中で過ごした初めての日々を振り返り、「レベルの高いたくさんの(日本代表の)選手たち、また、レベルの高い相手からいろんなことを学べました」。
「いい5連戦だったと思います」と充実した表情を見せた。

 6月6日から始まった宮崎合宿には当初、日本代表の『練習生』として招集された。
 能力の高さは以前から広く知られている。花園(桐蔭学園/高1、2)でも、U20代表として南アフリカの地で戦った1年前の国際舞台(U20チャンピオンシップ)でも、大学ラグビー(早大)でも、その才能は際立っていた。

 今年に入ってもU20日本代表候補として合宿に参加し、その強化の過程として、ジャパンXVとしてパシフィックチャレンジへ。サモア、フィジー、トンガとの3戦すべてに出場し、全戦でトライも奪った。
 同年代とのステージで輝き続ける若者を、ジョーンズHCは迷わず高いレベルの中に放り込んだ。

 矢崎自身、宮崎合宿に加わったばかりの頃の体感を、「新しい環境っていうこともあり、フィジカル的にも精神的にも戸惑う部分がありました」と話す。
 しかし馴染む力も高い。年上の選手たちのサポートもあり、「(やがて)安定して過ごせるようになった」という。
 特にコミュニケーションの大切さを学び、伸ばした感覚がある。

 向上心の高い若者にとって、いきなり巡ってきたインターナショナルラグビーの舞台は、刺激の山だった。
 超速ラグビーで序盤は戦えても、最終的には負けてしまう展開を5戦中4戦で経験したことも自身の成長の糧にする。
「きょう(イタリア戦)も結果はスコアが開きましたが、後半はテリトリー、ポゼッションとも上げることができた。(前戦の)ジョージア戦でもそうでしたが、最後のフィニッシュ、スコアの仕方をまだ研ぎ澄ますことができていない」と話し、「これからの遠征で、(そこを)高めていけたら、と思っています」と続けた。

 遠征とは、パシフィックネーションズカップへの参加を指すのか問うと、「まだ決まっていません」と言い、今回の代表活動後は早大ラグビー部に戻って夏を過ごすのか、8月中旬から始まるであろう次回の日本代表活動に加わるのかは、明言を避けた。

イタリア戦後は相手FBのアンジュ・カプオッツォとジャージーを交換した。「キックカウンターから走られたプレーもありました。何枚も上手だな、と。それを感じられたのはよかった」。(撮影/松本かおり)

 代表活動を続けていけば、スピードを落とすことなく進化し続けられるのは分かっている。
 1か月半過ごしただけでも、最初は戸惑っていたレベルの中で、少しずつ余裕を持てるようになってきた。

「これまで経験してきたラグビーより高いレベルの中で、こういう場面では次にこういうことが想定されるとか、自分の中の選択肢がすごく増えてきた感じがします」
 ボールを持っている時以外の時間の重要性をあらためて知り、試合の見え方が変わった。

 世界の強豪に体をぶつけた体感は未来につながる宝物だ。
 フィジカル面や一つひとつのスキル、 ディシジョンの正確性がまだまだ自分に足りないと感じ、「その部分は、どんなカテゴリーでも自分にフォーカスできる。(日常的に)レベルアップしていきたい」とする。

 一方で、「自分のランやスピードがこの 5 戦で、少なからず通用した。それは自信になったし、これからもそこを伸ばしていけたら、さらに自分は(相手に対しての)脅威になれるのかな、とは思います」。

 何も通用しないと思っていたのに、いまの自分でも戦える領域があること、どこをより高めていくべきか、明確さが増した。
 そして、「(ピッチの中でも外でも)考え方など、そういうところがすごく伸びました」。
「数値化できないところ」の変化が起きていることも大きい。

 止まらない進化に、大学シーンから早く次のステージに向かいたいと思わないかと質問が出る。
「え、それは、早稲田を辞めろ、ってことですか」とジョークで返し、言葉を続けた。

「代表活動期間中は目の前のことしか考えていませんでした。が、今後のことを考えるなら石丸さん(伸二/東京都知事選出馬)ではないですが、(海外挑戦など)可能性としてはすべてあります」と言って周囲を笑わせた。

「もちろん高いレベルに身を置くことは自分にとってはいいと思います。でも、大学ラグビーのレベルが低いか、って言われると、全然そんなことはない。僕が去年(昨季)、100対 0ぐらいのスコアで大学選手権優勝しているとなれば話は変わってきますが、そういうわけでもないので」

 サマーキャンペーンの総括会見でジョーンズHCは矢崎について、「テストマッチ3 試合を経験し、状況判断のスキルはとても伸びた」と評価し、取り組む姿勢についても愛でた。

「試合のあと、すぐに自分のところに来て、どうすればもっとうまくなれますか、と必ず聞きに来てくれます」

 同HCは早大に戻ってからも、テストマッチプレーヤーとしてのトレーニングとプレーをし続けることの重要性を本人に伝えている。

 高いスタンダードを維持し続けることが、早大と大学ラグビーのレベルを引き上げ、それが未来の日本ラグビーの進化につながると考えるからだ。

 次にパフォーマンスを見る時、矢崎が着ているのは、赤白のジャージーか赤黒か。
 いずれにしても、次の試合を早くみたい、と思わせるプレーをすることに疑いはない。

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