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桑野詠真[日本代表/静岡ブルーレヴズ]◎自分をプッシュ。
くわの・えいしん◎1994年10月11日生まれ。193㎝、112㎏。LO。筑紫高校→早稲田大学→ヤマハ発動機ジュビロ/静岡ブルーレヴズ(2017年〜)。日本代表、ジュニア・ジャパン、U20日本代表、U19日本代表、高校日本代表、九州代表。(撮影/松本かおり)

桑野詠真[日本代表/静岡ブルーレヴズ]◎自分をプッシュ。

田村一博


 きつい。練習のハードさは、試合の3割、4割増しの感覚だ。
 だから、試合中にもう一歩が出るようになった。
 そう話す桑野詠真の表情が明るい。

 静岡ブルーレヴズのLOは、この10月で30歳になる。
 学生時代(福岡・筑紫→早大)は高校日本代表や年代別代表、ジュニア・ジャパンへの選出経験もあるけれど、卒業してから日本代表と名のつくものに招集されたのは今回が初めてだ。ヘトヘトになるも、自分の成長を感じる毎日を過ごしている。

 6月29日に東京・秩父宮ラグビー場、7月6日に愛知・トヨタスタジアムでおこなわれたマオリ・オールブラックス戦には、2試合ともフル出場を果たした。
 JAPAN XVの4番として、計160分、体を張り続けた。

 日本ラグビーが初めてマオリ代表から勝利を挙げた豊田での試合では、暑さの中で動き続けた。
 ただ前半に2度、相手にターンオーバーを許したシーンについて言及し、「相手がそこに力を入れてくると分かっていたのに」と、悔しさを隠さなかった。

「でも、ラインアウトでは相手ボールの時にプレッシャーをかけられたし、攻撃ではモールを押し切れたものがありました」
 コーラーとして、空中戦で結果を残せたことには手応えを感じた。

 5月20日から始まった「15人制男子トレーニングスコッド菅平合宿」に呼ばれた後、エディー・ジョーンズ体制下での日本代表関連活動のすべてに参加している。
 6月5日開始の宮崎合宿には当初は日本代表のバックアップメンバーとして参加も、その後、日本代表スコッドに加えられた。

 1回の練習ごとに成長し続けるんだ。
 常にそう声をかけてくれるエディー・ジョーンズ ヘッドコーチの言葉を肝に銘じてハードワークを続けていたら、「その賜物というのか、やったことがパフォーマンスに表れ、頭で考えるより体が動くようになりました」と話す。

「エディーさんは、もっとタフに練習すれば、もっともっと伸びると言ってくれます」
 世界の誰よりもハードに動けるLOになれる。そう繰り返し言われると、その気になる。エナジーが湧き出る。

「もうすぐ30(歳)でキャップもない。自分の成長できる幅をなんとなく分かっているような気になっていたかもしれません。それをエディーさんが取っ払ってくれた」

 日本代表になりたい。そんな意欲の火は胸の中にあった。
 それが、世界的指導者のアプローチにより、さらに大きく燃え上がっている。

マオリ・オールブラックス相手に勝利。酷暑の中、ハードにプレーした。(撮影/松本かおり)

 リーグワンでブルーレヴズを勝たせたい。そのために、目の前のことに集中。1日、1週間、1か月のプランを立て、やり切ることを心がけてきた。
 日本代表に選ばれる、選ばれないは、自分ではどうしようもないから、自らコントロールできることにベストを尽くす。そういう思考はもともと持っていた。

 その力が、ジョーンズHCというメンターと触れ合ったことでさらに伸びた。
 結果、「やれることを精一杯やっていたら(日本代表に)選ばれた」感覚だ。

 レベルの高いグループの中に身を置いて感じる変化は、「きつい時に自分をプッシュできるようになった」ことだ。

「練習がきつすぎて、気が飛びそうになる時があります。そんなときエディーさんが練習を止め、『自分で自分自身をプッシュしろ。それが(世界の)トップ 4 に到達するための道のりだ』と言ってくれる」

 その言葉を聞いて、もう一歩前へ出る。限界の先へ。
 それこそが成長なのだ。

 人が驚くような超速ラグビーをやるぞ。世界の4強へ。
 指揮官の言葉に、いつもワクワクしている。
「いくらでも成長できる場所にいられることが、本当に幸せです」

 世界一のハードワーカーになるために意識しているのは、攻守ともにプレーの連続だ。
 ひとつのプレーで終わらず、すぐに次へ。『ゴールデンエフォート』と言われる動きの回数を増やしたい。

「ロックの仕事で言えば、15メートルライン間のミドルの地域で、(ブレイクダウンなどで)どれだけハードに働けるかを追求しています。ディフェンスでも、タックルして、すぐにまたタックル、です」

 大学時代から毎日、ラグビーノートをつけている。
 書く内容は以前と比べて少しずつ変化。リーグワン2023-24から日本代表活動にかけての最近は、週のはじめにチームとしてやるべきこと、自分がやるべきことをリストにして書き込むことから始める。

「1週間、日別に個人トレーニングの計画を立て、トレーニングを実行します。トレーニングプラン以外にも、ミーティングで誰が何を言ったのか、練習中の自分の感情、試合へのマインドセットなどを書いています」

 宮崎合宿への参加が決まった時、最初の2週間はリーチ マイケルと同部屋になった。
 そこで見たのが、毎夜机に向かい、ノートに何かを書き込むリーダーの姿だった。

 すでに確固たる地位を築いている人がどんなことを書き込んでいるのか知りたくて、ノートのとり方など、いろいろ本人に質問した。

「リーチさんレベルの人が、誰よりも細かく計画を立て、それを実行し続けている。自分も、そのスタンダードで毎日を過ごそうと思いました」

 ラグビーのこと、シーズン中の過ごし方、マインドセットやプレーの話。すべての話がためになった。
「何を聞いてもオープンに答えてくれました。ものすごく勉強になった。あの時間がとてもプラスになり、いまの状態にあると思います」

 4年前、左膝の前十字靭帯を断裂した時、ラグビー人生の終わりを考えた。
「いつどうなるか分からない。突然ラグビーができなくなっても後悔しないように毎日を過ごそうと決めました」

 いま、取り組んでいるラグビーが楽しくて、成長の階段を昇り続けられることが面白くて、日々、自然と出し切ることが当たり前になっている自分がいる。



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