logo
伊藤龍之介[U20日本代表]◎考える癖。そして自信を持って自由に。
いとう・りゅうのすけ/2004年11月20日生まれ。170cm、76kg。SO。藤沢ラグビースクール(3歳から中学まで)→國學院栃木→明大2年(商学部)。高校日本代表。(撮影/松本かおり)

伊藤龍之介[U20日本代表]◎考える癖。そして自信を持って自由に。

田村一博


 宣言通りに最初からギアを上げた。
 7月2日にワールドラグビーU20トロフィ―の初戦を戦ったU20日本代表は、105-20の大差でU20香港代表を破った。

 大会が開かれるスコットランドへ向かう前、SO伊藤龍之介は、「相手どうこうでなく、最初の20分にコスモアタック。半年近くかけて積み上げてきた自分たちのスタイルを出すことが大事」と話していた。

 コスモアタックとは、日本代表が掲げる「超速」を超える意識でプレーする攻撃のこと。
 実際、香港戦では前半21分までに5トライを挙げてチームはモメンタムを得る。最終的に17トライを挙げた。

 前半30分前後に相手に2トライを許すなど、計3トライを奪われた点は、次のサモア戦までに直さなければいけない課題だ。
 しかしマストウィンの大会で滑らかなすべり出しを見せ、チームは落ち着いただろう。U20チャンピオンシップ昇格へ、加速したい。

 後半10分までピッチに立った司令塔の伊藤は、今後もチームの舵を取る重要な存在だ。
 170センチ、76キロの明治大学2年生。今回の大会へ向けての準備の中では、常にBKラインを引っ張ってきた。

 4月にJAPAN XVとして参加したパシフィック・チャレンジでの3試合すべてに10番のジャージーを着て出場した。
 6月には、宮崎で合宿中だった日本代表との練習試合も経験。強い圧力の中でチームをどうコントロールするのか、自身が得意とする領域をさらに磨いてきた。

 日本代表と対峙した時に感じたのは、試合中のトークの量だった。特に自分のトイメン周辺に立つ人たちは、周囲へ、質の高い指示を絶え間なく発していた。
 U20代表のチームメートについて、「みんなアタックセンスが高い」と言う。

「(空いている)スペースが見えている選手ばかりなので、自分の役割としては、みんなが余裕を持ってプレーできるようにはやく判断し、ボールを、思ったところに運び切れるようにすることです」
 そんな意識を持って準備を進めてきた。

 小柄な体で国際舞台を戦う際に意識しているのは、広い視野を持ってプレー。強引にコンタクトはしない。状況に応じて、持っているオプションを使い分けることだ。

「大学レベルでは自分で走ることもありますが、海外勢が相手になると、この体で無理なコンタクトをするとターンオーバーされます。相手のレベルが高くなると、1試合の中で自分の前が空くのは1回か2回だけ。走るのはその時だけ。エリアと時間を考えながら、キックも含め、ボールを運ぶべきところに運ぶようにしています」

 パワーやサイズで上回る相手にどう伍していくのか。それは、長く考え続けていることだ。
 國學院栃木高校時代は花園準優勝。3年時は高校日本代表にも選ばれた。自分の生きる道を理解しているからこそ手に入れた結果だろう。

遠征前の合宿では、練習メニューに採り入れられたサッカーでも巧みにプレー。「球技はなんでも得意なんです。野球以外は。打てない」。(撮影/松本かおり)

「パスやキックの精度、コミュケーション能力は、もっとレベルを上げていける。自分が大きい人たちに勝てる部分は、そのあたり。(試合中に)たくさん喋ったり、分析のこととか、これからもっと磨いていきたいと思っています」

 藤沢ラグビースクール出身。自分のことやプレーについてたくさん言葉にできるのは、少年時代に原点がある。

「中瀬亮誠(桐蔭学園→明大)とは小学生の頃から一緒にラグビーをしていました。彼のお父さん(真広さん/元U20代表ヘッドコーチ)からいつも、考えろ、と言われていました。この練習をどうしてするのか。このプレーは、どう判断したのか。その癖がついているので、頭の中にあることを言葉にできるのだと思います」

 人を抜くランニングセンスも高い。こちらに関しては、幼い頃、兄・耕太郎(リコーブラックラムズ東京)と家の前の幅の狭い道路で抜き合いをやっていたのが原点だ。
 そして、自由を認めてくれる大人に囲まれたのも大きかった。

「ラグビーパーク(平日の放課後ラグビー教室)にも行っていたのですが、そこで川合レオさん(同代表で指導者)に、自由にプレーし、形にとらわれなくていいんだ、と教わりました。いける、と思ったら自信を持って走ればいいんだ、と」

 そんな下地がある上でプレーするレベルが高まっていっているから、硬軟織り交ぜたオプションを持つ、バランスのいい選手として育っている。
 ジャパンタレントスコッドにも名を連ね、継続的にハイレベルな指導と刺激を受けられる環境に身を置ける。

「日本代表になりたい気持ちは以前からありました。最近は、その近くで活動できているので現実味が増してきています」と笑顔になる。

 いま目指しているのは、東芝ブレイブルーパス東京のリッチー・モウンガのような10番。
「ボールタッチするたびにチームを前に出す。たくさん喋って全体をコントロールしています」と、自分が描く理想の司令塔像と重なっている。

 長い準備期間をともに過ごしてきたU20代表のチームメートとは、すでに距離の近い仲間になっている。
「最初のうちはみんな、コーチの言うことを聞いて動き、喋る選手も一部に限られていましたが、いまはいろんな選手が発言し、お互いの理解度が進んでいます。それで細かいところがどんどん良くなった」

 チームの熟成は、始まったばかりの大会が進んでいく中で、さらに高まっていくだろう。
 その集団を勝利に導き続けるのが自分の役目と分かっている。考えながら動く。自信を持ってプレーする。大舞台ほど、シンプルなことが大事とあらためて知る日々になる。

ワールドラグビーU20トロフィーの初戦、対香港は105-20の大勝だった。写真は伊藤利江人。(©︎JRFU)


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら