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「リーダーって、チームをより良く変えたい人、と訳せると思う」 原田衛[日本代表/東芝ブレイブルーパス東京]
PROFILE◎はらだ・まもる/1999年4月15日生まれ。兵庫県出身。175センチ、101キロ。ポジション=HO。伊丹ラグビースクール(小1)→桐蔭学園中学校→桐蔭学園高校→慶應義塾大学→東芝ブレイブルーパス東京(2022〜)。ジュニア・ジャパン、U20日本代表、高校日本代表。(撮影/松本かおり)

「リーダーって、チームをより良く変えたい人、と訳せると思う」 原田衛[日本代表/東芝ブレイブルーパス東京]

田村一博


 言葉は多くないけれど、一つひとつが本心だ。
 目の前の原田衛(まもる)は、静かに喜び、燃えていた。

 リーグワンで優勝した東芝ブレイブルーパス東京の2番として大車輪の活躍だった。
 リーチ マイケル主将が怪我で離脱している時にはゲームキャプテンを務めた。試合でも練習でもチームの真ん中にいた。

 優勝の喜びに浸る間もなく、赤いジャージーを代表チームの練習ジャージーに着替えて動き続けている。
 5月30日に発表された日本代表に名を連ねた。6月6日から始まった宮崎での合宿に参加中だ。

 リーグワン優勝。そして、代表招集。欲しかったものを手に入れて、充実しているように見える。
 そんな声に、「準備してきたことが結果として表れています」と答える。

「去年から毎日、日記をつけています。今度のイングランド戦をターゲットに、 1 年間、ずっと練習をしてきました」

 2023年4月18日から日記をつけ始めた。
 読んでいた本の影響を受け、取り組むことにした。リーグワン2022-2023のレギュラーシーズン、ワイルドナイツ戦への準備を進める週だった。

 1年後の目標を定め、週ごとに自分の計画を立てる。月ごとの目標設定も、ときどき。
 何をターゲットに定めようか。そう考えた時、2024年6月22日にイングランドとのテストマッチがあるではないか。
 その試合に出て、勝つ。年間ターゲットを、そう決めた。

 定めた目標を実現するにはどうすべきか。
「そのためには、まず自分がリーグワンで活躍しないといけない。その結果日本代表に選ばれるならチームが上位にいないと選ばれる可能性も少なくなる。優勝するのがいちばん。そうやって達成すべきことが決まり、そのためにやらないといけないことが決まりました」

 すぐに軌道に乗ったわけではなかった。
「最初のうちは、1 週間の目標を明確に入れていたわけではありません。ただ続けていたら、毎日の振り返りだったり、次の日の予定の立て方が細かくなっていった。その結果が、自信にもつながったのかな、と思います」

 立てた目標の中のひとつに、リーグの「ベストフィフティーンに選ばれる」を入れた。
 それなら日本代表にも近くなる。それに加え、チームの優勝もあれば文句なしだろう。

 しかし優勝となると、自分ひとりではなく、チームメートにも同じ意識を持ってもらうことが重要だ。
 そのためにも、「自分が変わる。自分にフォーカスすることから始めました」。

「例えばウエートの数値を上げる。体力測定の数値も。まずは、そこからです」
 そう意識して高いスタンダードを持ち、トレーニングを続けた。

 結果、ブロンコテスト(持久力を測定するテスト)でチームのFWの中のトップになった。
 もともとトップだったと言ってしまえばそれまでだが、数値がより高まったところに進化の足跡がある。意識改革と肉体改革が同時進行で進んだ。

「人のことは変えられない」
 そう考えた。「自分がどんどん基準値を上げていけば、全員が強くなる」という影響の与え方を実践した。
 チームでは副将のほか、セットプレーの安定とアタックリーダーを任されていた。

 シーズン途中、リーチ主将が怪我で試合から離れた時は、代わりに練習でも試合でも、ハドルの中で話した。
 決して大変だったとか、きつかったとは言わない。しかし、「戻って来た時にはラクになった」と、背負っていたものの重さを表現する。

 振り返ってみれば、チームのことを考え過ぎたこともあった。
 そんな時期を経て、「開き直り、自分のやれることをやろう」となった。
「セットとアタック。自分の役割にフォーカスし、ほかは、他のリーダーに任せました」

 シーズン中の会見時、「外国人選手も多いので、その人たちの目を向かせるためにも英語も交えて話します」と言っていた。
「はい。試合中の円陣には通訳もいませんから、ジャパニーズイングリッシュなどを使いました」

 周囲から、語学力を高めることにも注力していることも聞こえてくる。ハドルの中で、外国人選手の言葉を訳し、みんなに伝えることもあった。

 気を張ってみんなの前で話し続けたけれど、根底にあるのは、「あまり喋らない」ことだ。
 言葉に重みを。
 本当に思っていることだけを口にすることを大事にした。

 発信力について、こう考える。
「自分の意思を伝える、って簡単じゃない。それは、自分の行動だったり、自分のプレーで決まると思います。圧倒的な行動力というかそれだけのプレーがあれば、口数は少なくても、言葉に説得力が出る」

「リーダー」という言葉について、「僕的には、チームを変えたい、チームを目標に向けて持っていく人、と訳すことができると思っています」と独特の表現で考えを伝える。

 そして自身のことを、「チームをよくしたい、よりよく変えたい、という強い意欲は、たぶん誰よりもある」と言った。
「かといって、自分からリーダーになりたいわけではない」と言いながらも、学生時代から所属チームで主将を任されてきたのは、そんな理由からだろう。

 今回の日本代表は、リーダーを立候補制にしている。原田もそこに手を挙げた。
「日本代表をもっと強くしたい、という気持ちが当然あるので」
 初招集でも、その思いは変わらない。「チームを変えたい、と言うなら、自分の言動も変わってくると思います」と責任も感じている。

学ぶことの多い、日本代表での時間。新しい知識を頭に加え続けている。(撮影/松本かおり)

いつも、練習やプレーの意図を理解して動いている。

 日本代表では、U20代表候補や代表内での試合形式の練習で、目立ったパフォーマンスを見せている。
 特に印象的な動きは、ボールキャリアーが相手と接触した瞬間に寄り、ボールを確保。そのまま狭いスペースを切り裂いて前へ出るプレーだ。
 ブレイブルーパスでも実践していたパフォーマンスを、そのまま再現できている。

 自チームではアタックリーダーを務めている。攻撃全体をオーガナイズする立場だから、ブレイブルーパスの攻めを深く理解している分、反応良く動けるのは確かだろう。

 それに加え、「ハンドリングなど、基本的なトレーニングをシーズン中も個人的に継続してやってきた結果が出ていると思う」と話す。

 日本代表でも戸惑うことなく対応できることについて、本人は「チームがやろうとしていることを理解する能力はあると思います」と言う。

 チームのやりたいことはなんなのか。なぜ、そうするのか。そのために自分はどうすべきなのか。
 それらをすぐに理解し、自分の中で変換し、行動に移す。

 それは、高校時代についた良い癖だ。
「桐蔭の時は、先生(藤原監督)から提示されたことについて自分たちで練習メニューを作っていました。そのためには、そもそものプレーの意図を理解しないといけない。そういうことを繰り返しましたから」

 日本代表での活動について、レベルの高い指導陣、選手たちが揃っている中に身を置いていることが楽しいと頬を緩める。
 ボールのもらい方ひとつにしても、チームには細部にこだわりがある。「例えば、ブレイクダウンから出たボールの受け方。自分が動き始めた中でキャッチすることを徹底されます。相手を動かす」

 ラインアウト専門のヴィクター・マットフィールド、現役スクラメイジャーのオーウェン・フランクスといったビッグネームのスポットコーチから受ける刺激もある。
「あれだけ高いレベルの人でも、鏡の前で、自分のセットアップを確認する。常にそういう姿勢でいると知ったこと自体がプラスです」

 日本代表は、そこにいる全員が当然試合に出る意欲が強い。その意識の高さに感心するし、自分がその中にいることが心地いい。
 自分を高めてくれる環境であることは間違いない。

 少年時代から好きだったブレイブルーパスに加入し、自分たちでチームを再び王者にした。
 応援しているチームに入ることだけでもなかなか叶わないのに、そこで優勝。「だいぶ幸せです」と相好を崩す。

 日本代表にも幼い頃から憧れていた。「でも、ただそう思っていただけで、実際に意識でき始めたのは大学の時、リーグワンのチームに誘われた頃からです。強いところで活躍したら、そうなれるのかなぁ、と」

 昨年プロに転向。そうなって初めてのシーズンに優勝できた。
 ファイナルでワイルドナイツに勝てた理由を、「うちはレギュラーシーズンで接戦が多かった。完勝の多かった相手と違い、その経験が大きかったのかな」と言う。

 第14節、最終的に11位だった三重ホンダヒートと戦って8-7の辛勝。レギュラーシーズンだけで7点差以内の勝利が6つあり、引き分けもあった。
「他のチームから見ると、うちはキッチリしていないように感じると思いますが、そこが僕たちらしいところ」

「こんなにはやく優勝できるとは思っていなかった」と言い、ふたたび頂点に立つのは「今回より厳しくなるはず」と覚悟する。
 だから、完璧ではないという自分たちのカラーがなくなることはないと思うけれど、「来シーズンはアタックもディフェンスも、もっと破壊力を増したい」と言う。

「SOリッチー・モウンガ、FL/NO8シャノン・フリゼル、2人のお陰」という声に反論を頼むと、「いや、その通り。彼らが僕らに安心と自信を与えてくれたから勝てた」と素直に認める。

 イングランド戦を1週間後に控えた6月15日、「自分でその試合で勝つことを目標と決め、準備して、近いところまで来られた。自分の力で掴み取りたいですね」と話した。
 この1年を締めくくる日記のページに、目標達成と書き込むことはできるだろうか。

「来年の試合(テストマッチ)スケジュール、まだ発表されていないんですよね。計画が立てられない」と笑顔で言えるのは、その空間にずっといたいし、いられるだけのことをする信念があるからだ。

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