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スコットランドで燃やした情熱の炎は韓国へと繋がっていた。
3月初旬。日本に帰国するまで1か月を切っていたある日、予想もしないタイミングで、一本の電話が鳴った。
「韓国で一緒にラグビーせえへんか? ──チームに火をつけてほしいねん」
声の主は、呉英吉(オ・ヨンギル) 氏。
大阪朝鮮高校ラグビー部を全国トップレベルに導いた名将であり、日本ラグビー界では「オ先生」として知られる人物だ。
現在は韓国ラグビー界に活動の場を移し、実業団チーム『OKman Rugby Club』の監督を務めている。
「韓国は今、2027年のラグビーワールドカップ出場に向けて本気で動いてる。そのために社会人ラグビーのレベルを上げたいんや。力を貸してほしい。」
10年以上前から監督とは繋がりがあった。
母校・石見智翠館高校で楕円球を追っていた頃、大阪朝鮮高校とは毎年練習試合を行っていた。
この2年間スコットランドでの活動をずっと見守ってくれていた。
熱のこもった言葉。
電話越しに聞こえるその声は、まっすぐで、迷いがなかった。
まるで”挑戦者魂”に再点火するかのように、心が熱くなるのを感じた。
電話を切る頃には「行かせてください」と答えていた。
忽那健太、30歳。スコットランドでプロ選手を目指した2年間を経て、韓国での契約が決まった瞬間だった。

韓国のトップリーグ「コリアスーパーリーグ」は、実業団4チームと軍隊チームの計5チームで構成されている。
シーズンは3月から4月末の2か月間のみ。第1ラウンドの3試合と第2ラウンドの3試合で韓国チャンピオンを決める。
日本と比べると規模は小さいが、その中には確かな熱意と可能性があった。
呉監督は韓国ラグビーについて話す。
「韓国ラグビーは閉鎖的で、世界の波に乗り遅れてしまった。外国人選手も少ないし、まだスキルも姿勢も、日本と比べると足りてへん。けどな、伸び代はデカいで。今こそ変わらなあかんタイミングなんや。韓国ラグビー全体がこの遅れを取り戻すために必死に動いてるよ」
その目は情熱に溢れていた。
3月26日にスコットランドから帰国。4月5日には韓国に入った。
4月1週目。シーズンが残り1か月を切った段階で、チームに1か月限定の追加加入選手として合流した。
トレーニングを重ねていく中で最初に感じたのは、選手たちのポテンシャルの高さだった。身体能力が高く、スピードもパワーもある。
荒削りだがプレーに迷いがない。自信を持ってぶつかってくる。そして何より、気持ちが強い。
可能性が溢れているではないか。
素直にそう思った。

トレーニングの前後には、次々と日本ラグビーに関する質問が飛んでくる。
「日本はなぜあんなに強くなったのか?」
「どういう練習をしている?」
「東芝にリッチー・モウンガがいるの、本当?」
言葉の壁を越えた交流が、自然に生まれていった。
みんな、上手くなりたい。
強くなりたい。
向上心が垣間見えた。
カタコトの韓国語、日本語、英語でコミュニケーションをとる日々。
まだお互いに言葉は通じきらない。でも、熱は通じ合っている。気づけば、国も言葉も関係なくなっていた。
言葉の壁を越えた交流が、ここには確かにある。
このOKman Rugby Clubの掲げる目標は「韓国ラグビーチャンピオン」である。
僕はスコットランドで学んだこと、肌で感じたトップレベルのスピードと判断、”勝つために何が必要か”というリアルな空気。
それらすべてを、この国の選手たちに伝えようと思っている。
選手としてだけでなく、英国人から学んだ”ラガーマン”としての在り方も伝えたい。
ことあるごとに選手たち一人ひとりに伝えている言葉がある。
「하든가, 더 하든가(ハドゥンガ、ト ハドゥンガ)」
意味はこれ。
「やるか、めっちゃやるか」である。
二択だ。
目標に向かってやると決めたら、とことんやる。どの国にいようと、その姿勢を変えるつもりはない。
チームに火をつけたい。
スコットランドの次は韓国で心の炎を燃やす。
