
みなさんは春といえば、何を思い浮かべますか。新生活? 桜の季節?
わたしにとってこの季節はズバリ、香港セブンズだ。
週末、サクラセブンズは(HSBC SVNS 2025)今季第5戦目となる香港大会を7位で終えた。
今年から新スタジアムに場所を移した香港セブンズ。コアチームとしてひと際大きな歓声を浴びていたサクラたちの姿は、ただ、めちゃくちゃカッコよかった。
香港セブンズは、1976年から続くセブンズラグビーのアイコニックな大会である。
大会というよりも、祭りといった方がしっくりくる。仮装をした人々がスタジアムに集い、ほろ酔いとなった観客たちがセブンズのスピード感に一喜一憂する。お腹が空けばスタジアムの外に出て飲茶を嗜み、戻ってまた試合を観る、朝から晩までどっぷりラグビー漬けになれる“フェス”のような三日間なのだ。
五輪競技に採用される遥か前から国際的なセブンズの祭典であり、4万人の観客の前でプレーできるセブンズプレーヤーにとって夢のような場所、それが香港セブンズなのである。
しかし、この大会の魅力は表層的な面だけはない、東洋と西洋、古きと新しきが織り混ざる香港文化の深層的な魅力が組み合わさることで、唯一無二のセブンズ大会として愛されてきたのだ。

私は自称香港大好き人間である。今までかれこれ20回以上は香港に行ったと思う。香港の魅力のひとつを言葉で表すなら、「心地よい混沌」と形容できるかもしれない。それは英国統治時代を経た香港という土地に息づいている広東語と西洋的感覚の絶妙なバランスから生まれるものだと感じる。
まず国名。香る港と書いて「香港 Hong Kong」なのが、まず良い。HKと2文字に略せるのも、NYやLAみたいで洗練された感がある。香港の語源として、昔は香木の原料の輸入港だったから、という説があるらしいが、地名の字面で嗅覚まで心地よくなるようで、さらに良い。
そして香港内部の地名。
新スタジアムがあるエリアは、九匹の龍と書いて「九龍(カオルーン)」。カッコ良すぎるではないか。
繁華街エリアは「尖沙咀(チムサーチョイ)」だ。こちらに至っては、ブルース・リーがチラリと見え隠れするような香港感、小籠包から肉汁が滴るような香港シズルのある語感である。
さらには、有名な観光スポットのひとつに「女人街」がある。単語から伝わるイメージと実際の街にはギャップがある。字面を見てワクワクした方、女性がたくさんいる場所ではないので、あしからず。もれなく「男人街」もあるのが香港の面白いところである。
ついでに香港グルメにまつわる漢字も紹介しよう。
私の香港三大大好物は「雲呑」と「楊枝甘露」と「蝦腸粉」である。日本に馴染みのあるワンタンはご理解いただけるだろうが、問題は残り二つ。楊枝が刺さったなんかしらの甘い物体とエビの背腸の粉末のなにがしか、ではない。それぞれ、マンゴー&タピオカ&ココナツミルクのデザートと、海老の米粉クレープ蒸しである。
これがまた、漢字の画数の重厚感を華麗に裏切っていくポップさと美味しさなのだ。ぜひ本場で試していただきたい。

煌びやかな高層ビルの夜景を抜ければ、空が見えないほどに屋根が密集した市場が立ち並ぶ。外を歩けば汗だくになるが、一歩ビルに入ればキンキンに冷房が効いている。スーツに身を包んだオフィス街の側には、短パン、タンクトップのおじさんが営むローカルな店があり、せっかちで有名な香港タクシー運転手が休憩する公園には、極めてスローに太極拳の練習をするおばさま方がいる。
そう、このコントラストが香港なのだ。
英語も広東語も、老いも若きも、華やかさも素朴さも、新も旧も、静も動も、この決して広大とは言えない土地に凝縮されている。だからこの国は、訪れる人を違和感なく受け入れてくれるし、街中に溢れる多様なコントラストの中に自分を馴染ませることができる。
香港という都市が生み出す心地の良い混沌が、ラグビーの多様性と相まって、人々を惹きつけてやまない香港國際七人欖球賽(香港セブンズ)の魅力をつくり上げているのだと私は思っている。
さて、「欖球熱狂愉快女」と書いて(中村知春)と読んでいただける日が来ることを願い、今月文章(アニキにっき)とさせていただこう。多謝。
【プロフィール】
中村知春/なかむら・ちはる
1988年4月25日生まれ。162センチ、64キロ。東京フェニックス→アルカス熊谷→ナナイロプリズム福岡。法大時代まではバスケットボール選手。電通東日本勤務。ナナイロプリズム福岡では選手兼GMを務める。リオ五輪(2016年)出場時は主将。2024年のパリ五輪にも出場した。女子セブンズ日本代表68キャップ。女子15人制日本代表キャップ4
