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死もゲームの一部なのか。
「ル・パリジャン」が家族の同意を得て公開したタックルの映像より。

 2023年に、『ラグビーリパブリック』で、『「喪に服した父の戦い」出版される。』というタイトルのコラムを書かせていただいた。

 2018年12月、スタッド・フランセのエスポワール(アカデミー)の試合中、激しいタックルを受けた18歳のFLニコラ・ショーヴァンが命を落とした。彼の死は、ラグビー界に深い悲しみと衝撃を与え、同時に、競技の安全性に対する大きな疑問を投げかけた。

「二度とニコラのような犠牲者を出してはならない」。その強い思いから、父フィリップ・ショーヴァンは、息子の死に至るまでの状況を多くの人に知ってもらい、そこから教訓を得てもらうために、著書『ラグビー:死ぬこともゲームの一部/喪に服した父の戦い』を出版した。しかし、彼の戦いはそれだけでは終わらなかった。

 今年3月22日、フランスの一般紙「ル・パリジャン」が「つまり、死ぬこともゲームの一部ということか:不起訴、沈黙の掟、衝撃映像、ニコラ・ショーヴァン死の真相」という、フィリップの著書のタイトルを引用したショッキングなタイトルの記事を発表。ラグビー界における安全性の問題と、事故後の関係者の対応をあらためて問いかけるものとなった。

 フィリップ・ショーヴァンは、ラグビー界とその競技者の安全を願って、グラウンドで許容されることと許容されないことの明確な境界線を引くために、この悲劇に至った真相を解明しようと、この6年間奔走してきた。しかし、ニコラが所属していたスタッド・フランセ、フランスラグビー協会、スポーツ省は、この事故から目を背けてきた。

 ボルドーの裁判所の予審判事は、ニコラの両親が提出した過失致死罪に対する告訴を受け、5年前に開始された捜査を今年1月16日に不起訴処分で終結させた。判事は、タックルを行った2人の加害者を刑事訴追する理由はないと判断を下した。

「ル・パリジャン」は家族の同意を得て、ニコラの命を奪ったタックルの映像を公開することを決断した。「見た人それぞれが、自分の意見を持てるように」というメッセージとともに。

 28分に及ぶこの動画は、本件を2年間取材してきたジャーナリスト、リュドヴィック・ニネの「ラグビー界でこの話をすることは不可能だ」という訴えから始まる。続いて父が「ラグビーのグラウンドで全く合法的に死ぬことが可能ということだね」と苦言を呈し、さらにフランス協会副会長が「私は何も約束していない。当時、私はそこにいなかったからね」とコメントするシーンへと続く。

 試合開始早々、ピンクのジャージーで背番号6のニコラがトライを決める様子、タックルの瞬間(1 :48)、地面に倒れ動かなくなったニコラの周囲でドクターが様態を確認しながら救急隊に電話連絡をする。倒れてからそこまでにすでに4分経過していた。

2018年12月14日のチャレンジカップ、スタッド・フランセの選手たちはニコラへのオマージュで故人の写真入りのTシャツを着た。しかし、クラブとしてその先にはなかなか進まず。(Getty Images)


 同じく現地一般紙「ル・フィガロ」は、当時スタッド・フランセのユースカテゴリーの医療部門の責任者だった、ジャン=クリストフ・ベルランの証言を掲載した。「救助隊が到着するまでに40分かかった」と明かし、「プロの試合は選手を守るためにあらゆる対策が取られている。救急車もピッチサイドに待機している。しかし、アマチュアカテゴリーではそこまでの対策が取られていない」と指摘している。

 スタッド・フランセでニコラの死という悲劇が起こった時、同クラブのアマチュアチームを運営する「アソシアション(Association)」の理事を務めていたベルラン氏は、医療部門の責任者として、約700人の子どもたちの安全も担っていた。

「ニコラが亡くなった時、私はショックを受けました。その場にはいませんでしたが、責任を感じました。そして、事故について解明したいと思っている父親を支援することをアソシアションに求めました。しかし、理事会の人々や会長はそれを望まなかった。私はグループを離れ、フィリップ・ショーヴァンを支援することにしたのです」
 スタッド・フランセから、ニコラの葬儀に多くのチームメイトやコーチ、スタッフが参列してくれた。試合では黙祷を捧げてくれた。ジャーナリストがタックルを現場で見た人に取材をすると、「あれはハイタックルだった」と皆が答えた。しかし、プレーにファウルはなかったという判定に異議を唱える者はいなかった。

 フランス協会も内部調査を行なったが、タックルをした選手にカードが出されておらず、ペナルティも課されていないため、試合の報告書にこのプレーに関する記載がなく、タックルをした選手を規律委員会にかけるだけの証拠がないと判断した。結果、選手への処分は行われなかった。

 以来、フィリップ・ショーヴァンは、この鑑定内容の開示を要求し続けている。「彼らの結論を正当化する根拠を見るために」と説明する。しかし、それは今も彼の手に届いておらず、司法にも提出されることもなかった。

 2023年6月にフランス協会会長に就任したフロリアン・グリルは、同年9月に「ル・パリジャン」で「フィリップ・ショーヴァン氏は、競技者の安全推進キャンペーンの中心的な役割を果たすべきであり、ニコラの死は状況を変えるために役立てるべきだ」と語り、ワールドラグビーの競技に関する規定の第9条11項に『選手は、無謀、または他人に危険を及ぼす行為をしてはならない』と胸にプリントされたTシャツを共に着てキャンペーンをおこなっていた。その頃に鑑定内容を渡すことも約束していた。

 しかしその後「多大な調査の結果、技術部門ナショナルディレクターとレフリング部門ナショナルディレクターとの間で会議が行われ、事故であるとの結論に達したが、報告書は作成されなかったことが確認できた。残念ながら、作成されなかった報告書をお見せすることはできない。参加者の詳細な構成はわからないが、ディディエ・ルティエール(当時、技術部門ナショナルディレクター)とフランク・マシエロ(当時から現在もレフリング部門ナショナルディレクター)が参加していたことはわかっている」と述べた。

 ルティエールは「ル・パリジャン」の取材に対し、自身はこの会議に参加しておらず、その存在すら聞いたことがないと語った。マシエロは一切返答しなかった。

 さらに、予審判事はビデオ分析のために専門知識を提供してもらえるよう、レフリーの協力を依頼したが、誰も応じなかった。この件についても「ル・パリジャン」は誰からも回答が得られなかった。

「ラグビーは助け合い、連帯のスポーツだというが、そんなのはマーケティングだ」と父は吐き捨てるように言う。

 ラグビーでは、ルールの解釈はレフリーに委ねられる。そのため、レフリーによって微妙にジャッジが異なることがある。ワールドラグビー競技規定第9条13項では、「プレーヤーは、相手側プレーヤーに対して、早く、遅く、または、危険な形でタックルしてはならない。危険なタックルには、胸骨より上へタックルすること、または、しようとすることを含むがこの限りではない。タックルが胸骨より下から入ったとしても同様である」と定められている。

 この試合を担当していたレフリーのアドリアン・マルボは事情聴取で「ファウルプレーはなかった」と言った。のちに「ル・パリジャン」の取材に対して「ラグビーでは、多くのプレーについて解釈の余地がある」と述べている。

 2016年までフランス協会のレフリング部門ナショナルディレクターだったディディエ・ムネは「2つのファウルプレーが見られる」と証言した。ただし、ムネはすでに退職していたので、専門家の鑑定として考慮されなかった。

 フランス協会の鑑定がないため、原告側は試合のレフリーに加えて、レフリー代表を証人として召喚し、映像と照らし合わせるよう予審判事に強く求めた。「ル・パリジャン」が入手した事情聴取の調書によると、召喚されたジョエル・デュメ、フランク・マシエロの2人のレフリー部門ナショナルディレクターは、まず何の躊躇もなくファウルはなかったと説明したが、判事が医療法医学的鑑定の結果(肩と頭部の2回の衝撃)を提示すると見解を変え、タックラー2人を弁護する情状酌量を訴え、身を守るために上体をかがめたボールキャリアーの責任を指摘した。

「残念なのは、司法捜査がフランスラグビー協会の専門知識なしに進められたことです。フランスでラグビーについて最も専門的な機関があるとしたら、それは協会であるはずなのに」とジャーナリストのニネは問題提起している。

「ラグビーは危険ではないとは言えない」。本文と写真は関係ありません。(撮影/松本かおり)


 本件の不起訴処分の決定が下されたのとほぼ同時期に、もう一件のラグビーの試合中の事故に関する裁判の判決が下された。

 2022年12月に行われた高校対抗のラグビーの試合で、スピアタックルでマチアス・ダンタン(当時17歳)を四肢麻痺にした選手に、タルブの刑事裁判所は執行猶予付き禁錮9か月、さらに2000ユーロの賠償金を命じた。訴えられた少年はマチアスに謝罪し、「この事故で、僕のラグビーは終わった」と語った。

 一方、ニコラにタックルをした2人の選手は、まだ一度も遺族に謝罪していない。2023年末に予審判事の前で、2人の選手はルールにのっとってタックルしたと主張し、まだトラウマを抱えていると語った。しかし、彼らはずっとラグビーを続けている。

「ル・パリジャン」は彼らに電話をかけた。1人はプロD2(2部リーグ)のニースに所属している。「非常に心を痛めており、事故について話すと眠れなくなる」と言い、電話を切った。もう1人は5部リーグのティロスに所属している。「もうたくさんだ、うんざりだ。そのために裁判所に行った。もう二度とそんなことに巻き込まれたくない」と言って、何も語らないことを選んだ。

 ニコラの両親は、この不起訴処分の決定に対し控訴することを決めている。客観性を高めるためにボルドー以外の場所での審理移送を求めることも検討している。

 スタッド・フランセのユースカテゴリーの医療部門の責任者だった、ジャン=クリストフ・ベルランが、当時スタッド・フランセで調査を行ったところ、毎週日曜日に3パーセントの脳震盪が見つかった。

「これをフランスの選手の数に換算すると、フランスでは毎週末に5000件の脳震盪が発生していたことになる。そして、それは今日でも変わっていない。問題は、これを裏付ける疫学的調査が行われていないこと。私は、スポーツ省をはじめ、あらゆる場所で調査を行うことを求めました。でも『素晴らしいアイデアですね、やってください』と言われただけです。私はボランティアだったので、スタッド・フランセでできる範囲で調査をおこない、この結果を見つけたのです。これらの調査をイギリスとカナダの調査と比較したところ、いずれでもほぼ同じ結果が見られました。したがって、非常に多くの脳震盪、非常に多くのコリジョンがあり、それが多かれ少なかれ深刻な事故の原因になっています。最近のニコラ・アダッドのような非常に深刻な事故です。彼が亡くなったのはコリジョンによるものですから」

 ニコラ・アダッド(15歳)は、今年3月15日にラグビーの試合でタックルをし、倒れた際にボールキャリアーの膝で頭を強打した。意識を失い、痙攣し始め、心肺停止に陥った。病院に搬送されたが、3日後に息を引き取った。

「事故が起こったヴァール県のリーグの医師は翌日、『ラグビーは危険ではありません』と言いました。しかし、1人の若者が亡くなっているのです。ラグビーは危険ではないとは言えません」とベルランは違和感を示している。

 3月28日に「ル・パリジャン」が本件について新たな記事を掲載した。衝撃映像を添えたショッキングな記事を掲載した翌週、フィリップ・ショーヴァンが、ニコラの命を奪ったプレーに関する鑑定が協会内で行われたという報告を受けた。6年越しで求めてきた鑑定報告書がようやく作成されたのだ。4月中旬にはスポーツ省で会議が実施される予定だという。会議では、鑑定をおこなった現在の技術部門ナショナルディレクターのオリヴィエ・リエーヴルモンから鑑定結果が説明される予定で、フランス協会のグリル会長も同席する。

 ショーヴァンは、会議の準備をするために、事前に報告書を受け取れるよう要求した。
「あらゆる会議の前提条件です。この報告書をスポーツ省は10日ほど前から所有しているようですが、私たちにはまだ内容も伝えられていません」

 父の戦いはまだ続く。しかし、動かなかったものがようやく動き始めた。

【プロフィール】
福本美由紀/ふくもと・みゆき
関学大ラグビー部OBの父、実弟に慶大-神戸製鋼でPRとして活躍した正幸さん。学生時代からファッションに興味があり、働きながらフランス語を独学。リヨンに語学留学した後に、大阪のフランス総領事館、エルメスで働いた。エディー・ジョーンズ監督下ではマルク・ダルマゾ 日本代表スクラムコーチの通訳を担当。当時知り合った仏紙記者との交流や、来日したフランスチームのリエゾンを務めた際にできた縁などを通して人脈を築く。フランスリーグ各クラブについての造詣も深い。


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