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忽那健太[スコットランド挑戦紀 #10/最終回]◎スコットランドよ、ありがとう!/2025年3月25日
2年間のすべてをラストゲームに注ぎ込んだ忽那健太。(写真は本人提供、以下同)

忽那健太[スコットランド挑戦紀 #10/最終回]◎スコットランドよ、ありがとう!/2025年3月25日

忽那健太

 試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、全身の力が抜けた。

「やり切ったぞ。」

 2年間のすべてを、この一瞬に置いてきた。

 3月22日に行われたスコットランド2部リーグ21節ではリーグ単独首位を走るエアーラグビークラブと対戦した。

 2024年春まで続いたセミプロフェッショナルリーグでは最終大会でも優勝したエアー。スコットランド代表キャプテンも務めるフィン・ラッセルをはじめ、多くの選手を代表チームに送る名門クラブだ。

 我々ヘリオッツクラブも開幕から20戦18勝2敗の2位。長くライバル関係が続く因縁の対決には多くのファンが詰めかけ、声援を送った。

首位攻防戦となる大一番。忽那健太(くつな・けんた/プロフィール前回#9はこちら)は13番で先発出場した


 80分を通じて引き締まった試合。 前半は7-5でヘリオッツがリードして折り返す。
 冷たい風と、しとしと降る小雨。自然と肉弾戦になってくる。骨と骨がぶつかり合う音が何度も響いた。

 後半最後の10分はエアー有利。ヘリオッツは、ドライビングモールから2トライを献上。17-29でノーサイドとなる。敗戦した。

 僕のチャレンジはこの試合で終わりを告げた。
 2シーズンに渡ってプレーしたスコットランドリーグ。気がつけば2年で公式戦38試合に出場。練習試合、毎年春に行われる7人制大会など合わせると60試合以上を戦った。

 時にはイングランドに足を伸ばしてプレーもした。
 ロンドンを拠点に活動するロンドンジャパニーズラグビークラブの一員として、故・奥克彦さんを偲ぶ記念試合、奧杯でもプレー。場所は平尾誠二さんもプレーしたリッチモンドラグビークラブだった。

 これ以上ないほど、ラグビーを味わい尽くした。
 ラグビーが生まれたイギリスに憧れを抱き、日本人ラグビー選手が未挑戦だったスコットランドでプロを目指そうと決意した。
 イギリスに2年滞在できるワーキングホリデービザを取得し、夢を応援してくれるスポンサー企業を全国で募集。片道切符と30キロの荷物を片手に単身現地に渡った。

 そこでは毎日必死だった。
 ラグビーをプレーする以前に、家や仕事、知り合いを必死に探す時期があった。語学の壁はもちろん、怪我で苦しんだ時期もあった。

 一年目は途中からは引越し会社に就職。平日週5回は朝から晩まで働いた。そこからジム。グランド練習に向かった。

 結果的には、目標のプロ契約を掴むことはできなかった。でも、後悔はない。思いつく限りのことは、すべて行動に移してきたから。
 選択肢は、常に2つしかなかった。
「やるか、めっちゃやるか」

 あらためてラグビーというスポーツの競技性や文化に魅了された2年でもあった。
 試合後のアフターマッチファンクション。仲間たちや対戦チームとビールを片手に夜中まで語り合った。
 そこに人種や、国の壁はなかった。

2024年には憧れのグレイグ・レイドロー氏とエディンバラ市内で対談が実現


 仲間たちは酔っ払うと「日本のナショナルアンセムが聴きたい」とよくリクエストしてきた。椅子の上に立ち、君が代を歌った。
 南アフリカ出身の選手は自国の国歌を。フランス出身の選手は血が湧くようなフランス国歌を。キーウィ(ニュージーランド人)たちはハカを披露したり…。
 競技を通じて世界中に友人ができた。スポーツは世界を一つにする。
 試合翌日には筋肉痛と二日酔いを抱えながら仕事に向かう日が何度もあった。

 彼らのラグビーと仕事に向き合う姿勢は尊敬に値する。ラグビーの本質ともいえる〝アマチュアリズム〟は、イギリスでは確かに息づいていた。
 2部リーグとはいえ彼らの大半は自分の仕事を掛け持ちしてプレーをしている。週2回の練習に仕事を終えてグランドに現れる。

 昨年のチームの主将は医者。弁護士や、税理士、大学教授、銀行マンもいた。彼らが練習後シャワーを浴び、ネクタイを締め直して仕事に戻る光景を何度か見た。
 カッコよかった。

 ある日、その1人に聞いたことがある。
「なぜそんなに忙しそうなのにラグビーをしているの?やめたいと思ったことないの?」
 彼は笑顔で答えてくれた。
「それがラガーマンだからだよ」
 競技者として誇りを持っているように感じた。

 この2年間、多くの人に支えられ、まるで奇跡の連続のような日々を過ごした。
 いま、帰国途中の飛行機の上でこの文章を書いている。胸いっぱいに広がるのは、ただただ、感謝の念。決して一人の力だけではここまでこられなかった。自分に関わってくださったすべての人に感謝している。
 ありがとうございました。

別れの日。全員の名前が入ったファーストジャージーをプレゼントしてもらった


 そしてあらためて、ラグビーという競技の素晴らしさを知った。
 ラグビーは、こんなにも面白い。
 そして、世界は、こんなにも広い。

 最近は、もうしばらく海外にこだわってラグビーを続けていこうと考えている。「やるかめっちゃやるか」のマインドでこれからも突き進む。
 スコットランドよ、ありがとう!

※スコットランドでの現地情報はYouTubeチャンネル『忽那健太』でアップしています。


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