
「Pounding Rocks」という詩をご存知だろうか?
石工が岩石を割る作業について、ジェイコブ・リースさんという社会学者が書いた詩だそうだ。NBAのスパーズのロッカールームにも飾られているというその言葉を偶然知ってから、私はずっとその詩が好きだった。
サクラセブンズがワールドシリーズ (HSBC SVNS 2025)のバンクーバー大会でついにベスト4の壁を破った。これまで阻まれてきた分厚い壁を正面からぶち壊し、準決勝の舞台に駒を進めた。
世界から「JAPANは強い」として認識される日が、来た。ようやく。
共に過ごした仲間たちの努力が報われた瞬間は嬉しいものだ。新しい若手メンバーの躍動にはワクワクさせられたし、五輪で悔しい思いを味わった選手たちがあっという間に五輪の結果を塗り替えていく姿も気持ちが良かった。
と同時に頭に浮かんだのは、コンディションの問題でギリギリその場に立てなかったサクラの選手たちの顔である。

誤解を恐れずに言えば、私ですら、10年間夢にまで見たその景色を自分の目で見られなかったことは、少し悔しい。
この13人だからこそ出せた結果なのは明白だが、そこに入れなかったメンバーの気持ちを、お節介な私は、どうしても考えてしまう。歴史を塗り替えてくれたことへの喜びと感謝の気持ちに嘘はまったくなかろうが、その場に立てなかったことへの複雑な気持ちは拭えないことを、私は知っている。
むしろそうでなければ、代表など続けていられない。
そんなメンバーたちと共にしたサクラセブンズの過去には、幾度となく重ねた敗戦がある。50点差を付けられたことも一度や二度ではない。
選手の立場ではどうにもできない問題に何度も歯がゆい思いをした。コロナ禍に翻弄され、五輪を目指すことさえうしろめたく感じ、どこにもいえない気持ちをお互いに打ち明けあった。それでも希望を捨てずに、いつか勝てる日を信じて前に進み続けてきたのだ。
ある選手がサクラセブンズの大躍進の理由を「これまでの積み重ね」と答えていた。
パリ五輪以降の新しいメンバーのエネルギーが、そしてヘッドコーチの言葉や背負われた歴史が、サクラセブンズという存在にまるで版画のように重なり、こんなにも美しい画を作り上げたのかもしれないと思わせてもらえて、なんだか涙が出そうになった。
さて、冒頭の詩の紹介に戻ろう。
救いがないと感じたときには、私は石切工が岩石を叩くのを見に行く。
おそらく100回叩いても亀裂さえできないだろう。
しかしそれでも100と1回目で真っ二つに割れることもある。
私は知っている。
その最後の一打により岩石は割れたのではなく、
それ以前に叩いたすべてによることを。
ジェイコブ・リース
何人かのサクラたちよ、きっと、あなたたちの努力は、100回目の一打だったのだ。
そして13人のサクラたち、私たちの努力を99回目、100回目の一打にしてくれてありがとう。
さあ、いよいよメダルまでの道が見えてきた。
私も、少し遠くから、叩き続けよう。100回でも1000回でも、10000回でも。
力になるかは分からないが、サクラの道が続くように。
10001回目を叩いてくれる誰かのために。

【プロフィール】
中村知春/なかむら・ちはる
1988年4月25日生まれ。162センチ、64キロ。東京フェニックス→アルカス熊谷→ナナイロプリズム福岡。法大時代まではバスケットボール選手。電通東日本勤務。ナナイロプリズム福岡では選手兼GMを務める。リオ五輪(2016年)出場時は主将。2024年のパリ五輪にも出場した。女子セブンズ日本代表68キャップ。女子15人制日本代表キャップ4