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【南アフリカコラム】南アフリカ4大チーム、ヨーロッパで苦戦中。
1月19日のラシン92戦、ストーマーズは22-31と敗れる。(写真/Getty Images)

【南アフリカコラム】南アフリカ4大チーム、ヨーロッパで苦戦中。

杉谷健一郎

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◆南アフリカ4大チームの苦境。


 今シーズンもリーグワンには世界各国から代表クラスの選手が多数集結しており、レベルの高い試合が展開されている。年末年始には久しぶりに日本で落ち着いた時間を過ごすことができ、4試合を観戦する機会に恵まれた。それぞれが見応えのある熱戦であり、リーグワンの競技レベルの向上を実感できた。

 スプリングボックスの選手に注目すれば、個人的には同じポジション同士のマッチアップを楽しみにしている。例えばWTBチェスリン・コルビ(東京サントリーサンゴリアス)とWTBカートリー・アレンゼ(三菱重工相模原ダイナボアーズ)、CTBジェシー・クリエル(横浜キヤノンイーグルス)とCTBダミアン・デアレンデ(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、L0ルード ・デヤハー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)とLO フランコ ・モスタート(三重ホンダヒート)、そして現在欠場が続いていて残念だが、FL/No.8ピーターステフ・デュトイ(トヨタヴェルブリッツ)とNO8ヤスパー・ヴィーセ(浦安D-Rocks)などが挙げられる。

 特に2度目のワールドラグビー・15人制年間最優秀選手に選ばれた、現状“世界一のラグビー選手”であるデュトイの攻守に活躍する姿を観たいファンは多いだろう。早く復帰してほしいが先週、肩の手術を受けたばかりということでリハビリに4か月はかかるという。残念だが今シーズン、リーグワンでデュトイの勇姿を観ることは難しそうだ。

 さて日本から9000㎞離れている同じ北半球のヨーロッパでもラグビーシーズン真っただ中である。以前に弊コラムでも紹介したが、南アフリカの主要4チーム(※ブルズ、ストーマーズ、ライオンズ、シャークス)はスーパーラグビー離脱後、2021年からアイルランド、ウェールズ、スコットランド、そしてイタリアのチームで構成されるユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ(以下、URC)に戦いの場を移した。

 そして現在、この4チームにチーターズを加えた5チームはURCの合間に開催されているインベステック・チャンピオンズカップ(以下、チャンピオンズカップ)そしてEPCRチャレンジカップ(以下、チャレンジカップ)を戦っている。日本ではこの2つの大会はあまり馴染みがなく見過ごされがちだ。

 簡単に説明すると、チャンピオンズカップはイングランドのプレミアシップ、フランスのTOP14、そして前述のURCといったヨーロッパ3大リーグの上位8チーム、計24チームがヨーロッパのナンバーワンを目指して競う。ただし、現在、各3大リーグはシーズンのちょうど中間地点にさしかかったところである。したがって、上記の参加資格となる順位は昨シーズンの戦績になる。

 そしてチャレンジカップの方は各リーグの9位以下のチーム、今シーズンの場合は合計18チームが参加する。そしてチーム数が各リーグによって異なるため(※URC 8チーム、TOP14 6、プレミアシップ 2)、どのリーグにも属していない南アフリカのチーターズとジョージアのブラック・ライオンが数合わせのために特別参加している。ちなみにこのブラック・ライオンは2022年、南アフリカの国内大会であるカリーカップのFirst Division(2部リーグ)に参加し、レギュラーシーズンで4位となってプレーオフ進出を果たした。

 つまりチャンピオンズカップとチャレンジカップはDivision1と2という位置づけになる。もちろん各リーグですべてのチームはチャンピオンズカップに参加すべく切磋琢磨している。

 複雑なのは、昨年度のチャレンジカップの優勝チームはチャンピオンズカップに参加することである。ちなみに昨年はシャークスがチャレンジカップを制したので、URCから9チームがチャンピオンズカップに参加するのかと思いきや、シャークスが出場するため、URCの8位だったウェールズのオスプリーズはチャレンジカップへ回ることになった。ちなみにシャークスは昨シーズンのURCでは14位と低調だったので、8位のオスプリーズからすると「なぜ?」となるだろう。

 そしてチャンピオンズカップ(4プール)、チャレンジカップ(3プール)ともに、各プールの上位4チームが決勝トーナメントに進出する。ただし、これも分かりにくいのだが、チャンピオンズカップの各プール5位のチームはチャレンジカップの決勝トーナメントに回ることになる。

 このフォーマット、もう少しすっきりとした形にならないものなのかと個人的には思う。もともと、各リーグの戦績により2つのカップに分けたのだから、無理に交流する必要はないと思うのだが…。

 次に期間であるが、チャンピオンズカップそしてチャレンジカップはともに12月~1月にグループリーグがあり、決勝トーナメントは4月~5月に行われる。そして3大リーグのシーズンは9月に始まり、6月または7月に終わる長丁場である。つまりチャンピオンズカップとチャレンジカップは各リーグのレギュラーシーズンの合間に実施することになる。

 例えばストーマーズの最近の日程をみると、12月8日はホームでRCトゥーロン(チャンピオンズカップ ラウンド1)、12月15日はアウェイでハーレクインズ(チャンピオンズカップ ラウンド2)、12月21日はホームでライオンズ(URC 8節)、12月29日はホームでシャークス(URC 9節)、1月11日はホームでセール・シャークス(チャンピオンズカップ ラウンド3)、1月18日はアウェイでラシン92(チャンピオンズカップ ラウンド4)と交互にチャンピオンズカップとURCの試合がある。特に南アフリカのチームに対してはなるべく移動が少ないようにスケジュールは配慮されているようだが、選手・スタッフの気持ちの切り替えが大変だろう。

 スケジュールに関して言えば、3大リーグの終了時期がほぼ同じであることを考えると、各リーグ終了後にチャンピオンズカップを開催する方が分かりやすいのではないかと個人的には思う。もっとも、こうした案は初期段階で検討されたに違いない。しかし、3大リーグのそれぞれのチーム事情や選手との契約内容を考慮すると、その実現は難しかったのだろう。さらにヨーロッパでは、1月末からシックスネーションズ6か国対抗)が始まることもあり、スケジュール調整の難しさは容易に想像できる。

 さて前段が長くなってしまったが、このチャンピオンズカップとチャレンジカップで南アフリカの5チームが苦戦している。特にレベルの高いチームの大会であるチャンピオンズカップでは南アフリカの3チーム、シャークス(プール1:5位)ブルズ(プール3:5位)、ストーマーズ(プール4:6位)とまったく振るわず、決勝トーナメントに進んだチームはなかった。ただし、シャークスとブルズは5位になったので、規定に基づきチャレンジカップの決勝トーナメントへと降格になった。

 チャレンジカップでも特別参加のチーターズはプール1で5位。ライオンズがプール2でかろうじて4位になり唯一決勝トーナメントに進むことができたのがせめてもの慰めだった。

◆なぜチャンピオンズカップで勝てないのか?



 南アフリカ4大チームはURCではそこそこの戦績を残せているのに、このチャンピオンズカップ、そしてチャレンジカップでは下位に甘んじているのはなぜか?

 もちろんURCよりはレベルの高い相手であるのは確かだ。しかし、南アフリカのラグビーメディアや関係者が一様に指摘するのは、各チームの層の薄さである。やはり多くのスプリングボックス、そしてその予備軍レベルの選手は海外チームに在籍しており、国内に残った人材でチーム編成をしなければならないという状況である。現在、現役のスプリングボックス主力選手を複数人擁しているのはシャークスぐらいである。

 そして層が薄いので主力選手をベンチ外や控えに置いた試合では、代わりに出場した選手がその代役を務めることができず大敗につながっている。例えばシャークスはラウンド1でホームにエクセター・チーフス(プレミアシップ7位)には39-21で快勝している。この試合にはPRオックス・ンチェ、HOボンギ・ンボナンビ、LOエベン・エツベス、NO8シヤ・コリシ、WTBマカゾレ・マピンピなどスプリングボックスの選手たちが10名先発していた。

 しかし、アウェイではあったがラウンド2で対戦したレスター・タイガース(プレミアシップ8位)には56-17で大敗している。この試合では前節のスプリングボックス10名はPRトレヴァー・ニャカネとSOからFBに移動したジョーダン・ヘンドリクセ以外は出場していない。

ブルズは1月18日のスタッド・フランセ戦には48-7と大勝した。写真はFLマルセル・クッツェー。(写真/Getty Images)


 翌週に控えているURCのブルズ戦を重視してのメンバー変更と思われる。この傾向は他のチームでも同じで、チャンピオンズカップを軽視しているというよりは、層が薄いためどちらかを選ぶ必要があり、結局主戦場であるURCに主力を投入せざるを得ない状況だ。

 南アフリカのスポーツジャーナリストの大御所であるマーク・ケオハネ氏はSunday Timesで“No easy victories for newcomers (新参者は簡単には勝てない)”と題して、チャンピオンズカップで苦戦している4大チームを擁護した。

 ケオハネ氏は「現在のヨーロッパのトップチームでも自分の所属するリーグとチャンピオンズカップ、両大会で成功するために必要な選手層の厚さを築くのに長い年月をかけている。南アフリカのチームがタイトルを獲得するには3年から5年かかるだろう。」としている。

 そしてチャンピオンズカップの結果が悪かったからチームの弱体化が進んでいるわけではなく、URCでは引き続き4大チームが優勝する可能性もあるとしている。特にチャンピオンズカップを戦っている3チームについては、「かなり競争力のある先発メンバーは揃っているが、2つの大会で高いレベルを維持できるほど選手層が厚くないだけ」と解説している。

 また元スプリングボックスのレジェンド、現在はコメンテーターのニック・マレット氏はNews24で、「対戦相手の予算規模が南アフリカのチームよりはるかに大きいという格差が続く限り、南アフリカのチームはチャンピオンズカップで苦戦し続けるだろう」とさらに核心をついた部分を指摘している。

 確かに南アフリカのチームの予算規模はヨーロッパのチームのそれと比べるとかなり小規模である。金満クラブが多いとされるTOP14だけでなく、イングランドやアイルランドのチームと比べても予算規模に格差がある。

 例えば今シーズンの南アフリカの4大チームのサラリーキャップ(※すべての選手に対する年俸総額上限)は9500万ランド(約8億円)であるのに対し、トゥールーズは50.372百万ユーロ(約82億円)となっており10倍以上の差がある。もともとの格差にランド安がさらに追い打ちをかけている。南アフリカ経済は低迷を続けており、直近の15年間でランドはユーロなど主要通貨に対して約3分の1程度に価値を落としている。

 ヨーロッパのリーグと比較すると極めて低く設定されたサラリーキャップは、南アフリカからトップ選手が海外へ流出する原因の一つとなっている。要は南アフリカのチームは高給のトップ選手を何人も抱えることができないのである。
 マレット氏は「TOP14はフランス代表選手をすべて同リーグに留めておくことができ、さらに海外の代表級選手と契約できる余裕もある」とし、「南アフリカの4大チームの選手層を厚くし、2つの大会に対応できる戦力を持つには、南アフリカラグビーに多額の資金注入が必要だ」と語る。

 この「多額の資金」に関しては、南アフリカラグビー協会も重い腰を上げ欧米の投資会社と交渉を始めている。順調には進んでいないが、その推移を見守りたい。

 確かに選手層の薄さはチャンピオンズカップ、チャレンジカップでの惨敗に直接的に影響を及ぼしているが、その他にも南アフリカのチームがヨーロッパで試合をするにあたり不利な点はある。

 南半球のスーパーラグビーではなく、ヨーロッパを主戦場に選んだ以上それが言い訳にならないのは分かっているが、それにしても気候が正反対というのは南アフリカのチームの方が不利なのではないかと個人的には思う。
 アフリカとヨーロッパを何度も往復した経験からは、南アフリカの快適な気候から極寒のヨーロッパへ行く方が身体には堪える。逆にヨーロッパから南アフリカへ行く場合、試合会場がある内陸部やケープタウンは真夏とはいえ湿度が低く、誰もが快適と感じる気候だ。したがってヨーロッパから来た選手は逆に動きやすくなるのではないかと、これも個人的には思う。ただし、高温多湿のダーバンは除いて。

 加えてグランドのコンディションやレフリングの違いはあるだろう。と、ついつい南アフリカのチームを擁護したくなるが、ここで嘆いても仕方がない。シヤ・コリシがプール最終戦でユニオン・ボルドー・べグルに66-12で大敗した後に述べたとおり、「言い訳はできない」し、「チャレンジカップとURCの両方にどう適応していくか」考えていくしかない。

 現在、チャンピオンズカップは正式には名称の最初にスポンサー名インベスティックが付いたが、もともとはヨーロピアンラグビー・チャンピオンズカップでありヨーロッパのクラブチームナンバーワンを決める大会である。したがって、この大会に南アフリカのチームが参加していることを良く思わない勢力が存在している。実際、2019-20のURC(※当時はPRO14)で南アフリカのチーターズがカンフェレンスAで4位になったがチャンピオンズカップへの参加は認められなかった。

 このまま南アフリカのチームが今後もヨーロッパを主戦場としていくのかどうか不透明な部分はある。しかし、そういう南アフリカ勢を排除したいという勢力を黙らせるためにも来シーズンはチャンピオンズカップで南アフリカのチームにひと暴れしてほしい。

 最後に南アフリカとは関係ないが、久しぶりにレスター・タイガースという名前を見たので懐かしくなった。筆者がイギリスに滞在していた20数年前、レスター・タイガースは多くのイングランド代表選手を擁し、プレミアシップは1998年から2001年まで4連覇、チャンピオンズカップの原型である当時のハイネケンカップを2000年、2001年と2連覇を達成、黄金時代を迎えていた。

 当時のキャプテンとしてチームをけん引したLOマーティン・ジョンソン(現BBCコメンテーター)はイングランド代表、そしてブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズでもキャプテンを務め、そしてジョンソン率いるイングランドは2003年のワールドカップでは北半球のチームとして初めて優勝を飾ることができた。しかし、それ以降、現在に至るまでチームは浮き沈みがあり、プレミアシップ降格の危機も何度かあった。

 今回のチャレンジカップでもプレミアシップ8位(10チーム中)でギリギリ参加できた。そしてラウンド2では56-17と飛車角落ちのシャークスには大勝したものの、ラウンド4のスタッド・トゥールーザン戦(TOP14 1位)では12-80と記録的大敗を喫した。躍進するTOP14と低迷するプレミアシップの格差、時代の流れを感じる。

 闘将ジョンソンの存在感が際立ったが、当時のFW陣は全員がイングランド代表キャップを持つ実力者揃いであり、非常に強力だった。その強さを前面に押し出したプレースタイルは、現在のスプリングボックスを彷彿とさせる部分もある。

 そのFWのパワープレーを見たくて何度かレスター・タイガースの試合に足を運んだ。プレミアシップも財政面でなかなか難しい状況が続いていると聞くが、強いタイガースの復活を切に願う。

【チャンピオンズカップ プールステージ成績】
◆POOL 1
1 ボルドー(FRA/20/4-0)
2 トゥールーズ(FRA/19/4-0)
3 レスター(ENG/11/2-2)
4 アルスター(IRE/5/1-3)
5 シャークス(SA/5/1-3)
6 エクセター(ENG/1/0-4)

◆POOL 2
1 レンスター(IRE/18/4-0)
2 ラ・ロシェル(FRA/11/2-2)
3 ベネトン(ITA/11/2-2)
4 クレルモン(FRA/10/2-2)
5 バース(ENG/7/1-3)
6 ブリストル(ENG/7/1-3)

◆POOL 3
1 ノーサンプトン(ENG/16/3-1)
2 カストル(FRA/14/3-1)
3 マンスター(IRE/12/2-2)
4 サラセンズ(ENG/11/2-2)
5 ブルズ(SA/5/1-3)
6 スタッド・フランセ(FRA/5/1-3)

◆POOL 4
1 トゥーロン(FRA/13/3-1)
2 グラスゴー(SCO/12/2-2)
3 セール(ENG/10/2-2)
4 ハーレクインズ(ENG/9/2-2)
5 ラシン(FRA/9/2-2)
6 ストーマーズ(SA/5/1-3)

※カッコ内は左から国名、勝ち点、勝敗数
※同プール内の同国チームとは対戦せず各チーム4試合を戦う
※各プールの4位まではチャンピオンズカップのプレーオフへ進出
※各プールの5位チームはチャレンジカップのプレーオフへ

【チャレンジカップ プールステージ成績】
◆POOL 1
1 コナート(IRE/20/4-0-0)
2 リヨン(FRA/14/3-0-1)
3 ペルピニャン(FRA/11/2-1-1)
4 カーディフ(IRE/7/1-0-3)
5 チーターズ(SA/6/1-1-2)
6 ゼブレ・パルマ(ITA/2/0-0-4)

◆POOL 2
1 モンペリエ(FRA/19/4-0-0)
2 オスプリーズ(WAL/15/3-0-1)
3 ポー(FRA/12/2-0-2)
4 ライオンズ(SA/10/2-0-2)
5 ドラゴンズ(WAL/5/1-0-3)
6 ニューカッスル・ファルコンズ(ENG/0/0-0-4)

◆POOL 3
1 エディンバラ(SCO/16/3-0-1)
2 バイヨンヌ(FRA/14/3-0-1)
3 スカーレッツ(WAL/11/2-0-2)
4 グロスター(ENG/9/2-0-2)
5 ヴァンヌ(FRA/8/1-0-3)
6 ブラック・ライオン(GEO/4/1-0-3)

※カッコ内は左から国名、勝ち点、勝利-引き分け-敗戦
※各プールの4位まではプレーオフへ進出

【プロフィール】
杉谷健一郎/すぎや・けんいちろう
1967年、大阪府生まれ。コンサルタントとして世界50か国以上でプロジェクト・マネジメントに従事する。高校より本格的にラグビーを始め、大学、社会人リーグまで続けた。オーストラリアとイングランドのクラブチームでの競技経験もあり、海外ラグビーには深い知見がある。英国インペリアルカレッジロンドン大学院経営学修士(MBA)修了。英国ロンドン大学院アジア・アフリカ研究所開発学修士課程修了


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