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【ラシン92のいま、も見てきた】空色×白と旅するサポーターに会った。
ラシンのトライに盛り上がるサポーター席。(撮影/福本美由紀、以下同)

【ラシン92のいま、も見てきた】空色×白と旅するサポーターに会った。

福本美由紀

 11月30日、ラシン92×トゥールーズ(トップ14/フランス)を観戦しに行った。
 前週に続いてトゥールーズのゲームを観たかったのもあるが、ラシン92の「いま」を自分の目で確認したかった。

 昨季、スチュアート・ランカスターがヘッドコーチ(以下、HC)に就任して序盤は好調だったのだが、シックスネーションズでSHノラン・ルガレックとSOアントワンヌ・ジベールの2人がフランス代表チームに招集され、不在になった期間に順位を下げた。

 彼らが戻ってきてからも調子を取り戻せなかった。チャンピオンズカップのプール戦を1勝3敗で通過したものの、ノックアウトステージの初戦でトゥールーズに敗れ(7-31)、準々決勝に進むことができなかった。
 トップ14はカストルと並んでプレーオフ進出を意味する6位でレギュラーシーズンを終え、両者間の直接対決で2勝していたラシンが出場権を得た。
 しかし、ボルドーに敗れ(17-31)て準決勝には手が届かなかった。

 オーナーのジャッキー・ロレンゼッティ氏は、「ウェンセスラス・ロレ(元フランス代表FL。昨季途中で繰り返す脳震盪のため復帰できないまま引退)のような戦士がいない」と嘆いた。
 南アフリカ代表キャプテンのシヤ・コリシがいたにもかかわらず、だ。

 コリシはクラブを去ったが、元イングランド代表キャプテンのSOオーウェン・ファレルが今季加入した。クラブで2年目になるランカスターHCの戦術をより浸透させるかと期待された。
 しかし、その効果が出る前にファレルは離脱。11月に鼠蹊部の手術を受け、現在グラウンドから遠ざかっている。

 10節を終えて5勝5敗で8位。クラブの目標からは遠い。
 ファレルだけではなく、フランス代表でアントワンヌ・デュポンの2番手の座を獲得したSHノラン・ルガレックや、CTBガエル・フィクー、LOロマン・タオフィフェヌア、LO/FLカメロン・ウォキ、イングランド代表WTBヘンリー・アランデル、さらにフィジー代表のCTBチョスア・トゥイソヴァなどが揃っており、もっと上位を狙えるチームのはず。
 しかし勝てていない。勝ってもなんだかスッキリしない。士気が感じられない。チームとしての一体感も感じられない。何が起こっているのだろうと不思議に思っていた。

 しかも前週のパリダービーでスタッド・フランセに24-40で敗れた。スタッド・フランセも今季成績不振で4節を終えた時点で13位となり、カリム・ゲザルHCが解任された。その後も低迷したままで、戦前の予想はラシンが有利だったのだが。
 試合後の会見でラシンのディミトリー・スザルゼウスキーFWコーチが「トゥールーズ相手だとどうなることか」と不安を漏らしてしまうほどの内容だった。

選手入場を待つサポーターたち


 スタジアムの開門は試合1時間半前。しかし2時間前からゲート前には人が集まっていた。
 ラシン92のジャージーを着て大きな旗を掲げ、仲間とおしゃべりしているクレマンは、この日で209試合連続でラシンの試合に足を運んでいる。ホーム、アウェーに関係なく、すべてにだ。

 チャンピオンズカップでは、ウェールズ、アイルランド、昨年は南アフリカにまで遠征した。彼のインスタグラムのアカウント名も『Ciel&Blanc_Travel』。ラシンのチームカラーのスカイブルー×白から、このクラブのことを「Ciel et Blanc(シエル・エ・ブラン=空色×白)」と呼び、そのチームとともにトラベル(旅)するアカウントなのだ。

 2010年に初めてラシン92の試合を観戦し、そこで現在のパートナーと出会い、その後も2人でスタジアムに赴いて観戦するようになり、連続生観戦記録は2017年にスタートした。

 クレマンを紹介してくれたのはダニエル。ラシン92サポーター歴、そしてラグビーファン歴もまだ2年。
「友人に誘われて、(パリ・ラ・デファンス)アリーナにチャンピオンズカップのセール・シャークス戦を見に行った。すぐに夢中になった。そこでクレマンと出会い、それ以降、彼が応援に行こうと声をかけてくれるんだ」

 ダニエルは卓球のコーチをしている。ラグビーとはそれまで縁がなかった。
「ラグビーと卓球? 全然違う。ラグビーは仲間と分かち合うことができる」

 ラグビーが根付いているトゥールーズやバイヨンヌ、ペルピニャンと異なり、パリには多くの娯楽がある。移り気なパリジャンに、毎週スタジアムに応援に来てもらうのは至難の業だ。それでも、ラシンにも熱いサポーターがちゃんとついている。

 とは言え、ラシンの空色×白のウェアやグッズを身につけた人と同じぐらい、トゥールーズの赤×黒を身につけている人がスタジアムに入っていく。

「パリにはトゥールーズやトゥーロンのアソシエーション(サポーターの会)もあり、彼らとも交流している」と教えてくれたのは、サポーター席でラシンの5つのアソシエーションの指揮をとっていたケヴィンだ。

「昨年からチームは厳しい状態が続いている。先週の敗戦はキツかった。あれからちょっと鬱になったよ」と笑顔で言いながら、「怪我人が多い。リーダーがいない。そして自信を失っているんだと思う」とクレマンは分析する。

いろいろ話してくれたクレマン(向かって右)と、彼のパートナー(中央)。太鼓を持っているのがダニエル


 さらに、昨季、多くのラシン育ちの若手選手がクラブを去った。ファレルを獲得するために、サラリーキャップ制度で上限が制限されている。選手の総年俸額に空きを作るためではないかとも言われている。
 コリシが昨季終了後に退団することは想定外だっただろう。

「来季の移籍に関する不安もあるけどね」とクレマン。
 来季、SHノラン・ルガレックがラ・ロシェルに移籍することが発表されている。ラシンで育ち、将来クラブを背負うと期待されていた選手を失うのだ。衝撃は大きい。

 さらにラシンにはホームスタジアムの問題がある。これまでも、パリ・ラ・デファンス・アリーナでの試合がコンサートと重なる時は、試合会場を他のスタジアムに移さなければならなかった。さらに、パリオリンピックの競泳会場にもなったことで、昨年の3月31日のクレルモン戦を最後にホームスタジアムが使えない「ホームレス」状態が続いた。
 10月26日のペルピニャン戦でようやくアリーナに帰還したところだが、この日はコンサートが行われるため、再びアリーナとは反対側、パリの南東にあるスタッド・ドミニク・デュヴォーシェルで試合が行われた。

「これまでリール(パリから約220km)、ルーアン(約140km)、オーセール(約170km)にも行った。そのことを思えばずっと近くなったけど、早くホームで試合がしたい」というクレマンの言葉は、ラシンのすべてのサポーター共通の思いだろう。スタジアムを転々とすると、サポーターの足も遠のく。このスタジアムで行われた今季の開幕戦の観客数は約4000。対戦相手のクレルモンのクリストフ・ユリオスHCが「(定員制限されていた)ポスト・コロナかと思った」とこぼしてしまったほどだ。

 スタッド・ドミニク・デュヴォーシェルはサッカーの3部リーグ、USクレテイユ・ルジタノスのホームグラウンドで1万2000人収容とこじんまりしているが、陸上トラックがあり、観客席からピッチが遠い。この日は各ゴール裏に立ち見席も設置し、観客数は1万人を超えた。

 また、アリーナは人工芝だが、ここは天然芝。試合後の会見でトゥールーズのヴィルジル・ラコンブFWコーチが、このピッチの状態についてコメントしている。

スタッド・ドミニク・デュヴォーシェルは陸上トラックがあり、ピッチまで遠いと不評


「テンポアップしようとしたが、この緩いピッチでは難しい。このように重いグラウンドではリズムに変化をつけたり、ラックから速い球出しをするのは困難。1対1のタックルを突破する個人のパワーやモールがカギになった」

 アリーナに本拠地を移した時は、「よりスピード感のあるエンターテイメント性が高いラグビーを!」というのがラシンの売り文句だったはずなのだが。

「でも、何があろうと僕たちはこのクラブを応援する!」とクレマンとダニエルは声をそろえる。

 この試合、ラシンは代表活動から帰ってきたばかりのフィクーとルガレックをメンバーに加えた。トゥールーズにもHOジュリアン・マルシャン、FLフランソワ・クロス、FBトマ・ラモス、WTB/FBアンジュ・カプオッゾが早々に復帰している。

 序盤からトゥールーズが圧倒的に支配するも、思うようにプレーをつなぐことができず、0-11でビジターのリードで前半を終えた。後半、アグレッシブになったラシンがトゥールーズのミスを誘い、2トライを返して逆転。PGの3点も加え 17-11とリードしたのが68分だった。サポーター席が喜びに沸き、ラシンの応援旗がはためいた。
 しかし、72分にトゥールーズは力ずくでトライを奪い、さらにPGも追加した(17-21)。ラシンは勝ち切れなかった。

「なぜ前半試合に入ることができなかったのか? なぜ出すべきエネルギーが出せなかったのか? わからない」と試合後会見に出てきたラシンのアタックコーチのフレデリック・ミシャラクが苦笑した。

「前半0-11で終えたが、もっと取られても仕方ない内容だった。(その兆候は)ウォーミングアップの時から選手の目や態度に表れていた。トゥールーズと対戦するストレス? 先週のダービーで負けたリアクションを見せなくてはというストレス? 後半は意地を見せてリアクションできた。でも選手も個々に成長しなくてはならない。先週の敗戦の方が落胆は大きかったが、後半17-11とリードしたのに、それを守り切れなかったことを残念に思う」と続けた。

試合後の会見に出席したラシン92のフレデリック・ミシャラク アタックコーチ


 ただ、この日、スタンドの最上階の記者席付近に集まって観戦していたラシンのメンバー外の選手は、真剣な眼差しでゲームを分析し話し合っていた。選手に危機感はある。

 翌週、チャンピオンズカップがスタートした。ラシンはイングランド代表SOマーカス・スミスやNO.8アレックス・ドンブラントらを擁するハーレクインズを、再びスタッド・ドミニク・デュヴォーシェルで迎え撃った(12月7日)。風が吹き、激しい雨が振りしきる中、ラシンは23-12で勝利を掴み取った。

 この試合で特に目についたのは、フィクーのリーダーシップと、チーム一丸となったディフェンス、そして一歩でも前に出るという気迫だった。

「完璧ではなかったけど、今日は勝利を得られたことを嬉しく思う。ここのところとても批判されていたけど、僕たちは前進するために努力している。今はまだ形になって現れていないかもしれない。それでも僕たちはこれからも努力を続けていく」
 試合後のインタビューでそう答えたのは、この日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたルガレックだ。

「今週は、練習よりもグループの団結を強めることに時間を使った」とウォキが現地中継局のマイクに打ち明けた。その表情には、喜びよりも安堵が感じられた。

 この勝利をサポーターのクレマンも喜んでいるだろうと、彼のインスタグラムのアカウントを覗いてみたが、更新されていない。気になって連絡を取ってみると、「ひどいインフルエンザにかかってしまって体は絶好調じゃないけど、気持ちはハッピーだよ。金曜日にマンチェスターにチームの応援に行かなきゃいけないから、早く治さなきゃ」と返ってきた。

 金曜日(12月13日/日本時間14日 午前5時キックオフ)はチャンピオンズカップ第2戦。マンチェスターでセール・シャークスと対戦する。
 クレマンのラシン92との旅はこれからも続く。


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