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フランス-アルゼンチン(11月22日)の翌日、2週間お休みだったトップ14が再開するというので、ペルピニャンを迎え撃つトゥールーズを訪れた。
◆11月23日(土)
この日のトゥールーズの試合は16時30分キックオフのデーゲーム。スター選手が揃うトゥールーズの試合は視聴率が取れるため、21時に設定されることが多いのだが、オータム・ネーションズシリーズ(以下、ANS)で代表選手が不在になるこの週は午後に行われたのだろう。
21時キックオフばかりでは、選手もスタッフも、そして彼らの家族にも負担になる。
代表選手は不在だが、FLジャック・ウィリスが見たかった。
イングランドに帰国して代表入りを目指すこともできたが、ウィリスは「ここが、自分が最も成長できるところ」。帰国してイングランド代表入りを目指すことよりも、トゥールーズに残ることを選んだ。テストマッチ期間、トゥールーズのゲームキャプテンを任されている。
他にもトゥールーズで頭角を表している若手選手も気になっていたのでこの試合を選んだのだが、負傷のためANSに参加していなかったアルゼンチン代表のCTBサンチャゴ・チョコバレスと、10月のクレルモン戦で負傷したSOロマン・ンタマックの2人がこの試合で戦列復帰するというボーナスがついた。
記者席ではモニターでテレビ中継の様子が見られる。カメラが追うのも、やはりンタマックだった。
スタッド・エルネスト=ワロンはこの日もチケット完売で、「やっとトップ14が帰ってきた」とサポーターの声が聞こえてくる。
試合は、「前半ミスが多かった。ラックでプレッシャーをかけられ、プレーにスピードをつけられなかった」とSHポール・グラウが言うように、開始10分で2トライ先取したが、その後はペルピニャンの勢いに押され、ハーフタイムのスコアは12-9だった。
後半、トゥールーズは立て直し、特に終盤に加速。4トライを追加いてペルピニャンを突き放し、最終スコアは41-9と、ボーナスポイントも獲得した。
この日先発した21歳のFBと、後半から入った19歳のSHは、これがプロデビュー戦だった。
後半から出場した20歳のHO、21歳の左PR、そして今季U20アルゼンチン代表から加入した20歳のLOはプロ2試合目。
また、昨年から注目を集めている20歳のバックロー、マチス・カストロ=フェレイラや、LOクレマン・ヴェルジェ(23歳)、F Lレオ・バノス(22歳)、NO.8テオ・ンタマック(22歳)らもアピールの機会を与えられ奮闘した。シックスネーションズで代表選手が不在になる期間、彼らが重要な戦力になる。
◆11月25日(月)
午後からトゥールーズの公開練習が行われた。練習が始まった時は寒く、今にも雨が降り出しそうな空模様だった。取材に来ていた記者は10人ほど、サポーターも15人ほど見学に来ていた。
サポーターの中の一人のドミニクが、「僕は今70歳だけど、もう50年以上スタッド・トゥルーザンのサポーターなんだ」と誇らしげに話してくれた。「一番思い出に残っている優勝は?」と尋ねると、「次の優勝だね」と、とびきりの笑顔で粋な答えを返してくれた。
「齋藤選手をどう思いますか?」と聞くと、「いい選手が来てくれてとても嬉しい」。そこにいたサポーター全員からそう返ってきた。
ANSを終えたばかりで代表選手は休暇だと思っていたら、HOジュリアン・マルシャン、FLフランソワ・クロス、FB/WTBアンジュ・カプオッゾ、そしてシリーズ中80分×3試合とフル稼働だったFBトマ・ラモスまで復帰していた。代表選手が多いので、この週に休暇を取る選手と、12月22日のリヨン戦の週に休暇を取る選手と2つのグループに分けたという。
この週のラシン92戦のあとはチャンピオンズカップが始まり、ホームでアイルランドのアルスター、アウェーでイングランドのエクセターと戦いは続く。プレーオフトーナメントでより有利な位置に立つためにも1試合も落とせない。
練習は、サッカーボールを使ってのゲームをしながらウォーミングアップをした後、FWはラインアウト、ラック、BKはハイボールキャッチの練習。約1時間半で終わった。
冷たい雨の中での練習を終えてクラブハウスの中に駆け込んだ選手たちがリカバリー用のプールに入っている様子が外から少し見え、子どもたちが喜んでいた。
◆11月26日(火)
この日は、現地スポーツ紙『レキップ』で記者を37年間勤めた後、現在はトゥールーズのあるガロンヌ地方のフランススポーツ記者ユニオン(UJSF)の会長を務めているベティー・ベルナさんが、ランチに誘ってくれた。
彼女と最初に出会ったのは、2017年にトゥールーズで行われた日本×トンガの試合だった。試合の取材許可などメディア対応を指揮していて、スタッド・トゥルーザンの試合に行くたびに温かく迎えてくれる。
待ち合わせ場所は、スタッド・トゥルーザンの敷地内にある『クラブ・ハウス・デュ・スタッド(Club House du Stade)』。
「元々はアイリッシュパブのスタイルで、内装はグリーンだったのよ」とベティーが教えてくれた。今もブリティッシュ調だが、カーペットは赤×黒のチェックでスタッド・トゥルーザンのエンブレムが入っている。
店内のモニターでは、トゥールーズの試合が流れている。外光が差し込み、オープンでアットホームな雰囲気。隣接しているテニスコートが見渡せる。
こだわりの旬の食材を使った料理はカジュアルだが上品な味付け。週末は観戦に来た人たちが、試合前や試合後に集う場になっている。
◆11月27日(水)
スタッド・トゥルーザンが経営している『グラン・カフェ・デュ・スタッド(Grand Café du Stade)』というレストランが街の中にもあるので行ってみた。クラブの、そしてラグビーバリューの一つである「分かち合い」を反映して、大皿でシェアできるメニューを揃えている。
最近はシェアできるメニューを用意しているところも増えてきてはいるが、フランスのレストランでは1人1皿が基本。
メニューには、トップ14のチームの名前がついた料理が並んでいる。大西洋の「ヴァンヌ」はオマールのラヴィオリ、「モンペリエ」はムール貝、オーヴェルニュ地方の「クレルモン」は、その地方のチーズのプレート、デザートに「ボルドー」のカヌレとそれぞれの土地の名産品を取り込んでいるのが楽しい。
トゥールーズソーセージとロブション風ジャガイモのピュレの「トゥールーズ」を選んだ。ソーセージから溢れる肉汁が、滑らかなジャガイモのピュレと混ざり合う。極めてシンプルな組み合わせだが、これがとてもフランスらしくて美味しい。
各テーブルにはスタッド・トゥルーザンのOBの名前がついているのも嬉しくなる。ここでもモニターでトゥールーズの試合が流れている。壁にはトップ14の優勝盾が堂々と掛けられており、店内に入ったところには日本代表のジャージーが飾られている。
「2023年のワールドカップの時に日本チームが来てくれたんだ」とのこと。
午後は友人が「トゥールーズで一番美味しいミルフィーユ」のサロン・ド・テに連れて行ってくれた。ちょうどその向かいにアントワンヌ・デュポンが経営に参加しているレストランがあった。
「職場でも『トト(デュポンの愛称)のレストランに行ってきたの』と常に誰かが言っているわ。まるで彼の話をしなきゃいけないみたいになっているのよ。オリンピック以降、彼も大変だと思うわ」と友人。栄光に伴う代償が大き過ぎなければいいのだが。
とりあえず、次の日にデュポンのレストランに行くことにした。