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ジャストとフェア。

ジャストとフェア。

渡邊隆

「RUGBY」というスポーツは、「FAIR」という意識が特に尊重されるスポーツのように感じる。
 全速力で生身の身体をぶつけ合い、倒す、この競技は、やはり単なるスポーツではない。人間と人間の闘いである。

 特にラグビーの華であるタックルは、ラグビーマンとしての矜恃、自己の尊厳と向き合う瞬間だ。
 その激しいスポーツの根幹をなすフェアの共通認識について、大西鐵之祐先生はこのように語っている。

「ジャストとフェアは違う。フェアは自分の良心に照らして絶対に恥じない行動、それを誇りとするような、正義に対する共通の精神」

 一方、ジャストは公正の意味も、ルール順守に近い。それに反さなければよいという考え方である。
 ルールをかいくぐって勝利を目指す。レフリーが見ていなければ何をやってもいい。フェアかアンフェアかの問題だ。

 その思考でスポーツをやると、社会に出て、周りの人に信頼され、尊敬される人間には到底なれない。人はいくら装っても、その人間性は中から滲み出てくる。

「集団は、個人にただ外面的に、みんなの行動に合致するよう求めるだけでなく、特にゲームはチーム全員が、共通に持っている考え方や情緒と同じものを持ってゲームに挑むことを要求する。その集団が、誇り高いモラルを持っているなら、ゲームに参加する選手にも、これを助ける人々にも、最高のフェアプレイの精神と心構えと態度が要求される」

「フェアな態度とは、スポーツによって身についた、他人に対するきれいな態度であって、法律を侵さなければ何をしてもよいということではない。ルールや法律がいかに変わろうとも、その根源にある、他人に対して人間的にきれいな態度をとる、という信念を修得させることなのである」

 そのことが、学生スポーツとして、教育上、最も重要な意義を有す。
 そのような人材を、世の中の企業は求めていて、頼りにされる。結果として会社の中枢に据えられる。

1980年早慶戦。左端が筆者。(撮影/大村祐治)

 日本及び、世界中の重要なポジションに多くのラグビーマンがいることがそれを証明している。いかにそのような人間が、今の社会に必要とされ、その根幹をなしているかを思う。

 ジャストの発想に終始すると、大好きなスポーツに青春の大切な時間のほとんどを捧げた日々が、無駄になり、最も大切な本質を学べずに、社会に出ることになる。

 特にラグビーというスポーツの原点は、自己犠牲である。14人が犠牲になって最後の1人に全てを託すスポーツである。誰も見ていないモールの中から必死でボールをもぎ取り、仲間がトライをとった時の嬉しさ。誰にも褒められないし、分かってもらえないその時を一人味わう。

 むしろその喜びを格別に思う人間がラグビーにはまる。何故か、自分がトライを取った時よりも、自分のパスが仲間に通って、トライに繋がった時の喜びは、何より嬉しい。

 一方、サッカーは、中学時代に、ゴールを決めたあの快感が、今でも体に残っている。スポーツによってこんなにも違う、不思議な感覚だ。

 大西先生はこのようなことも言っている。
「一番大切なことは、子供の時にゲームをやらせ、徹底的に闘争の倫理を教育していくということ。きれいか、きたないか、それは子供が良く知っている。理屈ではない、直感で感じる子供は、本質を見抜いている」

「ゲームでは、フェアとアンフェアのどちらを選ぶかという選択を、プレイヤーはいつも強いられる。フェアなプレイを喜ぶ、という純粋な気持ちが分かるのは十歳くらいまで。そういう訓練をやっていくことが、スポーツの真の目的ではないか」

 自ら振り返ってみても、小中高大と担任の先生、部活の先生たちの評価は明確であった。大好きな先生たちは、僕たちのことを思ってくれる真心があった。それが直感で分かっていたのだと思う。
 普通のサラリーマン先生ではなく、自分の評価などに関係なく、僕たちをかばってくれたり、信じてくれた。

「先生」という職業は、やはり今の時代も聖職なのだと思う。普通の職業とは全く違う。「人を育てる」という重要な使命は、人々の幸せな社会を創ることに繋がってゆく。

 自分や家族や、自分が所属する会社や、党派や、省庁だけが良ければハッピーなのではない。世界に誇れる日本とはどんな日本だろうか、皆が幸せな素晴らしい世界を創るためには、一人一人がどう考え、どう行動すれば良いのだろうか。ラグビーから学ぶことは多い。スポーツによる真の人間教育が必要に思う。

 最も過酷なスポーツのひとつに挙げられる、ラグビーというスポーツに青春を捧げた意味を、社会人になり、様々な場面で感じることがある。

 環境が人を育てる。その環境が厳しければ、厳しいほど、人は逞しく、強くなる。簡単には折れない、しなやかな芯が、中心に存在する。固い絆で結ばれた仲間がいる。

 ラグビーに没入した人間は一生、その片鱗が身体に残るような気がする。フェアか、アンフェアか、常にこの問いを自分に投げかけながら。

【プロフィール】
渡邊 隆/わたなべ・たかし
1981年度 早大4年/FL。1957年6月14日、福島県生まれ。安達高→早大。171㌢、76㌔(大学4年時)。中学相撲全国大会で準優勝。高校時代は陸上部だった。2浪して早大に入学後、ラグビーを始める。大西鐵之祐監督の目に止まり、4年時、レギュラーに。1982年全早稲田英仏遠征メンバー。現在は株式会社糀屋(空の庭)CEO。愛称「ドス」

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