今年のトップ14は、圧倒的な強さを示したトゥールーズの優勝で幕を閉じた(6月28日/59-3 ボルドー)。
現地メディアはトゥールーズのことを「無敵」、「アンタッチャブル」、「アベンジャーズ」と表現する。
今年のトゥールーズはまさに手がつけられない強さを見せていたが、決勝で59-3という、フランス国内リーグ史上かつてない点差になってしまったのはなぜなのだろうか?
「選手は明らかにフレッシュな状態ではなかった。準々決勝、準決勝で消耗する試合をした状態で、F1マシンのようなチームと競い合うのは難しい」とボルドーのヤニック・ブリュ ヘッドコーチ(HC)は試合後の会見で述べた。
レギュラーシーズンを1位で終えたトゥールーズは、準々決勝を戦わずして準決勝に進めた。
また準決勝は2日にわたって行われる。1位で終えたチームの準決勝は初日に行われ、決勝までの日数が1日多くなる。
一方、4位のボルドーは、準々決勝から準決勝、そして決勝と中5日のスケジュールで毎週激戦を勝ち抜かなければならず、疲労が蓄積した状態で決勝に臨んだ。
しかも2試合とも激しいFW戦を制して勝利を掴んだ。FWの疲労度は相当なものだったはずだ。
しかし、それ以前にすでにボルドーの選手には疲労が溜まっていた。
ワールドカップ(以下、W杯)を終えて代表選手がクラブに合流した後、軌道に乗り始めて、11月25日のトップ14ペルピニャン戦から1月24日のチャンピオンズカップのサラセンズ戦まで8連勝する。この時、トップ14では2位に位置していた。
しかし、その後シックスネーションズで、ボルドーからSHマキシム・リュキュ、SOマチュー・ジャリベール、WTBダミアン・プノー、WTBルイ・ビエル=ビアレ、CTBヨラム・モエファナ、さらに昨年のU20世界大会チャンピオンのCTBニコラ・ドゥポルテルまで代表に招集され、BKを一式失った。
代表選手が不在の間、ボルドーは1勝5敗で終え、4位まで下がった。代表選手が再合流した後、プレーオフ進出を意味する6位以内を死守するために主力を休ませることができなかった。
NO8もテビタ・タタフ以外に、マルコ・ガゾッティがいる。昨夏のU20世界大会で最優秀選手に選ばれた後、グルノーブルからボルドーに加入して注目されていたのだが、3月末のトゥールーズ戦で負傷したため、「タタフに連戦させ過ぎた」とブリュHCは漏らしている。
トゥールーズもシックスネーションズでフランス代表に10人、イタリアに1人、スコットランドに1人を招集された。しかもPR2人、HO2人、LO2人、BR2人とFWがいなくなった。
さらにFLアントニー・ジュロン、SOロマン・ンタマックは負傷、SHアントワンヌ・デュポンは7人制の大会に参加していた。
しかし、この期間をトゥールーズは5勝1敗で終え、5位から2位に順位を上げた。これが今季のトゥールーズの強さなのだ。主力選手が不在でも戦力を維持できるように、エスポワール(アカデミー)の選手も積極的に起用して選手層を厚くしながら、チーム全体の戦力を底上げすることに成功したのだ。
最も顕著に見られたのが、2月25日のクレルモン戦。23人中9人がエスポワールの選手で構成された平均年齢25歳に満たないチームで敵地に乗り込み白星を上げた。
さらに5月28日のモンペリエ戦ではエスポワール10人を含めた平均年齢23歳のチームが敵地で勝利を挙げ、モンペリエを入れ替え戦に送り、主力は体力を温存、翌週、チャンピオンズカップで優勝することができた。
この方針は今年始められたものではない。
2021-2022シーズンはチャンピオンズカップとトップ14のどちらも準決勝で敗退した。その原因を分析し改善策を探った。その結果、主力選手の負担を軽減し、決勝トーナメントのような落とせない試合で彼らに存分に力を発揮できるように、選手層を厚くすることが優勝するためには必須だと判断した。
この年はシックスネーションズで代表選手不在の期間中に5試合が行われ、トゥールーズは1勝しかできなかった。
そこで落としたポイントを取り戻すために、代表選手はシックスネーションズの疲れを背負ったまま、クラブで連戦しなければならなかった。クラブに残っていた選手も留守を守るために連戦して疲弊していた。
その後、「勝つためには、選手をフレッシュな状態に保つことが重要だ」とモラHCは繰り返し口にしている。
2015年に就任した時、トゥールーズは世代交代の時期に差し掛かっていた。その頃からグループの若返りを図るため、プロの練習にエスポワールを参加させていた。
近年はさらに積極的にエスポワールの選手をプロチームの試合に起用して経験を積ませ、若手の育成に取り組んできた。その努力が実を結んだ。今年は59人の選手が試合でプレーした。
今季はW杯もあり、代表選手不在の期間が長く、グループの一体感を作るのはデリケートな問題だった。
トゥールーズでは、グラウンドを離れてグループで過ごす機会を設けている。
「ラグビー以外の世界と繋がりを持つ機会を与えて好奇心を刺激するようにしている。劇場に行ったり、オーケストラのリハーサルに立ち合わせてもらったりした。今年は絵を描いたが、思いのほか選手がハマって盛り上がった」とモラHC。
3月に、トゥールーズから車で2時間ほどの所にある『スラージュ美術館』を全員で訪れた。「黒の画家」と呼ばれるピエール・スラージュ自身も、190センチの長身を生かして最初はLO、のちにNO8として楕円球と戯れ学生時代を過ごした。
選手は、スラージュの作品を鑑賞した後、チームメイトの肖像画を描き合い、絵の才能を披露し合い、からかったり、感心したりしながら、日常とは違った体験を共有した。
これらの肖像画はオンラインオークションに出品され、収益は文化・社会・教育・環境保護活動やラグビーの普及活動のための基金に寄付された。
さらに、昨年6月17日にトップ14の決勝を終え、2週間の休みを挟んだだけでW杯準備合宿に参加し、切れ目のないシーズンを送っている代表選手のモチベーションを刺激することも必要だった。
このクラブの強みは、その歴史であり、歴史を築いてきたOBがコーチとして、会長として在籍しており、勝つカルチャーとラグビー哲学がクラブのDNAとして継承されていることだ。
BKコーチのクレマン・ポワトルノーは4度ブレニュス盾(トップ14優勝盾)と3度チャンピオンズカップを手にした。モラHCは第1回チャンピオンズカップで優勝し、フランスでは3年連続でチャンピオンになった。
モラHCと時代を共にチャンピオンズカップで優勝したディディエ・ラクロワ会長は、4年連続フランスチャンピオンになった後、さらに2度優勝している。この歴史を利用して、選手の競技者魂に火をつけた。
「コーチは、僕たちよりも多くのタイトルを獲得している。クレマン(ポワトルノー)は、彼が勝ち取ったタイトルの話をよくする。僕たちも彼らに近づいてはいるけれど、もっと勝って彼らをハラハラさせられるようにならなくちゃ」とFBトマ・ラモスが言うように、過去の黄金世代を超えることに意欲を燃やしている。
「この世代の足跡をクラブの歴史に刻みたかった」と言うのはSHアントワンヌ・デュポン。
「僕たちの2度目の2冠(2021、2024年チャンピオンズカップとトップ14)は、クラブの選手の育成が成功していることを証明する。エスポワールも今年も優勝した。彼らも、ステップを効果的に使い、パスを繋ぐトゥールーズのラグビーをしている。僕たちはどんどんボールを動かしたいんだ。それが僕たちの日々のモチベーションで、その努力が報われている」と続けた。
決勝のあとの会見、目を細めるモラHCがいた。
「ギィ・ノヴェス前HCは20年以上も極上の世代を指揮した。私も今、極上の世代の選手に恵まれているが、近年はどんどん競争が激しくなっているのが実情だ。レベルも年々上がっていて、今後も止まることはないだろう。でもこの世代の姿勢には感心させられる。彼らがクラブの歴史にかつてないほどの足跡を残すかって? そうあってほしいね。まだそこに到達するにはタイトルの数が足りないけどね」
指揮官は来季に向け、はやくも選手に発破をかけた。
【プロフィール】
福本美由紀/ふくもと・みゆき
関学大ラグビー部OBの父、実弟に慶大-神戸製鋼でPRとして活躍した正幸さん。学生時代からファッションに興味があり、働きながらフランス語を独学。リヨンに語学留学した後に、大阪のフランス総領事館、エルメスで働いた。エディー・ジョーンズ監督下ではマルク・ダルマゾ 日本代表スクラムコーチの通訳を担当。当時知り合った仏紙記者との交流や、来日したフランスチームのリエゾンを務めた際にできた縁などを通して人脈を築く。フランスリーグ各クラブについての造詣も深い。