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初出場、初トライ、そして初えどりく。松下怜央[クボタスピアーズ船橋・東京ベイ]、沈黙を破る。
2001年1月31日生まれの24歳。関東学院六浦中→関東学院六浦高校→早大。183センチ、93キロ。(撮影/松本かおり)
2025.04.26
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初出場、初トライ、そして初えどりく。松下怜央[クボタスピアーズ船橋・東京ベイ]、沈黙を破る。

田村一博

 これまでスタンドから見つめていたピッチでオレンジアーミーの声援を浴び、気持ちよかった。

 クボタスピアーズ船橋・東京ベイの松下怜央(れお)が、4月26日にスピアーズえどりくフィールドでおこなわれた三重ホンダヒート戦に出場。後半25分からの短い時間のプレータイムも、ボールタッチも多く、積極的に動いた(39-20)。

 2022-23シーズンの途中(2023年1月)、早大からアーリーエントリーでスピアーズに加入。そのシーズンと2023-24シーズンは出場機会がなく、今季の第14節(前々節の4月6日)、リコーブラックラムズ東京戦(42-14)がリーグワンでのデビューだった。

初の「えどりく」は4月26日のヒート戦。後半25分からピッチに立ち、「声援が気持ちよかった」。(撮影/松本かおり)


 その試合では初トライも挙げた。脳震盪の疑いでWTB根塚洸雅がピッチから離れていた前半29分、代わりに入っていた松下に好球が渡る。
 左サイドでパスを受けた背番号23は内に切れ込み、ディフェンダーを跳ね飛ばして40メートル弱を走り切った。

 後半22分過ぎからはWTBハラトア・ヴァイレアとの入替で正式に出場して試合終了までプレーした。
 入団からデビューまでに長い時間を要したものの、忘れることのない試合でトライも刻む勝負強さも見せた。

 トライシーンを振り返り、「自分は対人(の局面でのプレー)が強みです。1対1になった場面だったので、取り切るマインドセットでした」と話す。
 当日の試合後、記者に囲まれて「ファーストタッチ(でのトライ)」と答えたが、後日、映像を見返すとセカンドタッチだったという。

「あのトライは、(ラインアウトからの)ファーストアタックで(味方が)前に出てくれたから、相手ディフェンスが返ってこられなかった。それで、僕が外で自由に動けました」とチームメートを称えた。

 ただWTBの位置に立つ者として、ゲインラインを切って前に出ることこそ求められていると理解している。
 出場機会を与えられるようになったのも、練習時から首脳陣の期待に応えられるようになったからだ。

 根塚、木田晴斗と、日本代表クラスのWTBへのチャレンジがどれだけ通用するか試したくて、スピアーズへの入団を決めた。
 しかし、今年からユーティリティープレーヤー。試合出場機会をつかめたのも、複数ポジションでプレーできることがライバルたちとの差別化につながったからだ。

 2023-24シーズン前のプレシーズンマッチ、横浜キヤノンイーグルスとの試合時、12番で起用されたことがあった。手応えを感じるパフォーマンスができた。
 その後も練習でFBに入ったり、CTBでプレーして好感触を得る。面白さも感じた。

「それで今シーズンの途中、フラン(ルディケHC)にユーティリティーで、と直訴したら、『怜央はいろんなところでプレーができるし、それが強み』と言ってもらえたので決めました」
 それぞれのポジションにいるスペシャリストのプレーも参考にしつつ、プレーの幅を広げていった。

「初出場が決まった時、親族や友だちから連絡をもらい、応援に来てくれました」。そのブラックラムズとのデビュー戦(4月6日)でトライを挙げ、「試合に出られない間に積み上げた力を出せた」と話した。(撮影/松本かおり)


 複数ポジション可。
 それだけが飛躍の理由ではないことも忘れてはいけない。
 学生時代も含めこれだけ試合から遠ざかったことがない男は、雌伏の時期に変わった。

 自身のことを、「もともとモノを言うタイプではない」と分析する。言い換えるなら、学生時代はなんだかんだいって試合に出場し続けられていたから、あまり自分からコーチ陣に話しかけることもなかった。

 しかしスピアーズでの悶々としていた頃に姿勢を変えた。
 田邉淳アシスタントコーチに改善点へのアドバイスを求めた。ルディケHCに、自分はどこを成長させるべきか問い、向上するための行動を実行した。

「試合に出られない時期は悔しくて、悩んだこともありました。でも振り返ってみると、練習でAチーム、Bチームのどちらにいようが常に100パーセントを出すのが大事なのに、昨シーズンまではそこが足りていませんでした」

 そこに気づいたから世界が変わった。
 スピアーズではメンバー外で、仮想敵となって試合への準備期間に出場予定選手たちと対峙するチームを「スポッターズ」と呼ぶ。その中での活動時も魂を込めてプレーし、プラスになることを自分に付け加えていった。
 初出場、初トライ、えどりく登場までのプロセスには、心身両面の進化があった。

 全国大学選手権などで、秩父宮ラグビー場の舞台や、多くの観客の前に立つことは慣れているはずなのに、2年以上ぶりの公式戦の空気には緊張した。しかし、その空気こそが成長のスピードもはやめてくれる。
 ここからクライマックス。その空気も吸い込めたなら、さらに上昇気流は高まる。





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