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貢献度満点。日本語満点。ノックス クリントン[スカイアクティブズ広島]
4月20日のレビンズ戦で挙げた、この日、自身2つめのトライシーン。今季は10試合出場で8トライ。(撮影/松本かおり)
2025.04.25
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貢献度満点。日本語満点。ノックス クリントン[スカイアクティブズ広島]

田村一博

 なまはげの巨大オブジェが飾られる空港がある街、秋田が来日後最初の地だった。
 昨年まで暮らしていたのはF1カーのエンジン音が聞こえる場所。そしていま、世界に知られる中国地方の平和宣言都市、広島に暮らす。

 ノックス クリントンが所属するマツダスカイアクティブズ広島の練習場所は安芸郡坂町の鯛尾(たいび)にある。
 リーグワンの全26チームの中で、もっとも海に近いグラウンド。選手たちは、船が行き来する光景を見ながらトレーニングに取り組んでいる。

 今季、チームの雰囲気がいい。新任のダミアン・カラウナ ヘッドコーチの存在とともに、ノックスの振る舞いが空気を盛り上げる。
 流暢な日本語を発して日本人選手と外国出身選手のコミュニケーション量を増やす役割も果たしている。

 同チームは現在リーグワン、ディビジョン3の首位にいる。13節を終えて10勝3敗の勝ち点51。同50で2位の狭山セコムラガッツとともに、レギュラーシーズンの2試合を残した時点でディビジョン2下位チームとの入替戦出場を決めた。

 シーズン前に掲げた「昇格」のターゲットに届くための第一関門、上位2位以内に入ることは、4月20日に山口・維新みらいふスタジアムでヤクルトレビンズ戸田に48-3と大勝してクリアした。
 その試合でノックスは2トライを挙げて勝利に貢献した。

1992年12月27日生まれの32歳。182センチ、98キロ。秋田ノーザンブレッツ、三重ホンダヒートを経て、今季から加入。(撮影/松本かおり)


 最初のトライは、5-3とスコアで拮抗していた前半25分だった。トライラインに迫ったFWのすぐ左横に立ち、パスをもらうと、パワーも使って体をねじ込んだ。
 2つ目のトライも、後半最初の得点と効果的だった。敵陣22メートルライン付近でボールを手にすると、ディフェンダー間を突破して走り切った。

 2連敗して迎えたレビンズ戦で勝利した試合後、ノックスは自分の活躍より「チームが素晴らしかった」と仲間を称えた。
「負けた試合をみんなで振り返りました。そういう時間のあとの準備が良かったと思います」と話した。

 インタビューは日本語で大丈夫です。
 チームスタッフの言葉は本当だった。淀みない言葉で試合を振り返り、話す。入替戦に向けて、「チームはタイトになり続けることが大事」と言った。

 今季からチームに加わったニューフェースは32歳。日本での生活は2015年に始まった。
 同年に来日し、秋田ノーザンブレッツに所属してプレー(ジャパンラグビートップイーストリーグ)。2018-19シーズンからは三重ホンダヒート(当時はHonda HEAT)に活躍の場を移してリーグワン2023-24シーズンまで同チームでプレーした。

 ヒートとの契約を終えた後、スカイアクティブズからオファーを受けた。以前に何度か訪れて気に入っていた地のチームからの誘い。決断するまで時間はいらなかった。
「広島は本当に住みやすいです」

 両親は南アフリカ人。同国のダーバンに生まれ、10歳前後で家族とともにオーストラリアへ移住。クインズランド州ブリスベンを新たな故郷とした。
 スーパーラグビーのフォースやブランビーズのアカデミーに所属して上を目指すも願いは届かず。23歳の時に日本との縁ができて秋田へ向かった。

 ラグビー選手としてのチャンスをつかむためのチャレンジだったけれど、すぐにこの国の人や文化が気にいる。 
「日本に来て、人生が楽しくなりました。文化が好き。日本人になりたい気持ちが高まり、パスポートを持つチャンスに向けて言葉を勉強しました」
 2024年に帰化が実現。「引退するまで日本でプレーしたい」思いがある。

 そんな人生観を持っていることも、選手間の絆を深める存在となっている理由だろう。全員で苦楽を共有することはチーム力の向上を呼ぶと知っている。
 スカイアクティブズの今季の好調さも、日常の空気にあると思っている。

仲間に祝福を受ける。南アフリカ生まれ。オーストラリア育ち。「雪は秋田で初めて見ました」。(撮影/松本かおり)


「ダミアン(カラウナHC)は、チームの文化を大事にする人。努力することも楽しみながらおこなう。ハードワークの楽しい雰囲気を作ろうとしているので、みんなのパフォーマンスが上がっています」
 自身も、そのサポートを心がけて行動する。

 仲間たちと充実した日々を送っていると、特別な街に住んでいることを忘れそうになる。平和が当たり前のように思ってしまうときがあるけれど、「広島では、街の中に行くと原爆ドームがある。それを見ると、感謝の気持ちを思い出します」と話す。
 誠実な人柄。こんな人がミッドフィールドに立っていたら、確かにチームの空気が引き締まりそう。

 ディビジョン1でのプレー経験もあるだけに、上のステージに這い上がっていくことが簡単でないことは知っている。
「チーム全員で努力したから、きょうは高いパフォーマンスを出せました。いい雰囲気です。ただ、(こういうサイクルを)最後まで続けていくことが本当に大事」

 大好きなこの国でまだまだプレーを楽しみたい。
 高いステージでのラグビーは、もっともっと楽しいと仲間たちに伝え、一緒に階段を昇っていきたい。


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