logo
信頼、愛情、そして未来。スピアーズに見るチーム作りの大事な根っこ
写真左上から時計回りに、浅井勇暉、上ノ坊悠馬、原大雅、近藤翔耶。(撮影/松本かおり)
2025.04.22
CHECK IT OUT

信頼、愛情、そして未来。スピアーズに見るチーム作りの大事な根っこ

田村一博

 オレンジ色は、雨の日だって気持ちを華やかにしてくれる。4月13日の花園ラグビー場。その日、クボタスピアーズ船橋・東京ベイのホストゲームとしておこなわれた東京サントリーサンゴリアス戦では、スタジアムの周辺にたくさんのブースが出ていた。
 クボタは大阪に本社がある。当日は雨が降っていたけれど、多くのファンや社員サポーターの方たちが観戦に訪れていた。

 今季チームに加わったルーキーたちが、それぞれのブースでファンサービスをおこなっていた。
 クボタ建機&農機PRブースには上ノ坊悠馬と浅井勇暉がいて、クボタアグリサービスPRのところには近藤翔耶(とわ)の初々しい姿があった。
 3人とも、すっかりスピアーズファミリーの一員となっているようだった。

4月13日、花園ラグビー場にて。浅井勇暉(左)と上ノ坊悠馬。(撮影/松本かおり)
オレンジアーミーのみなさんと。近藤翔耶と、昨季加入の山田響(右)。(撮影/松本かおり)


 そのルーキー3人+スタッフの原大雅(はら・ひろまさ)さん、計4人の入団会見が船橋にあるスピアーズのクラブハウスで開かれたのが3月20日だった。
 前川泰慶GMとフラン・ルディケ ヘッドコーチ(以下、HC)も参加した。

 会場となったクラブハウスには、いい空気が流れていた。最初に口を開いた前川GMの言葉がチームの良心を表していた。
 GMは、「いろんな選択肢の中から、スピアーズを選んでくれてありがとうございます」と最初に4人へ感謝の気持ちを伝え、「長く会社とチームを支えてくれる人材に来てもらえたと嬉しく思っています。将来を一緒に築いていけることを楽しみにしています」と続けた。

 選手たちも、それぞれ胸の中にある思いを伝えた。
 FL上ノ坊とCTB近藤は、それぞれ天理大(市立尼崎)、東海大(東海大仰星)の出身。もともと大学卒業後も高いレベルでのプレー継続を望んでおり、縁あってスピアーズの一員となった。

「やるからには高いレベルで続けたいと考えていました」と話す上ノ坊は、練習に参加した時、ファミリー感が心地よかったと言った。天理大のOBも多く、先輩たちの存在を心強く感じたそうだ。

 近藤も「アットホームなチームの一員になりたいと思いました。試合に出られる出られないに関係なく、このチームに身を置くことで成長できると感じた」とした。
 そして、練習に参加してすぐにレベルの高さを痛感した。「大学時代はどうやって(防御を)ブレイクするかを考えていましたが、ブレイクダウンが激しくて、ボールセキュリティが大変」と話した。

 ふたりとも、先輩たちのラグビーと向き合うプロフェッショナルな姿勢、クオリティーの高い練習と、テンポよくメニューが切り替わっていくことへの驚きを口にした。

 LOとして期待される浅井は慶大出身。母校・仙台高校では1年生の途中までスキーをしていた。ジャイアントスラロームとスラロームの種目に取り組んでいて、全国大会への出場もある。
 高校ラグビー部には30人前後の仲間がいて、県の8強入りが定位置だったようだ。そこからコツコツ努力を重ねて国内トップクラスのチームに加わった。

前川泰慶GM(左端)とフラン・ルディケHC(右端)も加わって。(撮影/松本かおり)


 浅井は上ノ坊、近藤とは違い、社会人でラグビーを続けるかどうか悩んだという。メーカーへの就職を希望し、一般的な就職活動もおこなった。
 その中で他のふたり同様、スピアーズの練習に参加してみて漂う空気に惹かれたそうだ。そして、採用を担当していた前川GMとも話していろいろ質問。会社にも魅力を感じ、「仕事でも貢献したい」と決断した。

 ちなみに原チームスタッフは、東大、東大大学院で学んだ人物だ。学生時代のプロフィールによると、新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻だったようだ。
 チームと会社から大きな期待がかかる。レフリーもできる。

 前川GMの選手評に愛があった。
 浅井については1年生のときのことから話した。当時慶大の指導をしていた栗原徹監督に「骨太の選手でおもしろいので是非、注目していてください」と言われたそうだ。
「ただ、いつ練習に行っても下のチームにいました。しかし4年生になってチャンスをつかんで全試合に出た。そのタフさを生かして、LOとしてセットプレーの中心になってくれるのではないかと期待しています」

 上ノ坊についても、人間的な部分に触れた。
「4年生になるまでなかなか上のチームにい続けることはできませんでしたが、トップチームでもジュニアチームでも、同じクオリティーでプレーできるマインドを持っています。バックローというポジションは層が厚い。簡単に出場機会は回ってこないかもしれませんが、チャンスがきた時に力を発揮して貢献してくれると思います」

 近藤については東海大のグラウンドに足を運んだ時、「コーチが練習に入っているのかと思った」という。東海大では共同主将も務めていた。
「ハドルの中や練習中の声かけを聞いていて、そう感じました。コーチのような視点を持った選手になってくれることを期待しています」

ルーキーたちを見つめる目が優しい。写真左は前川GM。右上はルディケHC。右下は広報/企画マネージャーの岩爪航さん。(撮影/松本かおり)

 採用の際に大事にしていることは、「長くチームにいてほしい」と思える人であることだ。一人ひとりにいろんな選択肢がある時代ではあるが、社員選手として加わる際は、「まずはクボタという会社で活躍してくれるかどうかを見ています」という。
 最終的には編成会議で新加入選手たちの顔ぶれは決まるが、前川GMは「間違いないと思います」と、自分が惚れ込んだ選手たちを推薦してきた。
 内面を見つめて、会社もチームも、本人も幸せになるかを考える。

 ルディケHCの信頼も厚い。指揮官は、「この10年を見ても、スピアーズには、その世代のベストな選手たちが何人もいます」と話し、その根っこにあるものを、パフォーマンスだけでなく人間性も見つめているからとする。

「100パーセント信頼しています。このチームの文化に合っているのかどうかも考えています」と言って続けた。
「例えばオペティ・ヘル。他の採用担当が見ない人を連れてくる。ダイヤモンドの原石でした。小さなところも見ることが大きな結果に結びついています」

 ラグビーに限った視点でない誠実なチーム作りが、スピアーズの躍進の根っこに見えた。

ALL ARTICLES
記事一覧はこちら