![涙が出た。倒れるまで走ろうと思った。中鹿駿[日野レッドドルフィンズ]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/04/0D4A0668_2.jpg)
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荒々しく、何度も前に出た。
ボールキャリーという言葉では、本当の姿を表すのに足りない。チームごと前に持っていった。
中鹿駿(なかしか・しゅん/FL)は4月11日(金)の午後7時30分にキックオフとなった九州電力キューデンヴォルテクス戦で日野レッドドルフィンズの勝利に貢献した。
東平尾公園博多の森陸上競技場(福岡)でおこなわれたその試合、地元ファンの声援を受けるヴォルテクスに2つのインターセプトからトライを重ねられて17点を先行される。
しかしレッドドルフィンズは、果敢なアタックを繰り返して3連続トライを奪い、19-17と逆転する。PGを決められて19-20とされるも、僅差で前半を終えた。
後半に入っても点の取り合いは続き、接戦のまま終盤を迎える展開は33分にヴォルテクスのSOトム・テイラーがドロップゴールを鮮やかに決めて決着がついたかと思われた(31-33)。
しかし40分、途中出場の22番、大内空がトライを奪う。36-33の逆転勝利だった。
激闘を終え、ゲームキャプテンを務めた中鹿は、「序盤はアンラッキーと言うか、九州電力さんの素晴らしいインターセプトもあってなかなか流れがつかめませんでしたが、練習の時から、思うようにいかない時にしっかり切り替える準備をしてきました。それがよかった」と戦いを振り返った。
今季はバイスキャプテンを務めている。主将の笠原雄太が戦列を離れているため、チームが戦った全11試合のうちの出場したすべてでゲームキャプテンとして仲間の先頭に立つ。
この日は、「うまく喋れないのでプレーで見せようと思っています」の言葉通りの働きだった。
この日の試合前の時点でリーグワンのディビョン2の7位だったレッドドルフィンズ(全8チーム)。最終的に下位2チームとなれば、下部チームとの入替戦を戦わねばならない。それを回避するためにも勝たねばならなかった。
「残り試合が少なくなって負けられない戦いが続いています。なので、チームを鼓舞してプレーしました」

試合開始直後から全開で動き続けた。「気持ちです。天理魂です」と、湧き出たエナジーの原点を話す。
「ナイターということもあるのか、きょうは正直、前半が終わったぐらいから、体の重さがいつもと違いました」
あれだけ動き続けたら、それはそうだろう。
ベンチの選手に、「準備しといてくれ」と伝えて後半も働き続けた。結局33分までプレー。AJ・ウルフにバトンを渡した。
「後半の20分で倒れてもいいからどんどんやろうと思いました」
逆転のラストシーンはピッチの外から見ていた。大内がインゴールに入った時、感極まって涙がこぼれた。
アタックを磨き続けてきたチームが攻め勝った。シーズン終盤に向け、自分たちのスタイルで勝てたことは大きい。
「試合の序盤は外に回そう、回そうと意識しすぎていました。コリジョンは負けない自信があったので、しっかりフォワードを当てておいて、いいタイミングで外に回そうと話しました。基本的なところに戻ろうと言って、それを実行できた」
競りながらも勝てない。そんな試合がいくつもあった今季。中鹿は、「全員がひとつのビジョンを見ることができていない」と感じた。
「アタックはこうしよう、ディフェンスの目標はこれとか、みんながいろんなところを見ていた。それをひとつに、この試合からコンパクトにしようと話して、全員が意識できる目標をひとつ掲げて戦った。全員が同じビジョンを見てプレーした結果が出ました」
滋賀県の光泉高校出身。天理大では3年までなかなか先発の座をつかめず、ひと桁の番号を背負えるようになったのは4年生になってからだ。
LOとして大学選手権制覇に貢献した。
3年時まで目立った活躍がなかったこともあり、強豪チームからの誘いはなかった。JR西日本に入り、ラグビーを続けたけれど、大学日本一にもなって燃え上がったラグビーへの熱はそのままだった。
もっと上のチームでやりたいとの思いは抑えきれず、縁をたどって自分からレッドドルフィンズへアプローチをした。
願いが届いてよかった。
「拾っていただいた。感謝の気持ちが大きいです」と話す。チームへの全力コミットを誓う。
夢をあきらめていたら、4月の夜空の下、劇的な逆転勝利に涙を流すような感激を味わうことはできなかった。
人生には、安定したレールから外れたからこそ出会える喜びがある。