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激戦の決勝を終えたインタビューは感動的だった。その声は、勝利の喜びよりも、深いものがあった。
「私たちには、学生もいれば、母親もいて、フルタイムで仕事をしている人もいます。そんな私たちが、このような結果(優勝)を残せた事を本当に誇りに思います。結果に関わらず、心を込めてプレーしたかったのです」
ブルーズのNO8リアナ・ミカエレトゥが試合直後のピッチの上でSky Sportのインタビューで言葉を噛み締めながら語った。
3月1日に開幕し、今年で4年目を迎えたニュージーランド(以下、NZ)女子【スーパーラグビー・アウピキ】の頂点を決める決勝戦が4月12日(土)、オークランドにあるイーデンパークで開催された。
ホームのブルーズ・ウィメンが激戦の末26-19のスコアで勝利を収め連覇を達成した。
◆マタトゥ有利の序盤も、ブルーズが巻き返す乱打戦の前半。
レギュラーシーズン6試合を経て決勝に勝ち上がってきた上位2チームは、5勝1敗で1位のブルーズ・ウィメンと、4勝2敗で2位の南島連合軍のマタトゥ。両軍のレギュラシーズンでの対戦は、3節(3月15日)にマタトゥのホームでもあるネルソンでおこなわれ、28-7でブルーズが力の差を見せつけて勝利した。
2度目の対戦は5節(3月29日)、北島のファンガレイでおこなわれた。
その試合は、マタトゥの奮闘にブルーズのミスが目立ち37-29でマタトゥがリベンジする。今シーズンの直接対決は、1勝1敗の五分。最終決着は決勝でつけることになった。
決勝ではNZの国歌斉唱もおこなわれ、その後、マタトゥの気合の入ったハカが披露された後にキックオフとなった。
序盤に主導権を握ったのは、ビジターチームのマタトゥ。前半5分、ペナルティキックを得ると、クイックタップから仕掛けてワイドに展開する。14番ウィニー・パラモがファイブポインターとなり先制した(5-0)。

その後も勢いが続いたマタトゥは、18分、クイックリサイクルから13番エイミー・デュプレッシーがパワーを活かしてインゴールになだれ込む。コンバージョンも決まり12を先行した。
序盤は2トライを奪ったマタトゥの一方的な時間に。シーズン終盤に若干失速気味だったブルーズは決勝でもスタートから戸惑った。
しかしセカンドクウォーターに突入すると、昨年の王者ブルーズに初めてのチャンスが訪れた。
中央付近のスクラムから右に展開。決勝では13番を付けて出場したポーシャ・ウッドマン・ウィクリフの力強いラインブレークからサポートについた12番ルアヘイ・デマントが中央にトライ。コンバージョンも決まり7-12と点差を縮めた(22分)。
デマントのトライで完全に流れを掴んだブルーズは、FWの突進から効率よく前に出た。毎試合フロントローとは思えないワークレイトを見せる1番クリス・ヴィリコが3、4人のタックルを弾き飛ばしてトライを奪う。コンバージョンも決まり、14-12と逆転した(26分)。
勢いを得たブルーズはその後もゴール前まで攻め込むも、マタトゥCTBデュプレッシーがタックルで仕留めた後にすぐ起き上がり、ジャッカル(スティール)でピンチをしのぐ。激し展開が続いた。
前半は、ブルーズが僅か2点(14-12)のリードを奪って折り返した。
◆激しいコリジョン。両軍にカード。ブルーズが激戦を制す。
後半、先にトライを奪ったのはマタトゥだった。
54分、ゴール前のチャンスでFWでこだわり前に出る。この試合で再三鋭い突破を見せたNO8 カイポ・オルセン・ベイカーが持ち味のパワーを活かしてトライラインを越える。コンバージョンも決まり逆転に成功した(14-19)。

しかし、ブルーズもすぐさま反撃する。後半に入り12番の位置から司令塔のポジションに代わったデマントが仕掛けて2人のディフェンスを引き付け、バックハンドの見事なオフロードパスを放つ。そのパスを受け取ったCTBウッドマン・ウィクリフがゴールポスト真下にトライ。コンバージョンも成功で21-19と再逆転に成功した(60分)。
最終クウォーターに入り激しさがワンランク上がったコリジョン(衝突)戦。63分、マタトゥ2番のジョージア・ポンソンビーがヘッドコンタクトでイエローカードを受けた。
その4分後には、ブルーズに違う色のカードが出る。途中出場のLOエロイーズ・ブラックウェルがヘッドコンタクトでビデオ判定に持ち込まれた。結果、こちらはレフリーが危険度の高いタックルと判定し、一発退場のレッドカードとなった(67分)。
70分、逆転を狙うマタトゥが懸命に展開するも、ブルーズの15番ブラクストン・ソレンソン・マギーがパスをインターセプト。そのまま70メートルを走り切って左中間にトライをする(26-19)。
マタトゥにとってはダメージの大きいトライ。そう思われたが、数的に有利になっていたチームは徐々に息を吹き返す。残り時間1分となった後のゴール前の攻防は見ごたえがあった。
攻め立てるマタトゥに対してブルーズの気迫のディフェンスが炸裂。トライラインを越える場面が2度あったが、いずれもグラウンディングを許さなかった。
ロスタイムに入ってもマタトゥは最後の攻撃を仕掛ける。得点差は7。1トライ1ゴールで延長戦に持ち込める。そんな望みをつなぐ右サイドへのロングパスは、そのパスの行方をブルーズのウッドマン・ウィクリフが冷静に見ていた。鋭い出足でパスをインターセプト。ラックができた後、ボールはタッチに蹴り出される。ブルーズの勝利が決まった。
こぶしを突き上げるブルーズの選手たち。一方でマタトゥの選手たちは悔しさに涙する。ピッチの上にふたつのドラマがあった。
あちらこちらで交わされる温かいハグでお互いをたたえ合う。試合後には女子ラグビーならではの美しい光景が見られた。
終盤に焦りが見えたマタトゥは2度もパスをインターセプトされ逆転に繋がらなかった。ブルーズの勝因となった気迫のディフェンスは圧巻だった。
シーズン序盤はブルーズが他を圧倒していたイメージだったが、マタトゥが試合を重ねるごとに調子を上げた。決勝では、特にFW陣が対等以上に戦った。まさに歴史に残る決勝だった。
前日本代表ヘッドコーチの娘、SHマイア・ジョセフ(マタトゥ)は、決勝途中でケガにより退くも、シーズンを通じて良いパフォーマンスを見せていた。
激戦を制したブルーズはアウピキ2連覇。2回目の優勝は最多(チーフス、マタトゥはともに1回の優勝)。

◆ブルーズの10代の新星と、ベテランの価値。
優勝したブルーズでは、2人の10代の選手が決勝でもピッチに立った。
18歳ながら一気に名を売ったFBソレンソン・マギーはスピードを活かした積極的なランプレーで決勝でも攻守に活躍。貴重なトライも挙げて優勝に貢献した。
同じ18歳のFLタウファ・ベイソンは、レギュラシーズン途中参加ながらもパフォーマンスが認められ、決勝で7番を付けた。
新星が出てくる中で圧倒的な存在感を見せたのは、ルアヘイ(デマント)とポーシャ(ウッドマン・ウィクリフ)のベテランの2人だろう。レベルの高いアウピキの大会の中でも次元の違いを見せた。
どんなに劣勢に立たされようと、常に落ち着いたパフォーマンスを魅せた両者。素晴らしい選手たちが他にも何人もいる中で、この2人には圧倒的なスキルに加えて大きな舞台の経験が加わる。決勝で2人が演出した2つのトライは価値が高かった。
昨年、代表からの引退を表明したポーシャに対してSky Sports のコメンテーターが「貴女が(ワールドカップに)必要です」と何度も言葉にした。今年は女子のワールドカップイヤー。本人の判断が気になる。
アウピキは今年も、レベルの高い試合で多くの人を楽しませた。新たなスターも出てきている。大会の価値も再確認できた。
その一方でNZラグビーにおける女子ラグビーの知名度、人気度の課題はまだまだ感じさせられた。この決勝の前には同会場でスーパーラグビー・パシフィック、ブルーズ×モアナ・パシフィカがおこなわれた。しかし、そのままスタジアムに残った観客は多くなかった。
2022年に自国開催となった女子ワールドカップは盛り上がった。しかし、その後の現実を見ると、女子ラグビーの知名度が上がったとは言い難い。空席の観客席がそれを物語っている。
試合内容は、男子同様にテンポの速い展開でボールが良く動く。コンタクトエリアの攻防も激しい。まぎれもなく魅力のあるラグビーだ。そしてなにより、ひたむきにプレーする姿勢は、ある意味男子ラグビー以上に見る者の心を動かす力を持っている。間違いなく見る価値がある。
優勝したブルーズ・ウィメンは、オーストラリアのスーパーラグビーチャンピオンのワラターズと4月17日(木)にノースハーバースタジアム(NZ、オークランド)で対戦する。
今季から新しく採用され試合の注目度は高い。当日の観客の入りはどうなるだろうか。