![メンバー外→前半途中から出場、でも走った。江川剛人[花園近鉄ライナーズ]、人生初のハットトリック](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/04/0D4A1441_2.jpg)
Keyword
人生初めてのハットトリックは、1万2452人のファンの前だった。
4月12日、ヤンマースタジアム長居でおこなわれたリーグワン。ディビジョン2の大阪ダービーで、江川剛人(えかわ・たけひと)が3トライを挙げる活躍を見せた。
花園近鉄ライナーズのWTBは前半28分、後半33分と40分にトライラインを越える。レッドハリケ―ンズから8トライを奪ったチームの勝利に貢献した(48-31)。
実はピッチに立つはずではなかった。
当初、出場予定の23人には入っていなかった。試合前日は、メンバー外の練習に取り組んだ。
しかし、先発予定選手のアクシデントにより、急遽23番のジャージーを着ることになった。
さらに予定外だったのは、前半17分からピッチに立ったことだ。先発のWTBセミシ・マシレワが負傷。ベンチから出て試合に加わった。
「後半に少し出るぐらいかな、と思っていました」と正直な胸の内を口にした。

そんな言葉とはうらはら、実際に見せたパフォーマンスはチームを助けた。
前半28分、最初のトライは19-7とリードしていた場面。FB雲山弘貴からのパスをトライライン前でもらい、右隅にボールを置いた。2人のディフェンダーが向かってきたが、一人が小柄なSHと判断し、乗っかった後に腕を伸ばした。
2つ目のトライを奪った時は36-24のスコアだった。リードしているとはいえ、チームは反則を重ね、決していい時間ではなかった。
そんな中で、途中出場の丸山凜太朗が蹴ったキックをチェイスし、相手に競り勝つ。トライラインを越えてボールを押さえて5点を追加した。
3つめは自陣ゴール前で相手パスをカットした仲間からパスを受け、約90メートルを走り切った。
トライシーンを振り返って、「難しい場面ではなく、ボールを持ったら走るだけでした。(それが)自分の仕事。それをやり切った」と周囲に感謝した。
しかし、少なくとも2本目のトライは強みを出して奪ったものだった。
「蹴るとは思っていなかったのですが、トライにはならなくてもチャンスになると思い(追い)ました。いいところに転がった」とそのシーンを回想する。
得意とする加速が光った。
快勝を仕上げた3つめのトライはロングを走り「しんどかった」けれど、大歓声に包まれている時間も長く、気持ちよかった。
やがて試合終了を告げるホーンも聞こえてきた。
2024年の1月に立命館大からアーリーエントリーでライナーズに加入。昨季第15節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦、16節の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦に途中出場している(それぞれ24-33、36-46で敗れた)。
今季は第2節の日野レッドドルフィンズ戦(38-38)、3節のレッドハリケーンズ戦(17-36)に先発出場も、その後はこの日まで出場機会に恵まれていなかった。
ライナーズに入っての初勝利でもあった。
花園準優勝の成績を残した桐蔭学園時代、浪人して入学した立命館大時代はCTBも、リーグワンのレベルでミッドフィールドを務めるには体のサイズに不安があるとの評価もあり、WTBの位置で力を蓄えてきた。
ハイパント処理などWTBに求められるスキルの中には、まだ習得途中のものもあるが、加速やすぐには倒されぬ強さなど、持っている武器を磨いてきた。
練習試合でアピールしてもなかなかピッチに立つことができない時期は、フラストレーションを感じたこともあった。「同じような状況にあった人たちは似たような心境だったと思う」中での活躍。「なかなか試合に出られない中で回ってきたチャンスに、悪い流れを変えるトライを取れてよかった」と相好を崩す。
自分の活躍が、試合に出られないながらもチームを支えている選手たちにエナジーを与えるかもしれない。

今季序盤の少ない出場機会の中のひとつはレッドハリケーンズ大阪戦に負けたものだったから、「やってやろう」の気持ちがあったと吐露する。
スクランブル発進ながら結果をのこせたことについては、(Aチーム、Bチームに関係なく)ライナーズのWTBとしてやるべきことを理解していたからと自己分析した。
チームはこれで4連勝。7勝3敗1分けの勝ち点36とし、先を行く1位の豊田自動織機シャトルズ愛知(勝ち点46)、2位のNECグリーンロケッツ東葛(勝ち点40)を追う。レギュラーシーズン残り3試合をすべて勝って、まずはディビジョン1との入替戦進出を決めたい。
ライナーズへの入団を決めた時、チームはディビジョン1だった。しかし、自身にとっての初シーズンとなった今季、戦う舞台はディビジョン2。普通なら「不運」とか「残念」の言葉が口に出そうなものだが、昨季最終盤や入替戦には自分もメンバーとして絡める立場にいたのだから「すごく悔しかった」と降格を自分ごととしてとらえ、それゆえ、今季絶対に上位ステージに這い上がりたい。
「今回は先輩の怪我でたまたま出られましたから、自分の力で試合に出て、トライを取りたい」と話す24歳は、潜在能力は高いのになかなか上昇気流に乗れなかったチームがここに来て快調に走り出した理由をこう話した。
勝ったり負けたりの時期、一人ひとり悶々としていた。「その思いをチーム内でぶつけ合ったのが2月頃でした。そのあと勝ち始め、いけるぞ、といい感じになった気がします」。
ライナーズは、すました顔で戦うチームではない。江川はこの日も、試合の中でいい空気を感じたという。
シーズン大詰めに向けて、この先も、自分が火つけ役になるつもりで思い切り迷いなくプレーする。