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2月14日の開幕以来、今季のスーパーラグビー・パシフィックは毎週熱い戦いが繰り広げられている。スピーディーな展開で沢山のトライが生まれており、エンターテイメント満載の試合は観客を魅了している。
ラグビー王国ニュージーランド(以下、NZ)のラグビーファンも、この熾烈な戦いぶりに満足している様子がうかがえる。
◆引き続き混戦。プレーオフ圏内の上位6チームは、AUSが優勢に。
16節あるレギュラーシーズンもちょうど半分の8節(4月4~5日)を終えた。シーズンの前半戦をNZ勢を中心に振り返ってみたい。
折り返し地点の順位は、1位チーフス(26P)、2位クルセイダーズ(24P)、3位レッズ(23P)、4位フォース(20P)、5位ブランビーズ(19P)、6位ワラターズ(17P)の6チームがプレーオフ圏内に入っている。
内訳をみるとNZのフランチャイズが2チーム、オーストラリア(以下、AUS)のフランチャイズが4チーム。シーズン序盤戦4節を終わった時点では、NZのフランチャイズ、AUSのフランチャイズともに3チームだったのがAUS勢有利に変わっている。
しかし7位ハリケーンズ、同8位のモアナ・パシフィカは共に15Pで6位のワラターズと僅か2ポイント差。序盤戦で3位だったハイランダーズは順位を9位に落としたものの12Pでプレーオフを充分に狙える位置にいる。依然として混戦の状況は変わらない。
昨季の王者ブルーズは、引き続き下位(10位)に沈んでいるのが気がかりだ。
◆チーフス、層の厚さで好調をキープ。選手層の厚さで今季こそ優勝へ。
ここまで6勝1敗のチーフスは、シーズン序盤戦から首位をキープしている。7節のバイウィーク(休みの週)の間にレッズに首位の座を受け渡すも8節(4月4日)の直接対決で勝利した。終盤まで勝負がどちらに転がるか分からない展開が続く中ディフェンスで粘った後に、大事な局面でしっかり得点を重ね27-15のスコアで首位攻防戦を制し首位奪回。
4節(3月8日)、敵地でドゥルアに24-28で敗れた以外は、しっかりと勝ち切っている印象だ。
シーズン序盤を短期間のサバティカルを利用して日本でプレーしていたWTB/FBのショーン・スティーブンソンがチームに合流後すぐにインパクトを与えるプレーを見せている。そのスティーブンソンの復帰でSO/FBダミアン・マッケンジーを10番にシフトチェンジしたことが攻撃に厚みをもたらした。
アキレス腱のケガから復帰しているHOサミソニ・タウケイアホは、試合を重ねるごとにパフォーマンスを上げてきている。これに加えて、昨年大ブレークしたFL/NO8ウォレス・シティティの膝の手術からの復帰が思ったよりも早くなるようだ。チームにさらなる追い風になりそう(プレーオフまでには復帰見込み)。
セットピース(スクラム、ラインアウト)の安定感をはじめ、FW陣がしっかり仕事をこなし、豪華なBK陣が得点を重ねる。ケガ人が出ても層の厚さで十分カバーできる。安定感抜群のチーフスが今季こそ頂点に到達するかもしれない。
◆クルセイダーズはモアナに敗戦も、王者復活に向けて手応えあり。
ここまで5勝2敗の2位。昨季大不調だったクルセイダーズに強さが戻ってきた。
第7節(3月29日)、ホームでモアナ・パシフィカに29-45と完敗と言える内容で敗戦するも、翌週(4月5日)は、ホームでめっぽう強いドゥルア相手にフィジーの地で初めての勝利をつかんだ(31-14)。前週のモアナ戦でコンタクトエリアで劣勢となった反省を活かした。1週間で立て直し、相手を封じ込めた。

今季キャプテンに就任したCTBデイヴィット・ハヴィリのパフォーマンスの良さが目立っているものの、オールブラックスのキャプテンのLOスコット・バレットの調子がシーズン中盤に入っても上がってこない事がNZ国内では懸念材料(代表の試合を含めて)としてあちらこちらで話題となっている。
自身のパフォーマンスについてバレットは、「私は自分自身を高い基準に置いています。シーズン序盤のいくつかのパフォーマンスは、私が望むようなものではなかったかもしれません」と話している。
「興味を持たせるのがメディアの仕事であり、私はパフォーマンスについて意見を持っている。おそらくその意見(メディアの声)は的外れでなかっただろう」
「反省を踏まえて、今週は立ち直りたいと思っています」
BK陣は好調をキープしているだけに、王者奪回にはFWがワンランク上がる必要がある。バレットと同ポジションで評価が高くなっているアントニオ・シャルフーン、昨年先発出場が多かったジェイミー・ハナなど、若手の活きの良いロック陣が出てきている。しかし王者奪回にはスコット・バレットの復調が欠かせない。
◆苦戦続くもプレーオフ射程圏内のハリケーンズ。司令塔のポジションが鍵。
ここまで3勝4敗の7位のハリケーンズは、シーズン前半戦はケガ人に悩まされ、苦戦した。負けた試合でもほとんどが接戦になっている。内容は決して悪くない。
サバティカルを利用してアイルランドでプレーするCTBジョーディー・バレットの不在、期待の若手CTBライリー・ヒギンズ、昨年代表デビューのCTBビリー・プロクターが怪我で出遅れていることもあるが、ピーター・ウマガジェンセン、ベイリン・サリヴァンのCTBコンビが素晴らしいパフォーマンスを見せている。
怪我で出遅れたFBルーベン・ラヴは、復帰後すぐにチームにコミットして攻撃に磨きがかかった。
FW陣は、変わらず毎試合ハッスルしているFLデュプレッシー・キリフィをはじめ、能力の高いFW第3列陣は健在。メンバーは充実しており実力は充分にある。本来上位にいてもおかしくないチームだ。
シーズン前から不安材料だった10番のポジションには、開幕からSO/FBハリー・ゴッドフリーが任されていたが、怪我でシーズン終盤まで離脱することで新たな不安材料となっている。ここから巻き返し、プレーオフ進出を狙うには、代役を任されているライリー・ホヘパのパフォーマンスが鍵となりそうだ。
◆モアナ・パシフィカは 序盤の苦戦から、しっかり勝てるチームへ。
ここまで3勝4敗の8位。オークランドを拠点(ノースハーバースタジアム)としているモアナは、着実に力を付けている。7節(3月29日)クルセイダーズ戦は全てにおいて相手を上回り敵地で45-29で圧勝で勢いがついた。
翌週の8節(4月5日)、ホームにワラターズを迎えた試合でもパシフィックパワーが炸裂した。前半はミスが目立って7-21とリードされるも、後半はモアナ劇場と言わんばかりの猛攻で6トライを挙げて45-28のスコアで勝利した。モアナにとってスーパーラグビーで初の連勝となった。
クルセイダーズ戦はスタートダッシュに成功して勝ち、ワラターズ戦はビハインドから後半に巻き返しての勝利。これらの勝利は80分間集中して戦える事を証明した。

これまでの課題だったスクラム、ラインアウトも安定感が出てきてゲームをしっかり組み立てることができるようになった。パワープレーに頼るだけでなくFW、BKとも確実性が出てきた。もう恐れるものはないと言っても過言ではない。
FL/NO8アーディー・サヴェアの存在は言うまでもなく大きいが、他の選手がアーディーから学び能力が開花している。台風の目のような存在になっているモアナ。初のプレーオフ進出も十分視野に入ってきた。
◆失速気味もケガ人復帰でプレーオフを狙うハイランダーズ。
ここまで2勝5敗で9位のハイランダーズは、序盤戦でHOソアネ・ヴィケナ、WTBケイレブ・タンギタウのブルーズからの移籍組の活躍もあってブルーズ(2月22日/29-21)、モアナ・パシフィカ(2月28日/31-29)に勝利して3位につけるも、それ以降はケガ人多発の影響もあり勝ち星に恵まれず徐々に順位を落とした。
共同キャプテンのFL/NO8ヒュー・レントンが怪我で離脱して以降、FW陣に精彩を欠いていた印象だ。
BK陣では序盤戦こそWTBタンギタウのスピードを活かしたランが炸裂し、トライを奪う場面も度々見られたものの、タンギタウにボールを集めることができなくなってからは勝ち星から遠ざかるようになった。
共同キャプテンのWTB/CTBティモチ・タヴァタヴァナワイの突破で前に出た後のチャンスを活かし切れていない印象だ。
怪我人が多発していた前半戦だったが、シーズン後半戦の最初の試合の9節(4月12日)でレントン、長期のケガで出遅れていたFLオリバー・ヘイグが復帰したことは明るい材料になる。特にFWをまとめるレントンの復帰は最高のタイミングと言えるか。
BK陣もSHフォラウ・ファカタヴァ、SOキャメロン・ミラー、そして昨年NPC(NZ国内州代表選手権)で首の大怪我を負ったFBジェイコブ・ラトゥマイタヴキ・ニープケンスが復帰する。
シーズン後半戦から勢いを取り戻したいハイランダーズ。ケガから復帰組のパフォーマンスがプレーオフに向けての鍵となりそうだ。ただいま4連敗中、まずは連敗脱出でリスタートしたい。

◆引き続き苦戦の昨年の王者ブルーズ。巻き返しはあるか?
昨年の王者ブルーズは、ここまで2勝5敗で10位と下位に沈んでいる。
マストウィンだった8節(4月5日)のハリケーンズ戦は、最後までもつれ19-18と僅か1点差で逃げ切った(2勝はいずれもハリケーンズ)。
2勝目は、手の骨折で離脱していたSO/FBボーデン・バレットの復帰戦だった。ここ一番で流石のプレーを連発。テストマッチのような緊張感のある試合は、ボーデンの経験が十二分に活かされた。冷静なゲームメイクが勝利を生み、プレーオフに望みを残した。
序盤に多数の怪我人が相次いだことが下位に沈んでいる要因となっていることは否めない。同時にFW陣に、昨年ほどの泥臭さがまだ戻っていないことも気になる。ハリケーンズ戦でFW陣の奮闘を感じられたものの、上位に対抗できる状況とは言い難い。まずはコンタクトエリアで優勢になり、決定力のあるWTB陣を活かす展開に持ち込みたい。
まだまだケガ人はいるものの、徐々に復帰してきている。シーズン後半戦から昨年の王者が目を覚ます事はあるのか。
残りも厳しい戦いが続く。まずはモアナとのオークランド地区同士のダービーマッチ(9節/4月12日)、その後のクライストチャーチでのクルセイダーズ戦(10節/4月18日)に勝利して勢いに乗りたい。