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【HSBC SVNS 2025】サクラセブンズ、「笑顔の報告」。シリーズ総合5位は過去最高位。王者決定戦へ
4月7日にシンガポールから帰国したサクラセブンズ。(撮影/松本かおり)
2025.04.08
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【HSBC SVNS 2025】サクラセブンズ、「笑顔の報告」。シリーズ総合5位は過去最高位。王者決定戦へ

田村一博

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 手を開いて作った「5」は、シンガポール大会で5位に入ったぞ、の意味ではない。『HSBC SVNS 2025』(HSBC ワールドラグビー・セブンズシリーズ)の6大会を終えての総合順位が5位となったことを表現している。
 サクラセブンズが同シリーズのシンガポール大会(4月5日から2日間)を終えて、4月7日に帰国した。

 2024年11月30日、12月1日のドバイ大会で始まった今季。女子セブンズ日本代表は最初の大会で7位となると、ケープタウン大会(南アフリカ)で6位、パース大会で5位、バンクーバー大会で史上最高位の4位となり、3月28日〜30日の香港大会では7位。5位だったシンガポール大会で得た勝ち点も含め、合計ポイントを64とした。

 上からニュージーランド、オーストラリア、フランス、カナダ、日本、アメリカ、フィジー、グレートブリテン(GBR)となって総合順位のトップ8に2025シーズンの頂点を争う権利が与えられ、グランドファイナル(ワールドチャンピオンシップ/5月3日、4日、ロサンゼルス)への進出が確定した。
 サクラセブンズのワールドシリーズ総合5位は過去最高位だ。

2年ぶりにキャプテンを務めた永田花菜。(撮影/松本かおり)


 シンガポールでは、1週間前の香港大会同様、スペイン、オーストラリアとプールステージで戦った(プールB)。スペインに24-12と勝ち、オーストラリアに5-43と敗れた日本は、その結果、2日目は5-8位決定戦に回った。
 サクラセブンズは同順位決定戦の初戦でGBRに21-12で勝つと、5位決定戦の対中国でも26-12と勝利して5位となった。

 チームを率いる兼松由香ヘッドコーチはグランドファイナル進出について、「6大会を戦った選手たちがつないでつかんだものです。特定の選手や、1大会の好成績で得られたものではない」ところに価値があるとした。

 シンガポール大会には、『アグレッシブ』というチームスローガンを掲げて臨んだ。
 香港大会では『プレッシャー』を掲げ、自分たちにかかる圧力をはね返し、相手にチームとしてプレスをかけていくことを徹底した。今回は、その先の個々の前に出る意識を求めたという。

 プール戦初戦で、そのマインドがプレーに表れた。相手はスペイン。香港での対戦時は先手先手とリードされ、最終的には逆転したものの、24-19と競った相手だ。
 その経験を踏まえ、今回の対戦時は開始1分過ぎに大谷芽生、3分過ぎに三枝千晃がトライと先行する。12-5で迎えた後半も3分過ぎまでに三枝、辻﨑由希乃がトライを重ねて24-5として危なげなく勝った(最終スコアは24-12)。

 続くオーストラリア戦は、香港で14-10と苦戦した相手が対策を練ってきたこともあり5-43と完敗するも、2日目は切り替え、GBRと中国に勝ち切ったから、たくましくなったことを証明してみせた。

 GBR戦は12点を先行される展開となったが、前半終盤に大谷がトライを奪うと、7-12で入った後半に真価を発揮する。
 1分過ぎに岡元涼葉が走り、敵陣へ。最後は谷山三菜子がインゴールへ入って14-12とする。最後は残り1分を切ったところで辻﨑、大谷とつないで試合を決めた。

 中国戦では、この大会で主将を任された永田花菜がいい働きを見せた。後半3分過ぎ、ターンオーバーから辻﨑が抜け出して作った好機に落ち着いて動き、つながれたボールを最後にトライラインの先へ置いた。14-12と競っていた時間帯に挙げた、貴重なトライだった。

【写真上】効果的なトライを各試合で挙げた大谷芽生。©︎JRFU
【写真左下】力強い走りをたびたび見せた三枝千晃。©︎JRFU
【写真右下】GBR戦は12点を先行されたところから逆転勝ち。©︎JRFU

◆バランスのいいメンバー構成。


 永田主将は、この大会でセブンズ代表30キャップ目。34キャップの堤ほの花に次いで、今大会のスコッドの中では、三枝、大谷、梶木真凜、田中笑伊と並んで2番目にキャップ数が多い。ハーフの位置でゲームをコントロールする、頼りになる存在だ。

 永田がサクラセブンズの主将を務めるのは、2023年のアジア・セブンズシリーズのUAE大会以来2回目のことだった。本人は、「あまり発言するタイプではないし、言葉に重みはないので、引っ張るというより、みんなで力を合わせてやっていこうと思いました」と、自分なりのキャプテンシーを発揮してチームをまとめた。

 同主将はシンガポール大会を含む今季を振り返り、「例えば今回の5位も、みんな、もっとやれたのに、と感じています。勝ちに貪欲になっています」と話す。そしてグランドファイナルへ進出したことに対しては、「シリーズを通して結果を残してきた仲間を誇りに思います。さらにチャレンジできることが嬉しいし、そこでいい成績を残したい」とした。

 前述のように、堤を筆頭に多くのキャップを持った選手たち(辻﨑は24キャップ、内海は18キャップ)と、今季からワールドシリーズに出場する若いメンバーたちで構成されたメンバー構成について、永田主将はバランスの良さを口にした。
「経験がある選手たちは、こういうことが起きたらこうすればいいという知識を持っていて、若い人たちは、過去を知らないからこその新しい目で見た発言をしてくれます」

 現在のサクラセブンズでは、各大会でサクラリボン賞(選手・スタッフ全員が選ぶMVP)を選んでいる。今回受賞した松田向日葵は今季バンクーバー大会で初キャップを得たばかり。シンガポール大会が3キャップ目だったが、覚醒した働きを見せた。

 5位決定戦の対中国では、先制点を許した後に自陣からスペースを見つけて抜け出し、70メートルを超える独走でトライを奪った。
 GBR戦でも、前半の序盤に巧みなコンビネーションで三枝をラインブレイクさせ、ビッグゲインさせるシーンがあり、大会を通じて積極的にプレーに絡んでいた。

写真上から時計回りに。5位決定戦での松田向日葵のトライ。©︎JRFU/ワークレートの高い松田向日葵。(撮影/松本かおり)/ シンガポール大会のチーム最後のトライを挙げた石田茉央。©︎JRFU/「香港では地に足がついていなかった」と石田茉央。(撮影/松本かおり)


 チームに加わった頃は、人見知りで十分にコミュニケーションが取れていなかったと振り返る本人は、シンガポール大会を「緊張もなくなって、チームが掲げるアグレッシブなプレーができました」と話した。
「トライは、前があいたので迷わず走った。千晃さんとのプレーは、試合前に、こうなったらこうしてほしいと言われていた局面だったので、実行しました」

 これからもチームにモメンタムを与えるプレーをしていきたいと続けた。
「精度はもっと高めていかないといけませんが、タックルしようという気持ちはチームに勢いを与えると思うので、もっとたくさんそれを見せて、チームに必要とされる存在になりたいと思っています」

 兼松ヘッドコーチは、経験の浅い選手たちがしっかり結果を残すことについて、それぞれのメンタリティーについて「驚かされています」と言う。
「ワールドシリーズで結果を残すためにも、みんな最初は短い時間での起用となるのですが、誰もがそこで自分の良いところを出そうとしてくれる。結果、いいパフォーマンスを出して、プレー時間を自分たちでつかんでくれています」

◆それぞれの意欲と強みが重なって。


 例えば谷山は、昨秋のアジア・セブンズシリーズでデビューし、シンガポール大会までに9キャップを重ねた。スキルが高く、ゲームコントロールもうまい。キックも武器の一つだ。
 初めてのシーズンに6トライを挙げ、それも、大事な局面で5点を追加する。今大会でもGBR戦で同点トライと勝ち越しのゴールキックを決めた。

 完敗したオーストラリア戦を「香港大会とはガラッと変えてきた。私たちにとって嫌なアタックとディフェンスをしてきたのはさすが」と振り返った谷山は、2日目は落ち着いてプレーできたと振り返った。
「周囲の選手たちがどういうプレーをするか、よく分かってきたので、自分の動きや判断も、より明確になってきました」

 ちなみに、初日はいつもと違うヘッドギアで、青いものを被っていた。それは同日、兄・隼大さんが埼玉パナソニックワイルドナイツでデビューを飾ったため、お祝いのメッセージを込めたのだという。
 兄とお揃いの色で赤道直下の国のピッチを駆けた。

 28歳の庵奥里愛は年齢的にはスコッド内で上から2番目も、今季第3戦のパース大会で初キャップを得て、チームの中で機能している。4キャップ目となったシンガポール大会でも積極的なボールタッチとチャンスメイクで貢献。「ワークレートを上げるなど、試合ごとに成長しようとしています」と進化の足を前へ進め続けている。

写真左上から、庵奥里愛、谷山三菜子、兼松由香HC、岡元涼葉。(撮影/松本かおり)


 15人制代表の経験もあるだけに、コンタクト時の体の使い方などを周囲に伝えるなど、自分にできることを探して動くことは、チームが求めているもののひとつ。
 セブンズ歴はこれからさらに重ねていく存在も、「背中で見せていきたい」との思いも強い。

 迷いのない走りと、元気でいつもチームを引っ張る岡元は、シンガポールではトライこそなかったものの、チャンスを作ったほか、下のボールへの働きかけなど、体を張ったプレーで一貫性のある働きを見せた。

 これまでの大会では後半にピッチに立ち、テンポを上げたり、勢いを生む役回りを任されていたが、今大会では前半から出場することもあった。
「最初から動き回って、相手を疲れ
させることを考えました。つなぐ側のプレーも意識することを経験できて、また成長が感じられました」と目尻を下げた。

 香港大会で初めてのワールドシリーズを経験し、それまで経験してきたレベルとの違いに戸惑ったという石田茉央は、5位決定戦(対中国)の最後にトライを決めるなど、僅かな期間でチームにフィットしたと感じさせた。

「香港大会は緊張で地に足がつかず、バタバタして、あっちにいったりこっちに来たりでしたが、今回はいるべきポジションに立てたし、その結果、サポートに動けました」
 トライシーンについても、「みんながつないでくれたものを最後にもらえたわけですが、それも思い切って動けたからかな」と話した。

 ロサンゼルスでの決戦に向けて、兼松ヘッドコーチは、「最後までスコッド全員で成長し、メダル獲得(3位以上)という目標を大舞台で実現できるよう大会までの1か月、互いを高め合っていきたい」と、強豪が集うステージへの準備を進めていくことを誓う。
 今季戦うごとに周囲を驚かせてきたサクラセブンズは、5月のアメリカ西海岸で満開の日を迎えたい。

【シンガポール大会 メンバー】
1  辻﨑由希乃 30 ながとブルーエンジェルス 24
2  三枝 千晃 28 北海道バーバリアンズ ディアナ 30
3  堤 ほの花 27 日体大ラグビー部女子 34
4  梶木 真凜 25 自衛隊体育学校 30
5  田中 笑伊 25 ながとブルーエンジェルス 30
7  大谷 芽生 24 ながとブルーエンジェルス 30
11 内海春菜子 25 YOKOHAMA TKM 18
12 永田 花菜◎ 24 ナナイロプリズム福岡 30
14 岡元 涼葉 22 東京山九フェニックスラグビークラブ 9
15 石田 茉央 22 東京山九フェニックスラグビークラブ 4
19 谷山三菜子 20 日体大ラグビー部女子(2年) 9
20 庵奥 里愛 28 Mie Women’s Rugby Football Club PEARLS 4
21 松田向日葵 20 追手門学院大学女子ラグビー部VENUS(3年) 3

※左から、背番号、氏名、年齢(大会開幕時)、所属チーム、シンガポール大会も含めたキャップ数。◎は今大会のキャプテン。

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