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全国大会初勝利は花園常連校相手に逆転勝ちで手にした。
3月25日、開催中の全国選抜高校大会の2日目。早稲田佐賀が敗者戦で札幌山の手に26-21と競り勝った。
ともによくタックルした好ゲーム。両チームとも強みを出して戦った。
創部4年目を迎える早稲田佐賀は、1回戦の桐蔭学園戦でトライを上げたほか、何度も好走を見せた12番の吉廻温真(よしざこ・はるま)の存在がクローズアップされるも、個性あるプレーヤーが何人もいた。
3月23日の桐蔭学園戦では15-57と敗れるも、2戦目のこの日は前半2分に先制トライを奪う滑り出しを見せた。
CTB吉廻の突破から敵陣に攻め込んだ後も攻撃を継続し、最後はSH栗原樹がトライラインを越えたものだった。

札幌山の手もLOタレマイト ガウルイラケバ、NO8大川武琉がよく前に出て好機を作っただけでなく、全員がサポートに走り、タックル。前半に2トライを奪う。
ハーフタイムは14-12と札幌山の手が2点リードして終えた。
後半に入って、両チームとも1トライ、1ゴールの7点ずつを追加し、21-19と得点差は変わらぬまま終盤を迎えた。
そして勝負は試合最終盤に決まった。右ラインアウトからの攻撃を継続させた早稲田佐賀は、CTB吉廻の突破で敵陣深くに入る。PKを得てトライラインに迫ると、最後はNO8山﨑圭介主将がトライ。ゴールも決めて勝利を手にした(29分)。
昨夏の全国高校セブンズでは勝利を挙げたものの、15人制では初の勝利。勝負を決めるトライを挙げた山﨑主将は、「勝てたのはいい経験ですが満足はしていません」と話した。
「セットプレーで何回もターンオーバーされ、ブレイクダウンでも押された。そこでボールを取れていたら、もっとラクに試合を進められたと思います。(初戦の)桐蔭学園戦と同じことになってしまい、修正が足りませんでした」

選抜での2試合を振り返って「自分たちのラグビーが全国では通用しなかった」と話すも、勝ってする反省は、チームを前進させるだろう。
「セットプレーの安定、モールディフェンス、ブレイクダウンまわりと、フォワードの強度が足りない。バックスは人が変わると崩れてしまう」とチームの改善点を挙げて、さらなる進化に目を向けた。
この試合でも何度も好走を見せた吉廻は、埼玉・浦和ラグビースクールの出身。4歳から小6まで「U」の字を胸につけていた。
この日の舞台、熊谷ラグビー場のCグラウンドでは幼い頃にもプレーした記憶がある。「その時は緊張しましたが、きょうは、そこで堂々とやれた」と笑顔を見せた。
中学時代はワセダクラブに所属し、高校進学時に佐賀へ。自由な空気のクラブで成長を続けている。
この日の試合については、「チームとしては、苦しい状況で勝てたのはいい経験。今後の糧になると思います。喜んでいい。ただ、個人としては強みは出せましたが、もっと圧倒できたかな、とちょっと悔しいところがあります。自分が情けない」と素直な体感を口にした。
「(相手の防御は)外が空いていて、チームとして継続できればブレイクできると思っていました。後半、そこをうまく攻めることができた。でも(札幌山の手の)5番と8番にタックルしても走られた。組織としても個人としても甘いところがありました」と今後に向けての課題を口にした。
この2人を含む新3年生は12人。新2年生は18人いて、4月に新しく加わる1年生には、約20人のラグビー経験者がいるという。そこに、高校入学後にラグビーを志す者も加わるかもしれない。
毎年の目標は部員たちで設定している。このチームは明確に「花園」をターゲットに活動を続けていく。
東福岡高校時代は花園制覇時のキャプテンで、早大でもチームを率いた。コカ・コーラレッドスパークスでのプレーを経て、早稲田佐賀ラグビー部の創部時からチームの指揮を執る山下昂大(こうた)監督は、この日の試合を振り返って、「全国大会はこういう厳しい試合になるもの。最初にトライを取ることができて、そのままいけるのでは…と思っても、最後のワンプレーまでわからない展開になる。(選手たちは)全国の厳しさと面白さを実感できたと思います」とした。

初の全国1勝は、「選手たちにとって自信になると思います」と話した。監督の耳には、選手たちがピッチ上で「勝ち切ろう」と掛け合う声が聞こえてきた。
「日本一の桐蔭学園と戦えて、ブレイクダウンの厳しさ、運動量と、声の質の高さを学べたと思います」
そしてこの日は、「実力が拮抗した相手に勝ち切れた」。その60分からも得られるものがたくさんある。
2021年の創部から、チームは着実に前進を続けている。
その足取りの順調さを表すには、県内の大きな壁、花園予選における佐賀工との点差の変遷をたどるのがいいかもしれない。
創部2年目の対戦時は0-195。それが昨季、2024年の県予選決勝では12-48となり、2トライを奪えた。
今年2月の新人戦では0-59のスコアだったものの、昨夏の全国セブンズ、今回の選抜と、チーム、選手たちは経験値を得て、それをもとにした練習と修正を重ねて成長を続けている。
山下監督は新3年生たちを「熱量が高い」と表現し、その代の花園への思いがチーム全体に浸透していると感じている。
高い志を胸に、県外から同校にやって来た選手もいれば、初心者もいる。監督の中には、花園へ連れて行ってあげたい気持ちと、楕円球と出会った少年たちにラグビーの楽しさを教えてあげたい優しさが同居する。
チームを見つめていて思うのは、このクラブで2年ほど過ごすうちに(1、2年生の間に)、高校でラグビーを始めた選手たちも、自然と上を目指すようになっていることだ。
「そういうカルチャーができつつあるように感じます」
監督は、「過程を尊重し、そのための準備をしっかりする方針は一貫しています。選手たちが目標を決め、そこに私がコミットしています」と、このチームの真ん中にある自主性を大事にしていることも伝えた。
この日の札幌山の手戦では、1年生の2人もよく働いた。
FLの益田小鉄は福岡・草ヶ江ヤングラガーズ出身。中学時代は福岡県代表に選ばれて全国ジュニアにも出場。県内の強豪から誘われ、自身も進学を考えていたけれど、最終的には文武両道の道を歩んでいきたいと考え、1時間20分の電車通学で早稲田佐賀に通うことを決めた。

中学まではバックスも、現在は強烈なタックルを見舞うバックロー。以前は体の強さを使うプレーが目立っていたが、高校入学後にタックル練習を重ねて好タックラーになった。
小鉄の名前には、「小さな鉄でも磨けば光る」という意味が込められているそうだ。
4番の山田遼汰は191センチも85キロと細いけれど、強気のプレーを見せた。大阪の中学校からやってきた初心者だ。
中学までテニスをしていた少年は、早稲田佐賀への進学を決めた後、学校の紹介サイトの中にラグビー部の動画を見つけた。
「体格差がある相手に勇敢に立ち向かっていて勇気をもらいました。僕は直感で決めるタイプなので、やりたい、と思って入部を決めました」
長身を利してのラインアウトが得意。この日は迷いのないボールキャリーも見せた。
経験者が多い周囲に追いつくため、休日に仲間がカラオケに向かう日も個人練を重ねる努力家。ビッグマン&ファストマンキャンプにも参加したことがある16歳は、「佐賀工に勝って花園へ行きたい」と言った。
43大会連続で花園に出場中の佐賀工の壁は分厚い。それだけチャレンジする価値は高いし、越えられる日が来た時の喜びは大きい。
少なくとも、毎年の佐賀県大会決勝に注目する人たちは、以前と比べて増える。王者も燃えて、その日の佐賀は熱くなる。
