logo
一歩一歩の価値。花田広樹[レッドハリケーンズ大阪]
1994年7月15日生まれ、30歳。185センチ、100キロ。RFC筑豊ジュニア→東福岡高→福大→玄海TANGAROA→コカ・コーラレッドスパークス→宗像サニックスブルースを経て現在に至る。(撮影/松本かおり)
2025.03.10
CHECK IT OUT

一歩一歩の価値。花田広樹[レッドハリケーンズ大阪]

田村一博

 派手なプレーはない。
 倒れてもすぐに立ち上がり、次のプレーへ。接点では攻守両面で前へ出る意識が強い。黒いヘッドギアは、よく動く。
 185センチ、100キロの花田広樹が2試合続けて、レッドハリケーンズ大阪の8番のジャージーを着た。

 今季、開幕からの全7試合に出場も、先発で起用されたのは、第6節の日野レッドドルフィンズ戦から。その試合には25-8と勝つも、3月8日におこなわれた第7節の日本製鉄釜石シーウェイブス戦には24-35で敗れた。

 シーウェイブス戦は東日本大震災復興祈念試合として、釜石鵜住居復興スタジアムで実施された(リーグワン、ディビジョン2)。
 4426人のファンの声援を受けて集中力高く戦った赤いジャージーは、試合を通してプレッシャーをかけてきた。それを受けたレッドハリケーンズは、普段の安定した戦い方ができなかった。多くのアタックをミスや反則で終えてしまった。

 後半21分までピッチに立った花田は試合後、「復興祈念試合ということもあり、お客さんも多い中でプレーできました。幸せなこと」と話し、スタジアム全体を覆った一体感ある空気に感謝した。

 しかし、自分たちのパフォーマンスについては口から反省が出た。
「釜石とは昨季も競ったゲームをしました(結果は2連勝も、27-25と38-33)。今回の試合に懸ける思いも絶対に強い。受けることなく、先手、先手でやろうと言っていたのですが、勢いに飲まれ、規律のところも乱れた。簡単なエラーもして勢いを与えてしまいました」と話した。

攻守とも接点での強さを高めている。泥臭いプレーで信頼を得る。(撮影/松本かおり)


 7月には31歳になる。
 2018年、当時トップリーグで活動していたコカ・コーラレッドスパークスに加入した。しかし、同チームは2020年度の活動を最後に廃部となった。
 翌シーズンから宗像サニックスブルースへ移籍してプレーを続けた。しかし、ブルースもリーグワン2022を戦った後、チームの歴史を閉じた。

 縁あってレッドハリケーンズに加わったのは、リーグワン2022-23シーズンからだ。3つ目のチームに加入して、今季が3シーズン目となる。
 新天地で存在感を大きくしたのは在籍2シーズン目の昨季からだ。6番、7番、8番のジャージーを着て8試合に先発。計10戦に出場した。

 自分のプレーを「外国人選手のようなインパクトのあるプレーはありませんが、任された役割を徹底することを心がけています」と話す。
 仕事量の多さと、動き回るスタイルを武器としてきたが、接点で前に出るプレーもできるようになってきた。結果、先発でもベンチスタートでもチームに貢献する存在とされ、出場機会が増えている。

 着実に実力を積み上げる。階段を一歩ずつ昇るように成長し続けられる理由を、「毎回の練習に全力で取り組んでいる」以外にないと話す。
 それが評価されて、どのチームでも信頼を得て、出場機会を増やした。毎試合、必死でプレーする。

 常に100パーセント。ジャージーの色に関係なく貫いてきたことだ。
「所属チームの存続については自分がコントロールできることではありません。ただ、いつでもチームにコミットすること、貢献することは常に考えています。そういう姿を見てくれていた人がいたから、いま、このチームでプレーできていると思っています」

「負けられない試合、緊張感ある試合を経験することで力を伸ばせる」。(撮影/松本かおり)


 RFC筑豊ジュニア(福岡)でラグビーを始めた。8歳の時だった。同スクールには中学部がなかった。飯塚市立二瀬中では陸上部へ入る。ハードル走に取り組むも、「高校に進学したらラグビーを」と思い続けた。

 強豪・東福岡高校へ進学する。しかし、ベンチスタートやBチームの時間も長く、3年時の初夏、WTBからバックローへの転向指令を受けた。
 花園では初戦の遠軽戦(102-0)に、途中から出場しただけだった。

 地元の福岡大に進学した。4年間ラグビーへの熱い思いを抱き続け、卒業時にもラグビーを続けたい気持ちが衰えていなかったから、ニュージーランドへ向かい、力を蓄えようと考えた。
 ラグビー王国で地力を高め、自分の生きる道を探す時間を経たことが、コカ・コーラへの入団に結びつく。夢を諦めなくてよかった。

 常にベストを尽くすことで道を切り拓いてきた男は、周囲への感謝を忘れることなく生きる。現在は社員として働きながらプレーする。「ラグビーができる環境を整えてもらっています」とサポートの厚さを強調する。

 歩んできた道を振り返れば、チームの中核にドンと座ったことはない。ただ年齢を重ねて出場機会が増えることに比例し、力を伸ばす。
「きょうは負けましたが、やはり、緊張感のある試合での経験を重ねると力がつくと感じます」の言葉は真実。30歳を超えても、伸びしろがたくさんある。

 こんな選手になりたいと、頭の中にはいつも目指す選手像があったけれど、以前は「(現実とは)ギャップがあった」という。
「そういう中で、30歳になったいまも、こうしてプレーできている自分がいる」と続ける。「僕自身も驚いているというか、いろんな縁があっていまがあるのは幸せです」。

 まわりの人も、いまの自分に驚いているかも。
 きょう、味方にも相手にも、コーラやサニックスで一緒にプレーしていた人たちがいました。それが嬉しいし、自分も含め、そういう選手たちがプレーし続けることが、両チームが存在した価値を示し続けることになるかもしれませんね。
 いろんなことを、誠実に話した。

 花田広樹はいま、ラグビーも人生も楽しくてしょうがないようだった。

今季は開幕からの全7試合に出場中。(撮影/松本かおり)


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら