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3回のもみくちゃと、弾丸タックル。阿部竜二[日本製鉄釜石シーウェイブス]、復興祈念試合で輝く。
1999年9月23日生まれ、25歳。167センチ、77キロ。写真は1つめのトライ。(撮影/松本かおり)
2025.03.09
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3回のもみくちゃと、弾丸タックル。阿部竜二[日本製鉄釜石シーウェイブス]、復興祈念試合で輝く。

田村一博

 記録用紙の得点者の欄には3回しか名前は記載されていないけれど、一枚の紙からは分からぬ貢献もあった。
 大一番でビッグパフォーマンスを見せたシーウェイブスの背番号11は167センチしかない。しかし、小さな体に真摯な姿勢と決意が詰まっていた。

 3月8日、釜石鵜住居復興スタジアムでリーグワン、ディビジョン2の日本製鉄釜石シーウェイブス×レッドハリケーンズ大阪がおこなわれた。
 ホストチームのシーウェイブスは第6節までの成績でD2の8チーム中8位の最下位(1勝5敗)、レッドハリケーンズは2位(5勝1敗)という力関係も、東日本大震災復興祈念試合と位置付けられたこの試合では35-24と地元の声援を受けた赤いジャージーが快勝した。WTB阿部竜二が3トライを挙げる活躍をした。

トライ後、仲間に祝福される阿部。黒沢尻工時代は主将を務めた。(撮影/松本かおり)


 岩手県紫波町出身。町立紫波二中、県立黒沢尻工に学んだ好ランナーが躍動したから、詰めかけた4426人のファンは沸いた。
 シーウェイブスが勝っただけでもファンは笑顔になるだろうが、地元選手の躍動が、その喜びをより大きくする。試合後、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに阿部が選ばれたことが発表されると、スタンドから大きな拍手が聞こえた。

 2022年に関東学院大から加入した。今季は開幕からの3試合に連続して出場していた。しかし第3節、1月11日の清水建設江東ブルーシャークス戦で右足首を捻挫。復帰に時間を要した。
「(前節の)豊田自動織機戦(2月15日)での復帰を目指していましたが、間に合いませんでした。気持ちを切り替えて、今日の試合に向けてリハビリを続けてきました」と話す。

「大事な試合で、自分の力を100パーセント発揮できたのは良かった。岩手のパワーをもらってトライをとれました。グラウンドに立って周りを見渡すと、たくさんの観客の方々が見えた。声援のあと押しもあった。たくさんの中でできたことは幸せです」と多くのサポートがあったことに感謝した。

 3トライは、いずれも効果的だった。最初のトライは前半25分。7-12とリードされていた時間帯。相手の反則で得たPKからのラインアウト後に10フェーズを重ね、SOミッチェル・ハントからのパスを受けた阿部が左隅に飛び込んだ(ハントがGを決めて14-12)。

 そのシーンを、「自分も呼んだし、(パスが)来るな、という予感もありました」と振り返る。いいコミュニケーションがとれていた。

 2つ目のトライは後半2分。ハーフタイムに全員で、「いい我慢とディフェンスができているので、それを継続していこう」と確認し合ってピッチに出た直後だった。
 レッドハリケーンズの攻撃を止め続けている途中、ターンオーバーする。その球を手にしたSH村上陽平主将がすぐに敵陣にキックを蹴り込む。その判断が素晴らしかった。

この日の釜石鵜住居復興スタジアムには4426人のファンが集まった。(撮影/松本かおり)


 弾んだボールが、CTB村田オスカロイドの手に入る。背番号13は、右後方にいる阿部へパスを放るも、それは相手の手に当たり、転がった。それを赤いジャージーの11番が拾い、この日、自身2つ目のトライ。(Gも決まり21-12)
「ウイングとして、キックを全力で追いかけた結果です」

 その4分後には、右ラインアウトからのサインプレーが見事に決まった。
 センタークラッシュ(ピッチ中央での意図的な拠点作り)後の振り戻しのアタックでCTB村田が防御を突破し、ラストパスを受けた阿部がまたもトライを挙げた。チームとして描いていたプレーを、全員が遂行し切った(Gも成功で28-12)。

 スタンドで大漁旗が振られる中、阿部は集中力高くプレーした。それがさらに伝わってきたのは、3トライ目の直後だった。
 リスタートのキックオフ直後の攻防で、はやく差を詰めたい相手は、中盤で大きくボールを動かす。外のスペースに好球をつなごうとした時だった。それに気づいた阿部が瞬間的な加速で飛び出し、レッドハリケーンズの12番、射場大輔を倒した。

 仲間が続き、ターンオーバー。そのボールをSH村上主将が敵陣に蹴り込んで、ふたたびチャンスとした。
 ラインアウトからの攻撃は、一時ボールを失うも、すぐに相手キックを受けて反撃。そのまま村上主将のトライにつながった(後半11分/Gも決まり35-12)。

 阿部が「パスをしたら詰めようと思いました。全力で前に出た」と回想するシーンは、結果的に、勝負の行方を決めるトライを呼んだ。
 自分でトライラインを決めたのは3回だったが、4トライに深く絡み、この日の貢献度は抜群だった。

 チームは今季2勝目により、順位をひとつ上げた(7位)。そして、それ以上に自分たちの貫くべきスタイルを再確認する機会となった。
 阿部は、「ディフェンスを我慢してトライにつなげられた。自分たちがやりたい固いディフェンスから流れを作れた」と話し、「やりたいことをできたいい試合でした。やるべきことをやれば勝利につながると自信になった」と続けた。

阿部だけでなく、シーウェイブスの全員が気持ちを切らすことなく80分プレーした。写真は何度も好機を作ったCTB村田オスカロイド。(撮影/松本かおり)


 SMC株式会社で働きながらプレーしている。この日は家族、友人、そして職場の同僚たちの姿がスタンドにあった。
「釜石市民、岩手の人たちに、かっこいいプレーとかでなく、気迫を伝えられたらいいな、と思っていました。その気持ちをプレーにつなげることができた」と話し、僅かに表情を崩した。チームホームページのプロフィール欄、自分の性格のところには「人見知り」とあった。

 そんな人が、ビッグゲームで大きな声援を浴びる走りを繰り返し、勇気あるタックルをする。ラグビーはいい。
 3回のトライシーンを映像で見返してみる。この人は一度もガッツポーズをしていない。仲間にもみくちゃにされるばかりだった。


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