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左耳はシュウマイ。河野良太[日本製鉄釜石シーウェイブス]
こうの・りょうた。1995年12月7日生まれの29歳。168センチ、90キロ。中部大春日丘→大東大。中部電力を経て、2020年からシーウェイブスへ。(撮影/松本かおり)
2025.03.08
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左耳はシュウマイ。河野良太[日本製鉄釜石シーウェイブス]

田村一博

 右耳はキョーザ。ハードタックラーの勲章でもある。
 左はポコっと飛び出してシュウマイのよう。釜石の地に来て、左肩でのタックルを磨いていたらわき上がった。

 日本製鉄釜石シーウェイブスのFL、河野良太は168センチ、90キロの体躯ながら、弾丸タックルで知られる人だ。
 低い姿勢、迷いなき加速で相手に突き刺さる。

 アタックでは狭いスペースを突き破るランニングも得意だ。今季第4節の花園近鉄ライナーズ戦で挙げた2トライは、相手ゴール前にあった僅かな隙間を突き抜けたものだった。

 2歳上の兄(愛知・西陵高校でプレー)の影響で、中部大春日丘高校に入学と同時にラグビーを始めた。
「すぐに試合に出ることになったのですが、恐怖心がないからバチバチいけた」ことが、いま、どんな相手にも向かっていける原点になっている。

「もちろん、相手のレベルが上がったり、大きく、速い選手への対応で思ったようにいかなくなるのですが、そのたびに改善を重ねてきました」
 見つけた答は、相手に自由な時間を与えないこと。ボールを手にした瞬間にヒットすれば、みんな倒せる。

釜石に来てからわいた左耳。表面にはいつも血が滲む。右耳は大学時代にギョーザになった。(撮影/松本かおり)


 恐怖心を持たずに向かってくる相手に立ち向かう。足を踏み込んで懐に入り込み、相手の一番弱いところにヒットする。
 そんな風にタックルの心得を言葉にする河野ではあるが、最近まで利き肩とは逆の左タックルは苦手だったという。昨季が終わった後、その改善に着手した。

 2023-24シーズンは10試合に出場も、先発は1試合だけと、プレータイムが少なかった。
 シーズン後のヘッドコーチとの面談時、もっとプレーするために必要なことを話し合った結果、右肩でばかりタックルしている現実を指摘された。

「つい、得意な方でばかり入っていました。そこを改善しないと、質の高いタックルはできないし、逆ヘッドで危険もともなう」
 相手を正しく追い込む、トラッキングの動きに新たに取り組んだ。

 そして、セイムショルダー、セイムレッグ。相手にヒットする際、同じ側の肩と足を揃って出すように習慣づける。
 そう意識してプレーすることを徹底した結果が、今季開幕からの全6戦にすべて先発出場する結果につながっている。

 実は高校時代から大東大の1年時までは背番号11や14だった。その後フランカーになった。
 スペースに走り込むタイミングの良さや、スキを見つける感覚は、ウイング時代に磨いたものという。

 大学4年時には主将を務めた。卒業後、声をかけてくれていた中部電力に入り、プレーを続けた。しかし、大好きなラグビーをもっとやりたくて、知人を経て、シーウェイブスとの縁を得る。三陸の住人となった。2020年のことだ。

 ヤングリーダー、選手会副会長を経て、いま、クラブキャプテンを務めて2季目。グラウンド外で、選手と事務局をつなぐ役を担う。仲間たちの思いを伝え、風通しのいい環境を作る。それは、クラブのカルチャーを築くこと。
 この地域で、自分たちがどういう存在であるべきか。そんなことも考える。

ボールを持っても弾丸になる。写真は2トライを挙げた花園近鉄ライナーズ戦から。(撮影/松本かおり)


 現在はプロ選手として活動しているが、最初の3年間は釜石市役所で働いた。いろんなことを知り、感じた期間だった。
 東日本大震災は中3時の出来事。愛知に暮らしていたから、正直、詳細は分からなかった。

 その時から10年近く経って、シーウェイブスとの縁を得て、この地に暮らして思った。
「実際にここに来て、街の風景を見て、釜石の人たちと関わった。震災当時の話を聞く機会もあります。復興していっているとはいえ、心に傷を抱えている人がいる。そういう中で、市内の飲食店でシーウェイブスへの思いに触れたり、勇気もらっているという言葉をかけてもらうと、ただプレーするだけでなく、自分たちは、多くの人たちの思いを背負ってプレーしようという気持ちになる」
 チームメートの誰もが同じだろう。

 3月8日(土)、釜石鵜住居復興スタジアムでおこなわれるレッドハリケーンズ大阪戦(リーグワン ディビジョン2)との一戦は、東日本大震災復興祈念試合としておこなわれる。
「釜石にとっても、東北にとっても、大きな意味がある。その試合でしっかりと、80分の最後まで戦う姿を見せるのが僕らの使命」と気持ちを昂らせる。

 今季ここまでの、1勝5敗の結果の中には接戦を落としたものがいくつもある。
「細かいミスでトライを逃しています。そこでスコアできていたら勝てたのに競り負けている。やってきたことを全員で、すべて出し切りたい」の言葉に力が入る。

 試合当日の釜石は好天。多くの人がスタジアムに足を運ぶだろう。
 緑の山と青い空の下で、赤いジャージーの男たちが必死で勝利をつかみにいく姿を見て、試合後、ファンが酒場で語り合う。
 いい光景。何年も前からある時間。そこで、背番号7のタックルの話に花が咲くかもしれない。

クラブキャプテン。釜石税務署のポスターにも登場。(撮影/松本かおり)


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