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【HSBC SVNS◎史上最高4位の秘密/下】変わったのではなく積み重ね。[サクラセブンズ]
いつも以上の積極的なプレーと声でチームをまとめた梶木真凜主将(写真中央)。©︎JRFU
2025.02.28
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【HSBC SVNS◎史上最高4位の秘密/下】変わったのではなく積み重ね。[サクラセブンズ]

田村一博

『HSBC SVNS 2025』のバンクーバー大会(カナダ/2月21日〜23日)で、同シリーズ最高位の4位となったセブンズ女子日本代表、サクラセブンズ。キャプテンに指名された梶木真凜も含め13人の選手たちは、兼松由香ヘッドコーチ(以下、HC)の指揮のもと、自分の役目、期待されていることを明確に理解してピッチに立った。
 チームの有する戦力すべてが機能した理由は、そこにある。

 例えば三枝千晃。自分に求められているものを「FWとして強く前へ出る。ボールを持ったら少しでも前へいく」と理解している。
 今大会でもタテへのランは有効だった。「仕掛けてくれる人が上手で、私の前を開けてくれています。そこにタイミングよく走っています。海外の選手はスピードもあり、強い。ずらさないとゲインできない。もらう前にずらしています」と仲間とのコンビネーションと自身の動きを説明する。

 敗れたものの、オーストラリアとの3位決定戦、前半2分過ぎに挙げたトライは今大会のベストトライと言ってもいいものだった。
 三枝の突破に周囲が瞬時に反応した。

左上から時計回りに、三枝千晃、庵奥里愛、辻﨑由希乃、内海春菜子。(撮影/松本かおり)


 自陣深い位置で相手の攻撃を止めて、庵奥里愛がターンオーバー。そこから攻めた。
 左に展開し、辻﨑由希乃からの絶妙のパスに三枝が走り込んで防御を突破する。ビッグゲインでハーフウェイライン付近まで前進。タックルで倒されるが、そこで終わらなかった。

 辻﨑がボールセキュリティ。すぐに寄った梶木が短いパスを左へ出す。それをトップスピードの内海春菜子がかっさらい、ディフェンダーを置き去りにした。

 ターンオーバーに成功した庵奥は今大会が2キャップ目。チームへのフィット感がパース大会より大きく高まっていた。
「合宿も含めてチームでたくさんの時間を過ごしているので、みんなの動きも分かったし、みんなも私に合わせてくれる。ほしいときにボールをくれるし、走り込んでほしいところに来てくれます」

 先発起用に信頼してもらえていると感じる。期待に応えようとワークレートを高める。
 パース大会後は、所属する三重パールズの全国女子ラグビー選手権大会決勝にも出場するなど多忙も、「疲れよりも楽しさが上回っています」と自然と笑顔が出ていた。

 3位決定戦でベストトライを奪った内海は、多くのケースではピッチ中央でボールを動かし、周囲にトライを取らせる立場。しかし、あの時は自分が走り切った。
 いつも周囲の状況を広く見ているから、あの時もすぐにサポートに走れた。

 いまのチームでは、ファーストレシーバーかセカンドレシーバーとしてFWからのボールを受けることが多い。キャッチした瞬間、チームの中島正太アナリストから伝えられているスカウティング情報をもとにボールをどこに動かすか決める。
「自分のやることを明確にしておいて、プレーしています。分析した情報もあるし、仲間の強みも知っているので、どのプレーをチョイスするか判断します。迷いなく、自信をもってやれています」

 自分のことを、「考えるより、体で動いた方がいいタイプ」と言う。それを長所としたまま進化した。
「これまでは、こうしなきゃ、という感覚でしたが、いまは柔軟に、相手がこうきたら違うプレーに変えるようなことができるようになりました」

次回大会は3月28日-30日の香港大会。(撮影/松本かおり)


「ボールの運び方は自由にやっています」という内海は大会を振り返って自分のパフォーマンスを、「いろんな試合で自分の強みを出せた。波なくプレーする点でよかったと思います」と振り返った。

 内海が奪ったトライへの一連のプレーで、三枝を突破させるパスを放り、三枝がタックルされた際、すぐにボールセキュリティに入ったのが辻﨑だった。
 現在30歳と、今大会のメンバーの中で最年長。パリ五輪に参加後も、アジアセブンズシリーズから戦い続けている。

「年齢的にはベテランと言われますが、代表でやっとプレー時間をもらえるようになったシーズンです。まだまだこれから、と思っています」と話す表情が明るい。
「パリまでは、きょうは何分出られるだろう、とか思っていました。でもいまは、13人で戦うというヘッドコーチのコンセプトがあり、自分に求められている役割が分かっています。なので、何分…でなく、出た時に持ち味を出せるようにすることに集中してプレーできています」

 そのマインドは自分だけではない。「13人が一人ひとり役割を持って、いつ出ても自分がやることをやるというマインドで集中できています」と仲間のことも語る。
 そして、若い選手たちの存在に目を細める。

「(自分も含め何年も前から代表にいる選手は)フィジーはやりにくいとか、フランスはコンタクトが強いとか、そういう固定観念があると思うのですが、新しく入ってきた若い選手たちは、そんなの関係ない、という感じで強気です。そういう中で経験を伝えて引き締めるところは締めますが、勢いに乗ることもありますね」

 サクラセブンズはもともと仲のいい集団だが、「いま、さらに仲がよくなっています。ラグビー中にもよく話すし、ラグビー外のこともよく話す。それがチーム力になっているように感じます」と話す。
 最年長だから何かをしないといけないということはなく自然体。自分のプレーにも、「アジリティを使ってトライチャンスを作ったり、取り切れるようになってきました」と言う。
 コンタクトプレーへの自信も深まっている。

 バンクーバー大会で初キャップを得た松田向日葵は、史上最高位に届いた日々の中に身を置けた幸せについて、「まずサクラセブンズに選ばれてびっくりしましたが、すごく嬉しかったです。大会会場の雰囲気や3日間通して戦うことなど、いろんなことを学びました。自分たちがやりたいことをやれたら通用するんだと分かりました」と話した。
 大会初戦のフィジー戦で自分がタックルで倒し、それがボール奪取につながったシーンは、体にも記憶にも残った。

 その松田の存在も含め、13人全員で残した4位と繰り返した兼松HCは、2016年のリオデジャネイロ大会からラグビーが五輪競技になると決まってから積み重ねられてきたことすべての先にいまがあると強調する。

左上から時計回りに、松田向日葵、永田花菜、選手たちの荷物、バンクーバー大会でサクラリボン賞(ツアーMVP)に選ばれた堤ほの花。(撮影/松本かおり)


「その時から積み重ねてきたものは、なにひとつ間違っていないと選手の時から思ってきました。それらをどのように日本らしいラグビーとして体現するかを考え、取り組んできた。選手たちは小さいけど、真面目で、ハートも強い。小さいからこその強みもある。オーストラリアやニュージーランドを真似するのではなく、自分たち独特のラグビーを作っていこう、チームのカルチャーももう一度再構築していこうとしています」

 今大会で28キャップとなり、バンクーバー大会参加メンバーの中では、梶木主将、三枝と並んで、32の堤ほの花に次ぐキャップ数だった永田花菜も、4位という結果は「何かが変わったから(得られたもの)ではなく、積み重ねてきた結果」と話した。

「これまでのサクラセブンズの選手たちがつないできたものがあって、それが新しい選手にもつながり、それが13人で戦うことにつながっていると思います」

 兼松HCが大事にしている「つながる」という言葉が、自然に選手たちから出る。
 チームはいい方向に進んでいる。

【HSBC SVNS 2025/バンクーバー大会 日本代表試合結果】
◆1日目
日本代表 19-14 フィジー代表(プール戦)
日本代表 19-14 英国代表(プール戦)
◆2日目
日本代表 12-31 フランス代表(プール戦)
日本代表 22-17 アメリカ代表(順位決定戦/準々決勝)
◆3日目
日本代表 7-28 フィジー代表(順位決定戦/準決勝)
日本代表 12-26 オーストラリア代表(順位決定戦/3位決定戦)

【HSBC SVNS 2025/バンクーバー大会 サクラセブンズ】
1 辻﨑由希乃 ながとブルーエンジェルス 21
2 三枝千晃 北海道バーバリアンズディアナ 27
3 堤ほの花 日体大ラグビー部女子(OG) 31
4 梶木真凜◎ 自衛隊体育学校 27
11 内海春菜子 YOKOHAMA TKM 15
12 永田花菜 ナナイロプリズム福岡 27
13 吉野舞祐 ナナイロプリズム福岡 20
14 岡元涼葉 東京山九フェニックス 6
17 高橋夏未 日体大ラグビー部女子(3年) 7
18 大橋聖香 ナナイロプリズム福岡 10
19 谷山三菜子 日体大ラグビー部女子(1年) 6
20 庵奥里愛 三重PEARLS 1
21 松田向日葵 追手門学院大女子VENUS(2年) -

※左から背番号、氏名、所属チーム、大会前までのキャップ数。◎は主将。
※2025シリーズを通して同一選手が同一背番号を着用。
※2025シリーズは各大会で13名まで登録可能。試合毎に12名(スタート7名+リザーブ 5名)を登録。

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