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とんでもない幕開けだった。
ここニュージーランド(以下、NZ)のメディア、ラグビーファンは、まさにスーパー(素晴らしい)ラグビーを見て大興奮している。
2025年度のスーパーラグビー・パシフィック、開幕週の第1節は接戦が相次いだ。1点差が2試合、4点差、8点差、もっとも多い得点差でも11点。すべての試合が最後まで目を離せなかった。
1点差の試合は、『ワラターズ 37-36 ハイランダーズ』と『フォース 45-44 モアナ・パシフィカ』。どちらもロスタイムに入ってからの逆転劇で、まるでドラマを見ているようだった。
第1節で最も注目された昨季の決勝カードは、チーフスがブルーズを25-14で破り、見事リベンジに成功した。試合前のTAB(NZ国内のスポーツ・ベット)のオッズからいくと多くの人の予想が間違いだったようだ。
8点ビハインド(6-14)で折り返したチーフスは、ベンチに多数のオールブラックスを揃えたボムスコッドが見事に機能し、後半途中から流れを変えて逆転勝ちした。
それは、まるで前半のビハインドも計算済みだったと思えるほどだった。クレイトン・マックミランHC(ヘッドコーチ)のハーフタイムインタビューの落ち着いた様子が印象的だった(逆に前半をリードしていたブルーズのバーン・コッターHCのものは落ち着かないように見えた)。
FW戦で昨季ほどの優位性を出せなかったブルーズは、チームを去ったFL/NO8アキラ・イオアネ、ケガで出遅れたNO8ホスキンス・ソトゥトゥの2人のパワーランナーが不在となった影響があったか。
この試合のヒーロSO/FBダミアン・マッケンジー(15番で先発し、後半に10番の位置へ)は、大事なところでトライを挙げた(2トライ)。試合直後のマッケンジーの表情は、ゴールキックを蹴る直前の微笑を超えるほどの弾けるスマイルだった。
後半の勝者の攻撃に目がいきがちではあるが、この試合でチーフスは、ギリギリでトライを何度も防いだ。ディフェンスの勝利だったとも言える。
●クルセイダーズ、王者復活へ好発進。 新人プレストンがデビュー戦で3トライ!
2月14日、クライストチャーチの夜は熱かった。
スタジアムには、2025年度のスーパーラグビーの開幕戦を盛り上げる雰囲気があった。
その中のひとつとは、バレンタインデーにちなんでハーフタイムを使い、カップルの結婚式をピッチ上でおこなうというものだった。
司会者が指輪を地面に落とし、会場が一瞬どよめいたが……後半戦が始まる前に、式は無事に終わった。
クライストチャーチの夜が熱かったのは結婚式だけではない。ホームのクルセイダーズは、2025年度のオープニングカードでハリケーンズ相手に見事な逆転勝利(33-25)を収めた。試合内容が良かっただけに盛り上がった。
その熱い今季のオープニングゲームを現地で観た。
周りを見渡すと子どもから年配の方まで、皆のワクワク感がこちらまで伝わってきた。王国のラグビーファンはスーパーラグビーの開幕を待ち望んでいたのだ。
スタンドの入りは、空席があったものの、近年で言うとまずまずの1万3000人(現在のクライストチャーチのスタジアムは約1万8000人収容)。ひと昔前はクルセイダーズ×ハリケーンズの好カードであればもっと入っていた、と呟きたくなる。
空席があってもある程度入れば実況が「Good Crowd(大観衆)」と表現する。これも時代の流れと言うべきか。
昨季のクルセイダーズは、スーパーラグビー・パシフィックのプレーオフを逃すほどの大不調だった(9位)。昨季の傷がまだ癒えてないクライストチャーチのファンの信頼を回復するためにも、地元での開幕戦はマストウィンが求められた。
しかしクルセイダーズは良いスタートを切れない。開始早々にハリケーンズの勢いに押され、自陣の22メートル内で防戦一方となる。クルセイダーズが反則を繰り返したことによりレフリーのニック・ベリーから警告が届く。その直後、再び反則を犯し、オールブラックスの現キャプテン、LOスコット・バレットがイエローカードを受ける。10分間のシンビンとなった(前半4分)。
その数分後、今度は9番ノア・ホッザムが足首を負傷し退場(同9分)。クルセイダーズにとって試練のファーストクウォーターは、ハリケーンズが2トライ(同6分、同15分)を挙げて14-0とリードした。赤色のジャージが目立つスタジアムに嫌な空気が流れた。
「今年も駄目か……」とり声が聞こえて来るかのようだった。
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しかし、セカンドクウォーターに差し掛かる時間帯から流れが変わる。25歳とやや遅咲きながらスーパーラグビー初参戦となるSHカイル・プレストン(負傷したホッザムと交代)のトライ(19分)をきっかけに、クルセイダーズが息を吹き返した。
その後、両軍がトライを奪い合う白熱した展開が続いた。クルセイダーズは8点ビハインド(14-22)で折り返すも内容は悪くなかった。
後半はハリケーンズを3点に抑えたクルセイダーズが3トライを追加し、見事な逆転勝利だった。
昨季は6戦目にして初勝利、その後も勢いに乗れずにファンを落胆させた。しかし今年のクルセイダーズは違って見える。まだ1試合だが、されどこの勝利は大きい。内容が良かっただけに復活への兆しがたっぷりと詰まっていたように思う。
選手たちも7連覇(2017~2023年)した時のような強さはないと認める。初心に帰り、今季はとにかくひた向きにいく覚悟のようなものを現場で感じた。
昨季全試合欠場のFBウィル・ジョーダンが戻ってきた事も大きい。常にギャップを狙い、突破を試みてチャンスを何度も作った。クルセイダーズでデビューのSOジェームズ・オコナー(元ワラビーズ)も58分から出場して流石のプレーをした。10番で先発のタハ・ケマラも成長を見せた。FWもクルセイダーズの泥臭さが戻ってきた。
この試合のヒーローは、文句なしにSHプレストンだ。スーパーラグビーのデビュー戦は、序盤の劣勢な場面で投入されたにもかかわらず、落ち着いたプレーを72分間続けた。
現オールブラックスの9番を背負うキャム・ロイガードを相手に見事な活躍だった。おまけは、でき過ぎとも言えるデビュー戦ハットトリック。あっと言う間に世間に名を売った。
プレストンは昨年のNPC(NZ国内州代表選手権)でシーズン8トライ。ウェリントンの優勝に大きく貢献した。なぜSHでたくさんのトライが取れるのか、この開幕戦を見てあらためて納得させられた。
どこにボールが運ばれるか予測する能力に長け、サポートプレーのコースが抜群にいい。スピードがあることも忘れてはいけない。ラックサイドをもぐってのトライも見事だった。
状況判断、効果的なキックも素晴らしい。SHとして一番大事なパスパークも申し分ない。屋根職人のプレストンがいまではプロのスーパーラグビー選手として活躍している。
当然ながら試合終了後のSky Sportsのインタビューは、真っ先にプレストンのもとへ向かう。興奮したインタビューアーとは対照的にプレストンは、試合中と同様に落ち着いた雰囲気で受け答えをした。
「試合に勝てた事に感謝している。先発ではなかったが、試合前に80分プレーすることを頭に準備していた」と謙虚で冷静な回答をした。そして ホッザムのケガについていたわる言葉も忘れなかった。
試合後は観客がピッチに入ることを許された。一躍ヒーローになったプレストンが早速サイン攻めに合っていた。
プレストンの活躍とともにチームの雰囲気も印象的だった。
前座で試合をしたディベロプメントの選手も試合後の円陣に加わった。そこでキャプテンのデイヴィット・ハヴィリが「築き続けよう。動き続けよう。素晴らしい仕事をしたデビュー選手を祝おう」と言った。そして最後は「LOVE YOU BOYS」で締めた。
そのハヴィリは、プレーにおいても積極的に前に出るアタックが印象的だった。そしてチームへの声掛けなど、開幕戦で早速リーダーシップを発揮した。
まだ1試合しかではあるが、今年のクルセイダーズはやってくれそうな気がする。
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◆第2節も盛り上がりそう。注目はチーフス×クルセイダーズ
第1節の観客は昨季と比較し。38パーセントの増加だったとスーパーラグビー・パシフィック。接戦ばかりでドラマチックな試合が多かったことから、第2節の観客はもっと増えるかもしれない。
その2節目の注目カードは、開幕戦でブルーズに勝利したチーフスがホームのハミルトンにクルセイダーズを迎えての一戦だろう(2月21日)。第1節でヒーロになったSHプレストンは、ケガのホッザムに代わって9番で初先発する。
チーフスは、若干ローテーションをしているものの、2節目もFLサミペニ・フィナウ、SHコルテス・ラティマの現オールブラックスの選手をベンチスタートに据え置きにしている。
初戦を落としたブルーズは、ダニーデンでハイランダーズと対戦する(2月22日)。このカードも盛り上がりそうだ。昨年のMVP、NO8ホスキンス・ソトゥトゥが8番で先発と、今季初登場する。今年も大暴れするのか楽しみだ。