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ゲームキャプテン流大、熱を込めてサンゴリアスの現在地を話す。
1992年9月4日生まれの32歳。166センチ、75キロ。日本代表キャップ36。(撮影/松本かおり)
2025.02.19
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ゲームキャプテン流大、熱を込めてサンゴリアスの現在地を話す。

田村一博

 努めて冷静に話し始めた。
 しかし、やがて熱っぽい口調になる。勝ちたい。勝ってきた歴史を深く知る。もっとやれるはずなのに、勝ち切れない。
 もどかしい気持ちとチームへの愛情が見え隠れした。

 2月15日、秩父宮ラグビー場でおこなわれた府中ダービー、東芝ブレイブルーパスとの一戦に33-43と敗れた東京サントリーサンゴリアス。
 その試合でゲームキャプテンを務めたSH、流大(ながれ・ゆたか)は、試合後の記者会見でチームの現在地を話した。

 開幕2連敗後、2戦連続で引き分け、続いて3連勝。5戦連続負けなしで臨んだこの試合で勝てば、上昇気流に乗れたかもしれない。
 しかし、ブレイブルーパスに7トライを奪われた。33得点できたのに敗れた。
 なかなか突き抜けられない。

2月15日の府中ダービーではゲームキャプテンを務めた。(撮影/松本かおり)


 2015年の春にサンゴリアスに加入した。2年目には主将に就き、その年と翌年に優勝。先頭に立ち、チームをトップリーグ連覇に導いた32歳は、後半30分を迎えるまで30-31と喰らいついた戦いを振り返り、言った。

「勝つチャンスは作れたのですが、そこで勝ち切れなかった。これが今の東芝さんとサントリーの差だと思います。実力通りの結果になったと思います」
 ただ、「勝つチャンスも作れましたし、若い選手が活躍できたことは(チームにとって)プラスになります」と前向きな言葉も忘れなかった。

「最後(試合終了直前の反撃で)、自陣のゴール前から敵陣ゴール前までアタックできた。あれが本当のサントリーの姿だと思います」とも話した。
 昨季王者で、今季も開幕から1敗だけと、2位の相手から33得点(4トライ)したのだ。いいところもあった。

 流自身は、豊富な経験に裏打ちされた視野とスキル、判断力を駆使してトライを呼ぶプレーをした。
 前半に奪った2トライはいずれもこの人のキックがきっかけだった。

 特に前半10分、NO8箸本龍雅が挙げたトライは、相手の背後を突くキックが効いた。
 チェイスしたWTB尾﨑晟也がキャッチした後、相手の防御を受けながらもオフロードをつなぎ、背番号8が攻め切った。

 そのシーンについて「(ウラをとるプレーは)僕の強みですから」とさらりと言い、「尾﨑がコールを出してくれました。素晴らしいビジョンとコミュニケーション。僕も(そのスペースが)見えていたので蹴りました」と続けた。

 攻守両面でつながり続け、勝敗の分かれ目をものにしていく。強いチームとは、その確率が高い。
 巡ってきたチャンスを最大化する。小さな綻びを大きくしない。そういうことが求められる。

今季は開幕からの全8戦に出場。6戦に先発している。(撮影/松本かおり)


 前半だけで5トライ、31点を許したディフェンスについて言及した。
「前半にソフトなトライやペナルティを与えた。それではチャンピオンチームには勝つのは難しくなると思います」
 一次攻撃から奪われたものも含め、少ないフェーズでトライラインを越えられたことを悔やむ。

「毎試合、いろんな学びがあって、チームとして成長はしていってはいます。しかし、やはり勝って次に進むことにまさるものはない」の言葉には、帝京大時代も含め、常勝チームの中でキャリアを積み重ねてきた者の実感がこもっていた。

 特に前半、東芝の地力を感じた。チャンスを確実に取り切る。好機を全員で感じ、動けているからだろう。意思統一ができていた。
 自分たちも同様に、チャンスを生み出し、取り切れたシーンはあった。しかし、サンゴリアスの時間を長く維持できない。ディフェンス時に辛抱できなかった。

「怪我人の影響もあり、サンゴリアスは若いメンバーも出ています。その中で、例えばしっかりタッチに出さないといけないところでキックを出せなかったり、(防御で)あと 2、3フェーズ我慢したらいいところで(状況が変わりそうなところで)ハイタックルやノットロールアウェイでペナルティを与えてしまう」

「ゲームのキーポイントが分かる選手が増えないと、こういう競った試合には勝てない」と経験から知る。
 ブレイブルーパス、埼玉パナソニックワイルドナイツを例に挙げ、「本当に強いチームは、そういうゲームのキーポイント、勝負のアヤを本当に分かっている選手が多い」とした。
 先を走るチームに追いつくため、自分たちも全員で学ばないといけない。

 反則には気をつけようと練習から言い続けてきたのに、いざ本番となるとうまくいかない。
 頭では分かっているのにプレッシャー下で乱れるのは、個々の経験不足も理由だが、自分を含めたリーダー陣の牽引力も足りなかったのかもしれないと、矢印を自分に向ける。
「コーチ陣とも話し、解決していく必要がある」とする。

 気になるのは、「やられてからやり返す」姿勢になっていることだ。自分たちから仕掛けないといけない。
 掲げている自分たちのアイデンティティ、アグレッシブさが欠けていないか。

 前半に失点を重ねたブレイブルーパス戦の最初の40分を振り返り、「ブレイクダウンで意味のない人数のかけ方をしてディフェンスがタイトになった。そこで外を攻められたので、ハーフタイムに見極めをして、しっかりと2人でブレイクダウンを完結させようと話した」という。

 後半、自分たちがコントロールできる時間が増えた。それだけの力は持っているのだ。やられてから反撃に出るのではなく、その力を先に出すチームにならないといけない。

スクラムでの仲間の奮闘を喜ぶ。(撮影/松本かおり)


 この試合の前までの、敗戦のなかった直近の5試合のチーム状況について、「状態は間違いなく上がっていました」と言う。
「選手とコーチ陣の意思疎通もうまくいっていました。自分たちがこのラグビーをやれば勝てる。相手がこうだから、サントリーはこうする。コーチ陣から出たクリアなゲームプランに対して、自信を持ってプレーした5試合でした」
 ブレイブルーパス戦に向けての1週間についても、同様の時間を過ごした。

 しかし、望む結果は掴めなかった。
 勝負ごとは思うようにはいかない。ラクビーは奥が深い。あらためてそう思う。
「繰り返しになりますが、勝つためにはゲームの中の瞬間、瞬間に、勝つために何をしないといけないのか、どういうプレー選択をしないといけないのか判断し、それを遂行しないといけない」
 勝負の鍵、勝敗を分けるアヤをまずはキープレーヤーが学ぶ。そして、それを実践、行動して全員に浸透させる以外に道はない。

 流は、「チームの準備とかコーチングスタッフのプレゼンテーションはまったく問題ない。負けて悔しいのはもちろんですし、どこかに原因はあるのですが、自分たちのプロセスは間違っていないと思っています」と締めくくった。

 プレシーズンから積み上げてきたサンゴリアスのスタイルを全員で信じ切る。そうやって生まれるエナジーで上昇したい。
 次戦でレギュラーシーズンの半分が終わる。前半戦の学びを生かして浮上できる時間はまだある。


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