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SH杉山優平[ブレイブルーパス]が語る、府中ダービー快勝の深部と自身の成長
1997年6月5日生まれの27歳。169センチ、76キロ。高校日本代表の経験あり。(撮影/松本かおり)
2025.02.16
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SH杉山優平[ブレイブルーパス]が語る、府中ダービー快勝の深部と自身の成長

田村一博

 両チームの得点合計は76点。赤いジャージーは7トライ、イエロージャージーは4トライを挙げた。
 秩父宮ラグビー場でおこなわれた府中ダービーは、互いが攻め合う80分だった。

 2月15日開催のリーグワン ディビジョン1、東芝ブレイブルーパス東京×東京サントリーサンゴリアスは43-33でブレイブルーパスが勝利を手にした。
 特に前半、サンゴリアスの防御のつながりが密でなかったこともあり、ブレイブルーパスの決定力の高さが感じられる試合となった。

 チームの状態には差があるとはいえ、後半30分になるまで1点差(31-30とBL東京リード)だったこのゲーム。競る展開の中で印象に残ったのが、ブレイブルーパスの選手たちの状況の変化にも動じない落ち着きぶりだった。
 遂行力の高さを示した。

 例えば12-8とリードしていた前半22分過ぎのプレー。
 自陣22メートルラインから少しインゴール側、ピッチ中央のスクラムからファーストフェーズでトライを取り切った。

 SH杉山優平が右にボールを持ち出して前へ出る。相手のSH流大とCTBの位置に立っていた尾崎泰雅の間に走った。両者の意識を引き付けつつ、ここというタイミングで、流のタックルを受けながらFB松永拓朗にパスを出した。
 背番号15はすれ違いの動きで防御を突破。ストレートに走った後、WTBジョネ・ナイカブラにラストパスを放つ。快足の14番を止められる者は誰もいなかった。

「追われる立場、という感覚はゼロです。毎試合準備して挑むのが自分たちのスタイルです」。(撮影/松本かおり)


 そのシーンを振り返り、杉山が話す。「リッチー(SOモウンガ)が動いた方にボールを動かすことが多いので、逆にいくと困惑するかな」と判断した。
 用意していたオプションのひとつで、相手防御の陣形を見て判断し、攻めた。

「実は、思った通りではなかったんです。予定したより、ボールがスクラムからはやく出ました。なので、すぐに走りました。流さんにタックルされない距離で走るつもりだったのですが(コンタクトしながら)フィフティフィフティのパスになった。結果オーライでした」

「府中ダービーでしたが、いつも通りにプレーしようと思って試合に臨みました」と杉山は言う。
「アタックマインドを持って東芝らしくボールを動かし、アグレッシブにプレーしよう、と」
「敵陣ゴール前のアタックで、はやいテンポでさばきながらも、FWをどうオーガナイズするか」という自分に課したテーマもあった。
 後半31分までの自身のパフォーマンスを振り返り、「落ち着いてやれた」という。

 リーグワンを制した昨季得た経験値が、自分とチームを成長に導いている。「まだまだ足りないところはたくさんありますが、去年の経験は大きい。試合の中で相手より先を見ながらプレーできています」と言う。
 試合独特の空気、プレッシャーの中でも平常心でいられるようになった。

 自分たちがこう動いたら、相手はこう動く。相手チームの特徴を考えながらプレーする。そんなことを頭に入れている。
 オールブラックスとして56キャップを持つモウンガは9番、10番のコンビを組む相手であり知恵袋。ともに時間を過ごし、プレーすることでナレッジも増える。「見ている人はリッチーの動きそのものに凄さを感じると思いますが、例えばイエローカードが出た時にどうアタックする、ディフェンスするなどたくさんの引き出しを持っています」と話す。

 そんな人材を得て2シーズン目。世界を知る人の知見から学び、それを頭に実際に相手と戦ってみて、チームは「試合中に起こるハプニングに対しての準備もあるし、対応できるようになりました」。杉山は、自分自身も仲間たちも、「予測力がついた」と言う。
 この日のサンゴリアス戦でもイエローカードを2枚受けたものの、「誰も慌てませんでした。そうなった時の個々の役割も明確なので、チームに歪みが生まれないんです」。

 今季は開幕からの全8戦に出場している(7戦先発)。優勝した昨季も、プレーオフを含めた全18試合のうち欠場は1戦だけ(15戦に先発)。充実のシーズンを過ごしている杉山だが、その座をつかむまでの日々は順風満帆だったわけではなかった。

 大阪桐蔭、筑波大とキャプテンを務めた27歳。2020年春にブレイブルーパスに加わった。
 当時はリーグワンの前進、トップリーグ時代。デビュー戦はトップリーグの最終年となった2021年シーズンの第3節、三菱重工相模原戦で、ルーキーシーズンは3試合だけの出場だった(すべて途中出場)。

 2022-23シーズンから退路を断ち、より注力するためにもプロ選手になった。しかし同シーズンのほとんどの試合で9番のジャージーを着ていたのは小川高廣(当時、共同主将)で、ベンチスタートの多くはジャック・ストラトンだった。
 入団3季目も3試合だけの出場に終わった。

チームメートには日本代表も多いが、本人は「リーグワンで必死です。毎週課題が出る。一試合一試合成長し、その結果…という感じです」。(撮影/松本かおり)


 悶々とした日々。その気持ちを払拭するには試合に出るしかない。そう考え、自分の意志で、2022-23シーズン後のオフに向かった先はニュージーランドだった。
 コネクションを使って所属することになったのは北島の東海岸、ホークスベイの海沿いの街、ネイピア。ローカルクラブ「パイレーツ」(ネイピア・パイレーツ ラグビー&スポーツ)に所属し、思う存分プレーした。

 クラブのレベルは、プレミアチームの試合でもレベルが高いわけではない。しかしその中で、あらためてラグビーの根本にあるものを感じた。

「ラグビーって楽しい。タックルっていいよね。自分はタックルが好きだ。そんなものをあらためて思い出しました。クラブチームの試合はファイトするシーンも多く、荒っぽいのですが、そんな中でプレーできたのもよかったし、周囲と英語でコミュニケーションも取れました」

 ホークスベイ州代表のディベロップメントチームでの試合を含め、4か月で14試合に出場。なかなか試合に出られず感じていたフラストレーションも、いつの間にかどこかに吹っ飛んだ。
 フレッシュな気持ちで迎えた昨季ブレイクしたのは、迷いが吹っ切れたからだ。自分のスタイルでプレーし、成長し続ける姿がチームの信頼を得ることにつながった。

 28-28と引き分けた2月9日の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦。昨季プレーオフファイナルと同じカードは、互いのプライドがぶつかる好ゲームとなった。
「試合中、フォワードのうしろで指示を出している時、フロントローの選手たちがタックルしてすぐに立ち上がり、またタックルと、繰り返す姿を見て熱いな、と。チームへの思いはディフェンスに表れる。自分もやらなあかん、と燃えました」

 いい表情で仲間のことを話す。本人とチームの充実は、そんなところから伝わってくるものだ。


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