logo
新旧サクラセブンズに囲まれた原石、リーダーの責任を果たす。黒田佑美&馬場希美[ナナイロプリズム福岡]
左がバイスキャプテンを務めた馬場希美。右がキャプテンの黒田佑美。(撮影/松本かおり)
2025.02.11
CHECK IT OUT

新旧サクラセブンズに囲まれた原石、リーダーの責任を果たす。黒田佑美&馬場希美[ナナイロプリズム福岡]

田村一博

 ファイナルの舞台に立ったナナイロプリズム福岡の先発7人のうち、セブンズ日本代表の経験がないのは自分たちだけだった。
 サクラセブンズ70キャップの中村知春を筆頭に、1月のHSBC SVNS、パース大会で5位となったメンバーがいる。
 その中で、今大会でキャプテンを務めた黒田佑美、バイスキャプテンの馬場希美が責任を果たした。

 2月8日、9日に福岡・小倉にあるミクニワールドスタジアム北九州で開催された北洋建設Presents Nanairo CUP 北九州『Kyushu Women’s Sevens 2025』でナナイロプリズム福岡(以下、ナナイロ)が初優勝をつかんだ。
 ながとブルーエンジェルスとの頂上決戦は24-14。快勝だった。

キャプテンの黒田(上)は24歳。バイスキャプテンの馬場は23歳。(撮影/松本かおり)


 その試合で黒田と馬場は勝利に貢献した。
 ふたりとも先発。FWの馬場は前半5分までプレー、BKの黒田は後半4分までピッチに立った。
 ナナイロは前後半とも12点ずつを挙げた。

 馬場は短いプレータイムも、果たすべき役割を果たした。
 ブレイクダウンに頭を突っ込み、常に忠実にサポートへ走る。先制点は小笹知美のロングゲインからペナルティトライを奪った。そのときループプレーで球を動かし、小笹が倒された時に真っ先に駆けつけたのも馬場だった。

 黒田はファーストレシーバーとしてボールをよく動かし、アタックのテンポを作った。チーム2つ目のトライ、迫田夢乃が左隅に飛び込んだシーンでは、タイミングよくこの人がラストパスを出した。
 ハーフタイムのハドルの中でもトークの中心になっていた。

 キャプテンの黒田は24歳、愛知・名古屋の出身。ラグビーは豊正(ほうせい)中に入学して始めた。
 同中学のラグビー部の顧問を務めていたのが女子日本代表18キャップ、同セブンズ代表2キャップを持つ永田早矢さんだった。

 栄徳高校でも楕円球とともに歩いた。ラグビー熱は高まり四国大学へ。そしていま久留米にいる。
 プレー機会とやり甲斐を追って、学生時代を四国、社会人として九州で過ごす自分の人生を「ラグビーが好きなので」と語り、目尻を下げる。
 現在は田主丸中央病院で介護士として働いている。

ナナイロのアタックのリズムを作った黒田。(撮影/松本かおり)


 桑水流裕策ヘッドコーチは黒田を今大会のキャプテンに指名した理由を「大会の直前までおこなわれていた15人制でも活躍してくれました。目立つわけではありませんが、愚直に自分がやるべきことをやる選手。チームにいい影響を与えてくれると思いました」と話した。

 黒田自身は「キャプテンっぽい性格ではないので、私でいいのかな、と思いました。でも任せてもらったのだから頑張ろう、自分らしくやろうと思った」と話し、まだ手にしたことのなかったこの大会での優勝をターゲットにチームをまとめた。

 表彰式を終えて、「ミスをせず、自分たちらしいアタックで流れを作れたのが良かった。ディフェンスでも(連係をとって)簡単に1対1のシーンを作られなかった」と勝因について話した。
 しかし、自分にベクトルを向けて「今大会では結果を残せましたが、もっと周囲を鼓舞できるようにならないといけない」とした。

 ナナイロ生活は居心地がいいと言う。
「社会人、学生と、いろんな人がいるので、いくつかのグループにならず、全員で和気あいあいとやれています。その空気が、プレーにもいい影響を与えている気がします」

 サクラセブンズの永田花菜は同期。国際舞台での経験を通して、いろんなことを教えてくれる。それは永田に限らず、他の代表経験者も同じだから日々刺激を受けている。
 そして黒田は、彼女たちから見習うべきは知識や技術だけではないと言う。

「例えば(中村)知春さんは、練習の準備や後片付けをスタッフ任せにせずいつも手伝う。それを見たみんなも、同じように動く」
 いいチームでプレーできていてしあわせを感じる。

 ラグビーの魅力を、「人の心をいちばん動かすことができるスポーツ」とする。自分の行動で誰かを笑顔にするのって素敵。
 準決勝のあと、「このチームが大好きなので、日本一になりたい」と言っていた。強豪ながとを倒して、目指すところへ少し近づいた手応えを得たかもしれない。

 バイスキャプテンの馬場も、黒田同様、まじめな選手だ。桑水流HCは、15人制ではHOとしてプレーする彼女の価値を「前で体を当て続けられる選手。チームメートはそれを見ています。その信頼感をバイスとして発揮してほしいと思いました」とした。

 長崎の大村出身。小2のときに大村ラグビースクールに入り、同スクールで中学まで過ごした。
 佐世保東翔高校時代は長崎レディースでプレーし、九産大でもラグビーを続けた23歳のラグビー歴は15年を超える。「長くやってきましたが、男子と一緒の時期もあったし、12人制、15人制、そしてセブンズと、いろんなラグビーをやってきているので飽きませんね」と楕円球への愛情を語る。
 現在は1630年からの歴史を誇る千鳥饅頭総本舗で販売職に就きながらラグビーに取り組んでいる。

 今大会の途中、チームの状況を「コネクトし続けています」と表現した。一人ひとりが自分の責任を果たしているからだ。
 自分の得意とするプレーを「ディフェンスで仕留める」とした。

馬場は決勝のファイナルの先制時、ビッグゲインの小笹知美(右)を忠実にサポートした。(撮影/松本かおり)


「私は足も速くないし、身長も低い。何か飛び抜けたものを持っているわけでもないので、泥臭くプレーしようと思っています」
 周りには好ランナーが何人もいる。自分のスタイルが、その選手たちをより輝かせると知っている。

 そんなマインドでプレーできる理由を、「これまで私を指導してくださった方々のお陰です」と話す。
 ラグビーマンでスクールのコーチを務めている父。大学では平野勉氏、豊田将万氏と、日本代表経験者から教わった。

 他にも、出会った指導者はたくさんいる。その人たちが、自分がもっとも生きる道は人を生かすプレーと教えてくれたから、自然とチームを支えるプレーヤーになれた。
 157センチの頑張り屋は、現在のチームメートたちにも、「すごい選手たちがたくさんいるのに、みんな人が良くてフラットで、学べるし、のびのびやれています」と感謝する。

 目指す選手像にこだわりがある。
「見ている人たちにオッと思われる選手になりたいですね。ディフェンスで、こんなこともできるのか、というプレーができたらいいな、と思っています。私のことはほとんど知りません。そんな中でアクションし、目にとめてもらえたら嬉しいですね」
 これまでは必死に、ガムシャラにやるばかりだったが、「まわりを引っ張っていける選手にもならないと」と向上心も芽生えている。

 優勝の根っこに外からは見えないストーリーがある。そのチームが勝てた理由がそこにある。
 トライは地道なプレーの先に生まれる。きれいな花は、土があってこそ咲く。





ALL ARTICLES
記事一覧はこちら