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懐かしい緊張感。1000日以上ぶり、9番のジャージー。湯本睦[豊田自動織機シャトルズ愛知]
30歳。花園ラグビースクール→英田中→東海大仰星。SA浦安を経てシャトルズヘ。ジュニア・ジャパン、U20代表、高校日本代表。(撮影/松本かおり)
2025.02.09
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懐かしい緊張感。1000日以上ぶり、9番のジャージー。湯本睦[豊田自動織機シャトルズ愛知]

田村一博

 冷たい風が吹き抜ける江東区夢の島競技場で3連勝を飾った。
 2月8日におこなわれたリーグワン、ディビジョン2の清水建設江東ブルーシャークス×豊田自動織機シャトルズ愛知。この試合を制したのはシャトルズだった。

 前半30分過ぎまで5-10とリードされるも、ハーフタイム直前の時間帯に2トライを奪って19-10とすると、後半はラスト20分に4トライを挙げて47-15と完勝を手にした。
 これでシャトルズは今季開幕からの5戦を4勝1敗とした。

 昨季は終盤の勝負どころで勝ち星を重ねられなかった反省から、今季はシーズン中にもチーム力を高めたい。
 今季のシャトルズは若手も含め、多くの選手を起用しながらシーズンを過ごしている。

 その中で、この試合も含む直近の3試合で9番のジャージーを着たのが湯本睦(あつし)だ。以前はNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安に在籍。2022-23シーズンから愛知の住人となった。
 5月には31歳になる。

ブルーシャークス戦では効果的なキックも出た。今季は開幕からの全5試合に出場し、第3節から3戦連続先発中。(撮影/松本かおり)


 ブルーシャークスとの一戦で湯本は前半の40分、ピッチに立った。
 風下での難しい状況の中、素早いパスワークとサポートプレーを見せ、SOフレディー・バーンズとのコンビで落ち着いたゲームメイクをした。

 35分過ぎのトライシーンではラストパスをWTB齊藤大朗に送った。前がかりになった相手防御を抜き、走ったWTBチャンス・ぺ二の動きに素早く反応してサポートラン。オフロードパスを受けて齊藤につないだ直後、猛タックルを受けた。
 そこしかないサポートコースと、球を離すタイミングだった。

 その直後、38分のトライ時も輝いた。
 自陣から蹴ったバーンズのハイパントをCTBジェームズ・モレンツェがキャッチ。そのまま前進してタックルを受けたところに湯本が駆け寄る。相手の戻りが遅い状況を見て、判断よくキックを敵陣深く蹴り込んだ。

 そのボールを確保したのはシャトルズ。トライライン直前でラックができた。
 湯本はそこに遅れることなく到達。右で呼ぶバーンズにダイビングパスを放る。背番号10がインゴールに入った。
 スピード、経験、そしてスキル。強みを立て続けに出してチームに勢いを与えた。

 シャトルズで3季目。最初のシーズンは2試合に出場しただけだった。右膝の前十字靭帯を痛めて復帰までに1年以上を要した。
「それまで大きな怪我をしたことがなかったので、かなりの挫折もありました。ただ、リハビリ中に多くの人たちに支えられ、いま復帰してプレーできています。喜びを噛み締めています」

 苦悩の時間も糧にした。
 戦列に復帰してもなかなか調子が上がらない時期があった。痛めたのは利き足(右)。もともとキックを課題としていたから、状態が良くないと思うように蹴ることができない。
 じれったかった。

 復帰後、ベンチスタートが続いた。頭では「与えられた役割を果たすことが大事」と分かっていても、やはり9番のジャージーを着たい気持ちがあった。
「葛藤がありました。どうしてスタートで出られないんだろう、と考える時間も多かった」

 そんな中で、自分の培ってきた経験をチームに還元することと、シャトルズのスタイルにアジャストすることを両立させ続けた。
 球さばきのテンポと動くスピードには自信がある。それをチームの中でより生かすことを考え、今季の第3節、九州電力キューデンヴォルテクス戦(1月11日)でついに先発起用される。

「いつ以来かな、と見てみたら、シャイニングアークス時代の試合から数えて1000日以上が経っていました」(2022年3月20日のサンゴリアス戦以来1028日ぶり)

165センチ。隣のLOジェームズ・ガスケル主将は201センチ。(撮影/松本かおり)


 試合当日、懐かしい感覚を得た。先発としてキックオフを迎える独特の空気がある。
「いい緊張感がありました。その空気が心地よかった。それが、自分のプレーを引き出してくれた」
 怪我。リハビリ。そして、あれこれ自問する時間が増えた時期。そのすべてが「自分を成長させてくれました」。

 シャトルズ移籍は、浦安D-Rocks誕生の時と重なる。
 所属しているチームが新しく生まれ変わるのなら、自分が違う環境に身を置いて、新しいチャレンジをするのも同じと判断したからだ。
 その時に考えていた「(せっかく違うところに身を置くのだから)すべてのプレーをもっと成長させたい」の思いは、予想以上に時間がかかり、苦労もあったけれど、3季目にして先発起用の形で実現した。

 若い時に抱いていた30歳のイメージは「おっさん」。しかしいまの自分と向き合って思う。
「若い選手からは、おっさんと見られているかもしれません。でも、まだまだ体は動きますし、レベルアップできると思っています」
「意外とパワフル」と言って笑った。

 シャトルズではプロとして活動している。目の前のことに集中しながら、将来のことも考える。
 A級コーチのライセンス取得は現在進行中。オフには母校(東海大)で後輩たちに自分の経験を伝える時間も用意してもらえた。

 ブルーシャークス戦前、「夢の島(競技場)はシャイニングアークス時代に何度もプレーしているので慣れています」と言った。その言葉通りに躍動し、苦手だったキックでトライも呼んだ。
 久しぶりに9番・湯本の姿を見た人は、苦難の時間があったことに気づかないかもしれない。





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