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いくつものしあわせ。奥野わか花[東京山九フェニックス]
2000年1月6日生まれの25歳。新潟県出身。155センチ、55キロ。石見智翠館→慶大→山九。(撮影/松本かおり)

いくつものしあわせ。奥野わか花[東京山九フェニックス]

田村一博

 実は15人制でのプレーは6年ぶりだ。
 だからチームは3連覇でも自分にとっては初めての優勝。その喜び、伴侶と愛犬との新しい生活も含め、何度も「しあわせ」の言葉が出た。

 2024年8月28日に結婚し、旧姓の原から奥野わか花となったスピードスターが全国女子選手権大会で優勝し、仲間と最高の時間を過ごした。
 2月2日、秩父宮ラグビー場でおこなわれた同大会の決勝で13-5と勝った。自身も前半12分、先制トライを挙げる活躍だった。

 2024年7月のパリ五輪までに女子セブンズ日本代表31キャップを重ねてきた(東京五輪にも出場)。
 年間250日近い合宿やセブンズへの集中もあり、昨秋開幕のOTOWAカップ(関東女子大会)でプレーしたのが久々の15人制だった。

 そんな背景があったから、大好きな仲間たちと大会3連覇の場に立てて感激した。
「昨年の大会ではチームの物販を手伝ったり、スタンドからの応援でした。今年、このグラウンドに立てるとは思っていませんでした。こうして仲間とプレーできることが本当に幸せです」

仲間との最高の瞬間。キャッチフレーズはスピードスターらしく新幹線。(撮影/松本かおり)


 1447人の観客について、「国内の女子ラグビーの試合でこれだけの人に見ていただけのは珍しいですよね。本当に嬉しかったです」と笑顔を見せて続けた。
「私は『山九』に所属しているのですが、全国から230人ほどの社員の方々が応援に駆けつけてくれました。多くの人に支えられながらプレーできることに感謝しています」

 涙を流して優勝を喜んだ今年のキャプテン、佐藤優奈は石見智翠館高校でもチームメートで1学年上の先輩にあたる人。当時からリーダーシップを感じていた。
「あらためて一緒にプレーしてみて、チームの一体感を強く感じました。引き締めるところは締め、寄り添ってくれるときは優しいキャプテンです」
 そのメリハリのお陰で一丸となって戦った結果が3連覇だった。

 パリ五輪と結婚を区切りに代表活動を離れる意志を表明していた。そして、もともと今大会を最後に競技生活も終えるつもりだった。
 しかし、ラグビー愛とチーム愛が決意を変えた。

「フェニックスでプレーしているうちに、ラグビーが日常ではなく、日常の中にラグビーがある環境が、とても心地よく感じられたんです」
 仲間ともっと一緒にいたい。このチームで勝ちたい。その気持ちに正直に、競技活動を続けていくことにした。

 そう心変わりすることを分かっている人がいた。狭山セコムラガッツでプレーする夫の翔太さん(HO/PR)だ。
「最初は『やめる』と言っていたのですが、『やっぱり続けたい』と伝えたら、『そう言うと思っていたよ』と」
 自分のことをよく分かっている人と結ばれてよかった。

 日常の中にラグビーがある。その生活を気に入っている。
「朝起きて、歯を磨き、洗濯して、朝ごはんを食べる。そんな当たり前の日常にしあわせを感じています」
 サクラセブンズ時代はほとんど家にいなかった。

 新生活を過ごし、当たり前に感じていたことが当たり前でなかったことにもあらためて気づいた。
 煩雑に思うことを、合宿ではサポートしてくれる人がいた。そのことに感謝する。
 ラグビーに没頭できていたこともしあわせだった。

パリ五輪での勇姿。全5試合で駆けた。(撮影/松本かおり)


『HSBC SVNS 2025』でサクラセブンスが好調だ。1月のパース大会(オーストラリア)では5位。その躍動を見て、「13人全員で戦っていることが分かるし、負ける気がしませんよね。兼松さん(由香)の熱さがみんなに伝わっているように見えます。ベスト4に入ってほしい」と話すも、あくまで自分は応援の立場と強調する。

「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズでの総合優勝から遠ざかっているので、それを実現できるように頑張ります。(大会には)日本代表の選手やニュージーランドの選手も出ると聞いています。国内で世界レベルの試合を戦える喜びを噛み締めて、しっかり戦いたいと思います」

「奥野と呼ばれることに少し不思議感はありますが、新しい自分を見てもらえているような気がします」の言葉から新婚の初々しさが伝わる。
 夫は良いときも悪いときも、変わらず支えてくれる。愛犬の陽(よう)ちゃんも加わって、家に帰った時に待ってくれている人がいる。心が癒される。

 全国女子選手権決勝の夜は、夫に「(ラガッツの群馬での)試合が終わったらできるだけ早く家に帰ってね」と頼んできたそうだ。
「私はフェニックスの祝勝会があるので。家では陽ちゃんが待っていますから」

 しあわせを分けてもらったような試合後の取材時間。
 なによりも喜ぶべきことは、目標としていた五輪出場を終えても、ラグビーへの愛は変わらず、自分のスピードで走り続けると決めた心の動きを知れたことだった。


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