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台湾からでもやれるぞ。郭玟慶[静岡ブルーレヴズ]の使命感
1998年4月1日生まれの26歳。180センチ、121キロの巨漢。(撮影/松本かおり)
2025.02.06
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台湾からでもやれるぞ。郭玟慶[静岡ブルーレヴズ]の使命感

田村一博

 クラブでいちばんの経験と強さを誇る人がいない時、大役を任されるようになってきた。

 静岡ブルーレヴズのタイトヘッドプロップ、郭玟慶(かく・ぶんけい)が直近の2試合で3番のジャージーを着た。
 1月18日の東芝ブレイブルーパス東京戦、2月1日の東京サントリーサンゴリアス戦と、ヤマハスタジアムで地元ファンの声援を浴びた。

 ブレイブルーパス戦、レヴズは34-28と昨季王者を倒すビッグゲームを演じた。
 郭はスクラムをはじめとしたFW戦で奮闘し、後半9分まで出場した。その時のスコアは17-14。チームはさらに差を広げて勝利を得た。先発、ベンチスタート共に責任を果たした結果だった。

 サンゴリアス戦は後半12分までプレーした。
 その時のスコアは14-18。リードは奪えなかったものの、終盤の逆転劇を託すのに十分なスコアでショーン・ヴェーテー(18番)にバトンを渡した。

 貴重な勝利となったブレイブルーパス戦を振り返り、「あちらもスクラムがとても強かった。押すこともできましたが、すべて押せたわけでも、思い通りにプレーできたわけでもなかった」と振り返る。
「自分たちのディテールを、試合を通じて実践できないといけません」

 ポジションをつかんだわけではないと自覚している。3番を任されているのは、チームの信頼の厚い伊藤平一郎が戦列を離れていることもある。

 1月11日の横浜キヤノンイーグルス戦の前半30分過ぎ、自陣ゴール前で相手の8番、シオネ・ハラシリにタックルしようとした際、伊藤が右膝を抱えて倒れた。
 両脇を支えられてピッチの外に出た34歳に代わって戦いの中に入ったのが背番号18の郭だった。

SNSのユーザーネーム「Winnie」はくまのプーさん(Winnie the Pooh)から。(撮影/松本かおり)


 その試合が今季初出場。次節からブレイブルーパス戦、サンゴリアス戦と2戦続けて先発で試合に出た。
 しかし伊藤は、全体練習には加わっていなかったものの、サンゴリアス戦前にはジョギングし、コンタクトバッグに体を当てるまで回復した。先輩の壁を越えるためのチャレンジは続く。

 レヴズのスクラムを完全に自分のものにしたい。教わったことを理解し、だいぶできるようになってきたが、まだまだ完璧ではない。
 味方の1番、2番からの壁を使って、3番が相手の1番、2番間を出ていくのが自分たちのスタイル。試合中も隣のフッカー、ベテランの日野剛志がアドバイスをくれるものの、自分がリードする存在にならないといけない。

 台湾の南部、台南にある長栄高校でラグビーを始めた。父・家良さんはかつて、三菱自動車京都でプレーしていた。周囲から当時の父の姿、チャレンジを聞いて、「自分も」と思い立った。
 高校2年生で台湾代表に選ばれた(18歳以下の代表キャップは、国際ルールで、その後の代表資格に影響を与えない)。大学進学時に日本を選んだのは、父と相談して出した結論だった。
 在学時の2020年にはサンウルブズ(スーパーラグビー)にトレーニングスコッドとして加わった経験もある。
 
 摂南大からレヴズに入ったのは2021年の春。ルーキーイヤーのリーグワン初年度、2季目と、それぞれ11戦、3戦と出場機会を得たが、昨季は出場機会なしに終わった。
 こだわりと理論、日頃の練習の熱と密度で他を圧倒するレヴズのディテールを自分のものにするには時間がかかった。

大きな体でよく動く。「フッカーの日野さんは、試合中、スクラムの中でも指示を出してくれます」と感謝する。(撮影/松本かおり)


 故郷の台湾では、今季から毎節、リーグワンの1試合が放送されることになった。
 郭の出場機会はまだ放送対象試合となっていないが、「注目されます。自分の力をしっかり出したい。友だち、先生やお世話になったラグビーの先輩たちから、楽しみにしていると連絡をもらいました」。
 あとに続く若い選手たちにとっても励みになると分かっている。「使命感、責任感を感じてプレーしています」という。

 現在、リーグワンでプレーする台湾出身選手は、自分と豊田自動織機シャトルズ愛知でプレーする鄭兆毅(てい・ちょうぎ/台湾・竹圍高校→天理大/2024年2月にシャトルズ加入)だけ。2人で「台湾の選手でも日本のトップの舞台でやっていけることを伝えていきたい」と考えている。

「去年、刈谷に行って、鄭とも話しました。彼のポジション(今季はFLで開幕から4戦連続先発)は外国人選手とのポジション争いも激しい。泥臭さ、自分の強みのハードワークを出して頑張れ、と」
 自分から後輩のところへ足を運ぶところに人柄がにじむ。台湾ラグビーへの愛情が根底にある。

 愛する故郷へは1年半ほど戻っていない。貿易管理部に所属する社員選手だからだ。シーズン中も週に3回は出社し、輸出入に関する仕事をこなしている。
 強力スクラメイジャーとして、働くラグビーマンとして、母国の若い選手たちのロールモデルとなる姿を見せていく。


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