Keyword
試合前から吠えた。
黄色いジャージーの背番号3、垣永真之介は、2月1日にヤマハスタジアムでおこなわれた静岡ブルーレヴズ戦の前に吠え、試合中は叫び、仲間を鼓舞して、勝利のあと、にこやかに話した。
その日、開幕から4勝1敗で3位のレヴズと1勝2敗2分けで10位に沈んでいた東京サントリーサンゴリアスの戦いは、サンゴリアスが33-14で制した。
33歳、チーム在籍11年目の垣永は先発して前半プレーし、後半も出血交代で一時ピッチに立った。
レヴズはFWに強みを持ち、勢いに乗っている相手。垣永は試合前から、「フォワード勝負と分かっていたので、きつい時も自分たちがひとつになり続けることを意識していた」。
その強い思いは、実際にピッチ上のパフォーマンスに表れた。
先制点は前半20分にレヴズに許した。せっかく攻め込んでいたのにターンオーバーされ、WTBヴァレンス・テファレに90メートル超を走り切られた。
しかし最初の40分、サンゴリアスは多くの時間を敵陣で過ごした。13-7とリードしてハーフタイムを迎えた。
黄色いジャージーは攻守とも前に出続けた。ベテランの左プロップは、「結束して、一瞬一瞬を積み重ねる意識を感じました」と仲間の熱を体感した。
「ディフェンスにも気迫があった。いいなサンゴリアス、と思いました」
垣永自身も輝いた。相手が自信を持つスクラムで対抗し、ペナルティキックを得るシーンもあった。
そして、フィールドプレーでも輝く。タックルエリアで2度、相手からボールを奪い取った。食生活を鶏肉中心に変えて7キロ減。「体が軽くなり、スタミナの持ち方が変わった」効果もあるだろう。
1回目は前半16分過ぎ。自陣深く攻め込まれた時間帯だった。ボールキャリアーのレヴズ1番、山下をフランカーの下川甲嗣が倒した際、すぐにボールを奪いにいった。
2回目は前半25分過ぎ。ここではセンターのイザヤ・プニヴァイがチョップタックルで倒した相手が抱えるボールにすぐに手をかけた。滑川レフリーが長い笛を吹く。垣永が吠える。仲間たちも叫んだ。
今季は第3節から起用された。ベンチスタートが2試合続き、前節の三重ホンダヒート戦(27-19)から3番のジャージーを着ている。
チームはこの人が先発した2試合で勝利を挙げている。垣永をはじめ、一人ひとりが期待される仕事を果たしているということだろう。
レヴズ戦もそうだった。
先発した選手たちが立ち上がりから気持ちの入ったプレーを見せ、前半をリードして終えた。
後半立ち上がりに一度は逆転されるも、そこから途中出場の選手たちが躍動する。失点せず、スコアをひっくり返して勝ち切った。
勝利の瞬間をベンチから見つめた垣永は、「後半ペナルティが重なった時間帯もありましたが、流(大/スクラムハーフ)がよくコントロールしてくれた」と仲間を称えた。
チームは2敗2引き分けと苦しんだ開幕からの4戦を経て、この日で2連勝。しかし今後に向けて、「1秒、一瞬をひとつずつ重ねるだけ。それが勝利と優勝につながっていく。コネクトし続ける」と緩んだところはない。
「(シーズン序盤に)苦労したこともいいことも、すべてを噛み締めて進んでいきます」と話す。
レヴズ戦はサンゴリアスでの101キャップ目だった(トップリーグ、リーグワンに限らずプレーオフ、日本選手権なども含む)。
節目の「100」は今季初勝利のヒート戦。その試合を迎えるにあたり、「(チームの)クラブハウスには100キャップを達成した人たちの写真が飾ってある。偉大な人たちばかりです。そこに入れたのは嬉しいですね。家族をはじめ、支えてくれた人たちに感謝したい」と話した。
99キャップ目の第3節、引き分けたクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦(26-26)ではプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出された。
土壇場の後半39分に呉季依典がインゴールに飛び込んだトライを、垣永が挙げたと勘違いされてのものだったそうだ。その感想は、「僕らしいですよね」。
長くプレーしているのに、それが初の同賞選出だった。
元オールブラックスで、日本代表のスクラムコーチを務めるオーウェン・フランクスは100キャップを超えているのにトライがない。そのことを引き合いに出し、「僕もプレーヤー・オブ・ザ・マッチがなくても100試合に出られる、としたかった。自分の代名詞がなくなった」と周囲を笑わせた。
いろんな経験を重ねてチーム愛が強くなっている。100キャップ後の目標を尋ねられると「サンゴリアスの優勝。それだけ」と即答した。
自分のことを「皆さんが思っている以上に僕は何も考えていない」とうそぶく。チームファーストの思いにぶれはない。
開幕から4戦目を終えても勝利をつかめなかったスピアーズとの試合後、「後半から出たのに(チームを勝たせる)役割を果たせなかった」と自分にベクトルを向けたベテランは、そのとき、「みんな苦しいし、勝ちたい。ここを乗り切らないと。唇を噛み切って我慢して、立ち直りたい」と話した。
サンゴリアスのスピリットを「全員が、どんな役割であろうと、そのとき自分がやるべきこと、求められることを遂行する」と語る。
「そこに関しては(周囲に)いい影響を与えられるように率先して動き、振る舞うようにしています」
2023年のワールドカップ期間中、メンバー入りが何度も目の前で散らついては離れ、結局試合出場はならなかった。しかし、柱メンバーの一人として立派にチームを支え抜いたことは知られている。
ピッチに立っても、ベンチでも、メンバー表に名前がなくてもチームを常に支えるマインドは、長く在籍するサンゴリアスで育まれたのか、代表チームで培われたのか分からない。
ただ、それが垣永真之介のど真ん中を貫いているのは確かだ。