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大きな未来。部活がない高校生のための「小さな全国大会」SIRC CUP
「第2回SIRC CUP」は、全国のユースチームが一堂に会するミニ「全国大会」となった。(写真提供/渋谷インターナショナルラグビークラブ)
2025.02.01
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大きな未来。部活がない高校生のための「小さな全国大会」SIRC CUP

ジャスラグ編集部

 ラグビーをプレーすることが嬉しくてしょうがないという高校生たちの顔、顔、顔……。グラウンド中にそんな顔があふれていた。

 雲ひとつない青空のもと、1月26日(日)に川崎市の長沢グラウンドで、小さな「全国大会」が開かれた。自分の通う学校にラグビー部がない高校生たちのクラブチームを集めて行われた「第2回SIRC CUP」だ。

 主催したのは、渋谷インターナショナルラグビークラブ(SIRC)。同クラブには、高校生による「渋谷コルツ」があるが、高校生の公式戦は、高体連が主催するため、部活に属していない彼らは公式戦に出場することができない。この大会は、「それならば、自分たちの大会を作ろう」というメンバーの声から、昨年生まれた。

 同じような境遇の全国のユースクラブに声をかけたところ、今年は歴史のある「福岡ユースクラブ」、「神戸SCIXラグビークラブ」、そして昨夏に神奈川県に新設された「えぼしラグビークラブ」が参加することになった。
 現在、このように、自分の学校の部活でプレーできない高校生のためのクラブチームは日本全国でも数チームしかない。せっかく中学までラグビーをやってきても、高校段階でラグビーを断念する状況がある。

「福岡ユース」「神戸SCIX」「えぼしラグビークラブ」によるユース合同チーム。前日練習から神戸のメンバーがリーダーシップを発揮して、即席ながら素晴らしいチームプレーを披露した。(写真提供/渋谷インターナショナルラグビークラブ)


 今回参加したユースチームは、単独チームを作るには人数が不足したため、「福岡・神戸・えぼし」に渋谷からも助っ人を入れて合同チームを作っての参加となった。神戸SCIXの指導を担当するのは、神戸製鋼ラグビー部V7のフランカー、武藤規夫さんだ。

 前日の土曜から東京入りした福岡と神戸のメンバーに、えぼしや渋谷のメンバーも加わって、午後に東大駒場グラウンドを借りての直前練習。ほとんどのメンバーが15人集まってのチーム練習は久しぶり。いままで一度も一緒に練習をしたことのないメンバーとの練習に最初こそ戸惑いがあったものの、すぐに打ち解け、翌日の大会に臨んだ。

 試合当日は、朝早くからユース合同チームが楽しそうに談笑していた。積極的に他チーム選手に声をかけていた神戸の子たちの関西弁がグラウンドに響いていた。
 渋谷コルツも2年前はメンバーが4人だったことを神戸のメンバーに話すと「おー!俺らもワンチャン増えるかもー。夢あるー!」と盛り上がった。

 本大会には、渋谷コルツが日頃交流している高校ラグビー部にも声をかけ、明治大学附属八王子高校、神奈川県立希望ケ丘高校も参加。高校チームとユースクラブが同じ大会で競う合う形となった。
 全5チームでの総当たり方式でのリーグ戦を行い、以下の最終結果となった。

優勝 渋谷コルツRed
準優勝 明大八王子高校
3位 希望ケ丘高校
4位 ユースクラブ合同
5位 渋谷コルツ Yellow 

最終戦で明大八王子高校を破って優勝を飾ったホストの渋谷コルツ・レッドチーム。(写真提供/渋谷インターナショナルラグビークラブ)


 最終戦で明大八王子を下して優勝を飾った渋谷コルツのメンバーは、ノーサイドのホイッスルが鳴った瞬間、歓喜の声を上げた。遠来参加のユース合同チームにも、個々には光るメンバーがいたが、やはり前日に合わせただけの即席チームであり、中には3か月ぶりに試合を体験したメンバーなどもいて、1勝4敗に終わった。

 しかし大会後、いろいろなメッセージが届いた。

◆福岡ユース・横田柊真くん
「神戸の子達と自分たちでマインドが全然違うなと思いました。 福岡は合同だから一勝できて良かったと言っていたけど、神戸の子達は最初から優勝する気でいたことが驚きました。 自分も福岡ユースもこのマインドセットは真似していくべきだと思いましたし試合を楽しむことができていい一日になりました」

神戸SCIXラグビークラブ所属、保久修一朗くんのお母さん
「今回クラブチームに所属するメンバーに、土曜、日曜ともにこのような機会を設けていただき、保護者のひとりとしても本当に感謝の気持ちでいっぱいです。ラグビーをする機会が増え、仲間が増え、かけがえのない時間を過ごすことができました」

◆福岡ユース主務・中島達也さん
「SIRC CUPに参加できた事は、今後につながる大きな一歩だと思います。 SIRC代表の徳増浩司さんから『この大きな波に乗ってユースクラブチームの環境を大きく変えていこう』との言葉を頂いた時には、 心が震え、現在福岡で検討している、エンジョイリーグなどの企画をクラブチームだけではなく、U18世代の普及と ラグビー競技者が一人でも増える様な取り込みを行いたいと思いました。
 SIRC CUPについては、これまで参加した大会とは違って、選手の笑顔と激熱なプレーが見られ、音楽が流れる。保護者はクラブハウスのカフェから観戦できる、素敵な大会でした。 合同チームは、神戸の選手が中心となって、おとなしい福岡の選手も引っ張られる感じでしたが 参加した選手は、3か月ぶりのゲームを楽しんでいました。 SIRCコルツの皆様、ありがとうございました。 次回は、福岡でお会いしましょう!!」

ユース合同チームは前日の午後、東大駒場グラウンドに集まって直前練習をして大会に挑んだ。(写真提供/渋谷インターナショナルラグビークラブ)


◆福岡ユースGMの徳田謙介さん
「福岡ユース選手にとっても何か月ぶりの試合だったでしょう。やはり試合をしている選手の顔は輝いています。高校生のクラブチームの存在・活動の広がりのために、今回は合同で参加しましたが、次回は単独で参加できるように、福岡へ帰りまた仲間を集めて練習したいと思います。各地の同志の存在を心に記して頑張ります!」

◆えぼしラグビークラブ、代表理事の大瀬祐介さん
「選手たちにとって非常に貴重な2日間となりました。選手同士がすぐに打ち解け、コミュニケーションをとっていて、大変うれしく思いました。また、いつも、他チームの試合に混ぜて頂く際には、あんなにもたくさんの試合時間で出場する機会をそんなになく、足がつるくらい目一杯、プレーさせて頂けたこともありがたかったです。引き続き、各チーム様とは情報連携をさせて頂き、クラブユースの活性化、高校生のラグビー機会拡大に邁進していきたいと思います。何卒、よろしくお願い申し上げます」

 今回の大会には、渋谷コルツの初代キャプテン、岡渉くん(明治大学ラグビー部)がレフリーとして参加した。岡レフリーは、中学まで江東ラグビークラブでプレーしていたが、進学した高校にラグビー部がなかったため、コルツの門を叩いた高校生のひとりだ。

「コルツに来るたびにメンバー、人数が増えていくことにいつも驚いています。彼らの強さやラグビーIQの高さに感心し、レフリーとしても学びの多い機会をいただいております。それと同時にこのようなクラブチームがなければ、彼らの才能がなかったものになってしまうことは本当にもったいないことだとも思いました。僕もコルツでラグビーキャリアを再スタートさせ、競技人口の減少という大きな課題に対して道筋を示したいという思いで現在活動させていただいています。このような高校生のためのクラブチームが、日本ラグビーに新しい風を吹かすことを願っています」

大会をリードしたのは現在在籍数が60名を超える渋谷コルツだった。いろいろな国の出身の多国籍チームであることもこのチームの特長だ。(写真提供/渋谷インターナショナルラグビークラブ)


 本大会の準備から運営を担当した渋谷コルツのチームマネージャーの小林久峰さんは、大会を振り返ってこう語った。
「全国のユースクラブチームにもご参加いただき、大いに盛り上がる大会となりました。試合中の選手たちの真剣な表情、そして試合後には一転して笑顔があふれ、充実感に満ちた姿が印象的でした。多くの友情の輪が広がり、再会を誓い合う仲間も生まれました。参加してくださったすべてのチームに感謝するとともに、SIRCがこの大会を主催・開催できたことを誇りに思います」

 最後に、渋谷コルツのサポートメンバーのひとりでもある竹本誠さんのコメントで締め繰りたい。

「今回の一番の収穫は全国のユースチームが一堂に集まって試合ができたことだと思います。即席ながら合同チームのチームワークは非常に良かった。また、コルツのメンバーも含めて、同じ境遇にいる選手たちだから話が合うのか、チームをまたいで会話をしている光景を多く目にしました。いい刺激を受けたのだろうと感じ、この大会で彼らが同じ場所に集まった意義は非常に大きかったように感じました」

「この世代のラグビー人口減少の歯止めには、経験のない選手の受け皿になる高校ラグビー部と中学までラグビー経験ある選手を救済できる高校ラグビークラブの両方が伴走することが必要です。どちらかだけが発展しても、その先にある日本ラグビーの普及・強化には繋がらないように感じました。高校ラグビー部、そしてユースクラブが一堂に介したSIRC CUPには、未来しか見えませんでした!」





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