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【HSBC SVNS】史上最高位タイの5位で帰国のサクラセブンズ、充実を語る。
パース大会でキャプテンとしてチームをまとめた吉野舞祐。帰国後の空港で「5」
2025.01.30
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【HSBC SVNS】史上最高位タイの5位で帰国のサクラセブンズ、充実を語る。

田村一博

 夏のパースにて3日間で5試合。接戦を勝ち切り、世界のトップ国に完敗し、最終日は、前回大会(12月のケープタウン)で2位だったアメリカに勝った。
 そんな激戦を終えた後に9時間ほどのフライトを経て帰国したのだから、表情に疲れは見えた。
 でも、心の中は充実していた。

 大きなスーツケースを転がして到着口から出てくる姿は、一般の搭乗客と比べても特別大きいわけではない。
 しかし、その集団は世界の強豪が集うHSBCワールドラグビー・セブンズシリーズ(HSBC SVNS)の今季第3戦、オーストラリア・パース大会で5位になった。
 同大会で過去最高位タイの成績を残したサクラセブンズが1月28日朝、帰国した。

年齢や経験に関係なく、お互いを尊重できる集団を目指す。©︎JRFU


 2023年シリーズのトゥールーズ大会以来2度目の5位について、兼松由香ヘッドコーチ(以下、HC)は、「(チームとして大会ごとに)ひとつずつ階段をあがることをイメージしてやってきましたが、順調にいくほど簡単なことではありません。それを成し遂げた選手たちは凄いな、と純粋に思います」と話した。
 2024年11月30日に始まった今季第1戦のドバイ大会、続くケープタウンでの第2戦は、それぞれ7位と6位。HCの言うように、サクラフィフティーンは一歩ずつ上にあがっている。

 チームが着実に結果を残せている理由を、HCは、現体制発足後の最初の国際舞台、アジアシリーズの韓国大会からの継続性を根拠にあげる。

「大会ごとにメンバーは(入れ替えによって)変わっていきますが、選手たちは毎回、前回大会のことを(次大会のメンバーたちに)つないでくれています。得た自信、課題の両方とも受け継いでくれるから、(強化が)途切れない。全部つながっているからこそ残った結果だと思います」

 その大会で選ばれた選手たちは、自分たちが経験を積むだけに終わらせず、遠征に参加しなかった選手たちに次大会へ向けての合宿でうまくいったこと、その反対を言葉だけでなく、グラウンドで伝えるチームカルチャーができつつある。
「(お陰で強化が)振り出しに戻らないようになってきています」

 パース大会では2024年の3月に日体大を卒業した23歳、吉野舞祐がキャプテンを務めた。アジアセブンズシリーズのタイ大会以来だった。
 同主将は「自分がキャプテンとして何かをしたわけではありません」と言いながらも、ワールドシリーズでの初めて任された大役を振り返り、「これまでと違った感覚で、いい経験になりました。チーム全体を見て、FWと連係をとることもできました」と言った。

 アイルランド(14-7)、ブラジル(19-12)に勝った初日。2日目はニュージーランド(5-53)とオーストラリア(0-35)に大敗した。そして3日目は29-22と逆転勝ちでアメリカに勝ち、3日間、心は大きく揺れ動いた。

「1日目はいい雰囲気でした。でも2日目の相手には勝てなかった。3日目、大きく変えたことはありません。3日目は円陣で、最後は気持ちと言いました。自分たちが絶対に勝つ。その気持ちが大事、と。試合に出ている人だけでなく、ベンチも含めて全員で戦えました」

 サクラセブンズでは大会ごとに、選手、スタッフの投票による『サクラリボン賞』(MVP)を選出している。今回同賞を受けたのが吉野主将と梶木真凜だった。
 受賞について主将は、「今大会にはトリプルアクションというテーマがありました。2回、3回と、続けて仕事をしよう、ということです。その意識があったから、今大会ではいつもよりドライブで前に出られたし、次への動き出しもうまくやれました」と自己分析した。

 また、チーム全体の好調さについて、「チーム全員で戦えています」と即答した。
「先発の選手は勢いを作る。後半に出る選手たちは、冷静にハイテンポで戦う。その試合で、自分はどっちの立場にあるのかが明確になっているから、一人ひとりが集中してプレーできていると思います」

 吉野と並んでサクラリボン賞に選ばれた梶木は受賞について、「自分の課題は次のプレーへの動き出しでした」と話し始めた。
「でも今回、トリプルアクションがチームのテーマになった。自分と向き合い、すぐに立ち上がって、次のプレーに参加する意識でプレーできたことが評価されたとしたら嬉しいですね」

左上から時計回りに梶木真凜、岡元涼葉、庵奥里愛、堤ほの花


 東京五輪、パリ五輪と連続して出場し、チームの中でも経験の多い選手として貴重な存在。長くサクラセブンズでプレーしてきた者として、「大会ごとに、ひとつずつ順位を上げられていることに手応えを感じています。一人ひとりが13分の1の役割を果たして、気持ちを出して戦えています」と充実の体感を言葉にする。

「ただ、接戦を勝ち切れたのはよかったけど、どの試合も先に点をとられています。そこは次のバンクーバー大会までに修正したいですね。そして、私たちの目標は2028年のロサンゼルス(五輪)で金メダルをとること。その目標をブレイクスル―できるように一つずつ順位を上げて、次は4位に入りたいですね」と高い意識を覗かせた。

 梶木同様、チームの結束が好調の理由と話したのは堤ほの花。今回のメンバーの中で最多キャップ数を持つ人だ(今大会前までに30)。
「若手も頑張ってくれていて、みんなで一丸となって戦えていると思います。各大会で出た課題をそのままにせず、次(の合宿、大会)につなげられている。その結果、順位を上げていけていると思います」

 ベテランと言っていい経験値がある。しかし2023年のトゥールーズ大会ではチームから離れていたため、5位は初めての経験。「(この位置に立つには)大きな壁があるように感じていたので、それを超えられて素直に嬉しい」と笑顔になる。

 堤も東京、パリと五輪を経験している。27歳。次のロサンゼルスについては、「(あと)3年と考えると長くて実感がありません。1試合、1年、自分のできることをやり切っていくだけ。一戦一戦、これが最後と思ってやっています」と胸の内を明かす。

 以前はほんわかしていたが、いい年齢の重ね方をしている。2024年に故郷の佐賀で国民スポーツ大会(旧国体)が開催された際、選手宣誓をした。また、天皇・皇后両陛下との懇談の時間も設けられた。
 その時のことを振り返り「皇后陛下のお顔がすごく小さかったです!」と話す無邪気さはそのまま、ベテランらしく言うべきことを言う回数も増えている。

 今回初めてセブンズ代表キャップを得た庵奥里愛(15人制代表キャップは9ある)は、多くの出場機会を与えられ、期待に応えた。
「初めてのセブンズ代表キャップ、さらにワールドシリーズの舞台に緊張しましたが、チーム全員があたたかい雰囲気で迎えてくれて自分らしいプレーができたと思います」
 自身のパフォーマンスについても、「海外のセブンズ選手相手にどこまで通用するか分からないままプレーしたのですが手応えはつかめました。しっかり体を当てて、判断するというところはできました」とした。

 反省点もある。
「大きくてスピードある選手に食い込まれるところもあった。もっと前に出られるタックルをしないといけないですね」と話し、今後につなげるつもりだ。

 兼松HCは選手起用に独自のスタイルを持っている。13人が13分の1の役割を果たしやすいようにするためだ。
 選手たちのコンディション、強みを踏まえて、対戦相手によってメンバーを変える。例えば前半は運動量の多い選手でチームに勢いを生み、相手を疲れさせる。後半は疲れた相手に、小さくてもアジリティで勝負できる選手をぶつける。

 前半の失トライ、失点の限度を伝えるのも選手たちの意識を高めることにつながる。どの時間帯が特に重要なのかを全員で共有することも効果を生む。
 その上で枠にはめることはない。

 パリ五輪終了後、HCに就任。「固定観念を排除する」から始めた。
「こう戦うんだ、という軸はありますが、そうしなくてはいけないではなくて、一人ひとりが自分の強みを出してピッチ上でチャレンジしてほしい」
 そのとき一人でやるのではなく、その判断を尊重し、2、3人で連動して動くことが大事だ。そして、もっとこうすればよくなるなど、自分たちでアイデアを出していけるチームにしたい。
「年齢、経験関係なく、お互いを尊重できるチーム」を目指す。

5位決定戦で決勝トライを決めた谷山三菜子。©︎JRFU


 兼松HCはユースアカデミーを指導している時から、日本のラグビーを実践する上で、カテゴリーに関係なく必要なものがあると考えてきた。「7つのH」だ。
「はじめから。低く。激しく。はやく(スピード)。(判断やコールなどを)はやく。ひたむきに。ハートフルに。うまくいかないときは原点に戻る。この7つのうち何が足りないのか、と考える」

 パース大会でも、それぞれの選手が役割を果たしたから好成績を残せた。5位決定戦の対アメリカもそうだった。

 前半を5-15とリードされた、その試合。後半から出場した岡元涼葉は2トライを挙げて勝利に貢献した。
 後半1分過ぎだった。岡元はラインアウトで相手が並ぶ前に投げ込まれたボールを受けて独走。巧みなステップでディフェンダーを翻弄してトライラインを越えた。

「練習からやっているプレーでした。あの時も、あ、(スペースが)空いているな、と思ったら永田花菜さんが名前を呼んでくれた。いまだ、と思って走りました」
 岡元は2分50秒過ぎにもトライを奪う。「自分のランやプレーで流れを変えることを目標にしていたので、役割を果たせてよかったです」と目尻を下げた。

 東京山九フェニックスでプレーしている東京学芸大の4年生。同大学のラグビー部にも所属し、男子部員との練習でスキルアップ、パワーアップも図る。
 多忙な日々を送っている。1月5日にはOTOWAカップの試合にフェニックスのCTBとして出場し、翌日は全国地区対抗大学大会のため名古屋にいた。同大会での優勝を大学ラグビー部の仲間と喜び、1月12日からは女子セブンズ・デベロップメント・スコッドの鹿児島合宿へ。そして、パースでの活躍と飛び回った。
「忙しいけど、充実していて楽しいです」

 選手もスタッフも、全員が力を出し切ったパース大会。2日目にニュージーランド、オーストラリアに大敗した時、実はチームの空気は重かった。
 それを感じ取った兼松HCは、「初日のアイルランド、ブラジルに勝って2勝したから、5位決定戦に行ける。それはすごいこと。意味がある2日間だった。負けた試合の中にも、通用したことはあった」と選手たちに話した。

 できなかったことより、やれたことの肯定が選手たちのエナジーをもう一度引き出したのだろう。だから最終日も全員がそれぞれの立場で躍動できた。アメリカ戦で、僅かな残り時間に投入された谷山三菜子が決勝トライを奪ったのも、求められていることが分かってピッチに出たからだ。

 セブンズは1日に何試合もテストマッチを経験できる競技と言われる。1シリーズの数日間で得たものが、選手とチームを確実に高みに導いている。

兼松由香ヘッドコーチ。女子セブンズ日本代表キャップ28。リオ五輪に出場している。(撮影/松本かおり)





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