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惜しい。それだけに悔しい。
実際にプレーした選手たちも、ヘッドコーチ、見守った人々も、そう声を揃え、昨季までディビジョン1で戦ったチームを追い詰めたのだから、手応えもつかめたと言った。
1月25日、日本製鉄釜石シーウェイブスは福島・いわきでおこなわれたリーグワン(ディビジョン2)の花園近鉄ライナーズ戦に30-33で敗れた。
しかし、よく前に出るディフェンス、ボールを動かす攻撃スタイルを前面に出して後半35分までリードする展開を見せ、ファンを沸かせた。
新しく加入したSOミッチェル・ハントのゲームコントロールは、チーム全体を同じ方向に向かせた。
1勝3敗と負けが先行しているものの、今季のチームが見せるパフォーマンスは確実に高まっている。
そして、チームに勢いを与える動きをたびたび出していたのがNO8のサム・ヘンウッドだ。
今季で5シーズン目。バイスキャプテンを務め、開幕からの全4戦にすべて先発し、どの試合も80分間プレーしている。
ライナーズ戦でも躍動した。前半14分にミッチェルが奪ったトライは、この人のディフェンス突破、ロングゲインがきっかけだった。
ラインアウトから出たボールを受けると、群がる相手ディフェンダー3、4人を振りほどいて40メートル近く走った。
その直前には相手チームのゲームメーカー、SOクウェイド・クーパーに強烈なタックルを見舞った。結果、陣地を渡さなかったことがトライを呼んだ。
ヘンウッドは1991年3月28日生まれの33歳。前シーズンも11試合に出場(入替戦2試合含む)してチームに貢献した。
トップリーグ2020はNECグリーンロケッツ(当時)でプレーし、翌シーズンから釜石の地に暮らしている。
ライナーズ戦を振り返り、「接戦でした。勝てる試合だった」と言った。しかし、「大事なところでやり切れなかった」と悔やむ。
自身のプレーについては「満足してはいるが、まだ良くなれるし、結果がついてこなかったこともあるから考えがまとまらない」と頭を振る。
チームマン。自分自身のことより仲間たちと残す結果が重要だ。
今季4戦で1勝しかできていないが、確実にチーム力が高まっていることは感じている。その力を勝利に結びつけたい。
リーグワン1年目、ライナーズに12-98と負けたことを覚えている。あの頃と比べたら得点差は大きく縮まった。実力も近づいていることは、ピッチ上の体感でも分かる。
「私自身5年目のシーズンを戦っていますが、同じようにこのチームで長くプレーする選手も増えて、互いを知り、それぞれのプレーを分かってきたことが大きいと思います」
今季は敗れた試合も接戦が増えている。
本人も釜石という街、シーウェイブスを愛している。
「ここにきたばかりの頃は負けてばかりだった気がします。でも、いまは違う。チームの成長を見ることができているのも楽しみのひとつです」
「釜石はもう第二の故郷」と言う。
オポティキというニュージーランド、北島の海沿いの街で生まれた。マオリの文化が根付く場所。
「釜石と似たスモールタウンです。そうだから、釜石にいると故郷にいるように感じます」と表情が和らぐ。
マオリ・オールブラックスに選ばれたこともある。
ナショナリティはニュージーランド。マオリの誇りを胸に生きるキウイは、愉快なラグビーマンで旅人でもある。
2016年にチーフスでスーパーラグビーにデビューする前は、NZ国内の州代表選手権を戦うオークランドやカウンティーズ・マヌカウに所属し、シーズンオフにはかつての仲間が指導するポルトガルのクラブでプレーした経験もある。
世界各地でプレーすることの魅力を、「その土地の人やカルチャーと触れ合えることが楽しい」と話す。
「ポルトガルではリスボンのクラブでプレーしました。プレーのレベル自体はまだまだだけど、独特の文化と優しい人たち。居心地が良かった。生涯の友人もできたし、妻とも出会いました」
釜石の生活も最高に気に入っている。
「日本の人たちは本当に礼儀正しいし、優しいですね。このクラブでプレーをし始めた頃、負けてばかりでした。それでもファンは、応援し続けてくれた。信じられないくらい嬉しかった」
ポルトガルでプレーを続けていたら、いま頃ワールドカップにも出ていたかも。
そう問いかけると、「日本でも(このままいけば)その可能性はありますね」と返す。
仲間と、できるだけ日本語でコミュニケーションを取ろうとするナイスガイ。
この国で楽しむ時間はまだまだある。勝利を重ね、故郷のような海沿いの街に住む人をもっと笑顔にしたい。