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冷たい風が吹いた。青空と緑に囲まれたスタジアムは芝も最高。1月25日、ハワイアンズスタジアムいわきを1092人のファンが訪れた。
しかし、それ以上の数のファンがいるように感じる80分だった。
日本製鉄釜石シーウェイブスと花園近鉄ライナーズ、両チームのファンが沸く試合展開だった。
最終的に33-30のスコアで決着がついた試合は、ライナーズが今季初勝利を得ることになった。
ディビジョン1から降格した下部ディビジョンの舞台で、開幕からの3戦で2敗1分けと勝利がなかったライナーズは、この日も危なっかしい試合展開だった。
前半10分、FBセミシ・マシレワが密集横を走り、トライラインを越えて先行したものの、ハーフタイムを14-18で迎えた。
後半に入っても2トライを許し、残り20分を切ったところで9点のビハインドを負った(21-30)。
個々の力では上回っていたように見えたが、SOミッチェル・ハントがスキを見つけては仕掛け、粘り強く守り、一体感のあったシーウェイブスに押される時間が長かった。
しかし最終的に逆転できたのは、チームが掲げるスローガン『All Attack』を不器用ながらも貫けたからだ。
最後の20分弱、ライナーズは自分たちが相手を上回る力強さで逆転を引き寄せた。
後半27分、連続してスクラムで反則を誘う。敵陣に入り込み、ラインアウト後のモールを押し切った(FL宮下大輝が抑える)。
26-30で迎えた後半36分も、相手反則から攻め込んだ後にモールを押し切る。ゴールキックも決めて33-30とスコアをひっくり返した。
向井昭吾ヘッドコーチは今季勝利に「最後に勝ったことについては嬉しく思います。一瞬ですが喜びます」と話したものの、目指しているものとは差があるとした。
「まだまだ改善の余地がある内容でした。流れをつかんだときには非常にいいトライをするのですが、守勢に回ると守り切れませんでした」
はやい時間にメンバーを入れ替えたのは、攻めて勝つ姿勢を示すものだったと話した。
ゲームキャプテンを務めたSH河村謙尚は「釜石のプレッシャーを受けてしまったところがあった」と反省しながらも、「自分もそうですが、今季初めて試合に出る選手(FLミッチェル・ブラウン、CTBステイリン パトリック、WTB片岡涼亮、17番の井上優士)や、ライナーズで初キャップ(23番のティモ・スフィア)といった選手がエナジーを出していけた結果が勝ちにつながった」と戦いを振り返った。
また河村は、勝利に手が届かなかった間も「試合に出ている、出ていないに関係なく、全員がエナジーを持っていた」と言い、この先も一戦一戦に集中し、勝つことが自分たちのやっていくべきことと強い気持ちを示した。
2トライを奪い、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたFL宮下は、試合後、痛めた右足の靴を履かず、患部を冷やしながら取材場所に現れた。
80分ピッチに立ち続けて得た勝利に笑顔を見せ、「(個人表彰より)チームとして勝てて嬉しいですね。2つのトライとも、チームメートが作ってくれた。(自分は)ボールをおいただけ」と話した。
前半16分に挙げたトライは、フェーズを重ねたアタック後に左サイドでCTBトム・ヘンドリクソンからオフロードパスを受けて左中間に飛び込んだ。
2つ目、後半27分にはモールの最後尾でインゴールにボールを置いた。
「最初のトライはチャンスが外にあったので、コミュニケーションをとって、いいパスがもらえました。2つ目のは、課題だったモールで、FW全体で前に出られて良かった」
「相手どうこうでなく、自分たちがやってきたことをやりました。精度高くプレーし、ペナルティを減らすことを意識しました」という。
それでもインゴールに入られるシーンはあったが、直後のハドルでは「もっと正面からタックル。2人で挟んで、ダブル(タックルで)で押し返そう」と具体的な声が出ていたから試合中に修正できた。
宮下自身、今季は開幕からの全4試合に出場。ここ3試合は先発出場が続いている。
「自分はアタックが強みと思ってきましたが、外国人選手も含め、ハードにボールキャリーできる選手は多いので、ディフェンスやブレイクダウンでのプレーを突き詰めるようにしています。きょうは、そこをやれました」
昨季終了後のオフ、インナーマッスルを鍛えた。トレーニングに工夫を凝らした成果も見えている。
「チームに貢献したい。そのためにも試合に出続けたい」と意欲もある。
ディビジョン2の戦いは思った以上に厳しいと感じながらも、「絶対に1年で昇格する」決意にブレはない。
この日の今季初勝利も、今後の上昇を約束するものではない。しかし、なかなか勝てなかった接戦を勝ち切れて、チーム本来の武器である波に乗って全員で前に出る空気が生まれたら、結果は自然とついてくる予感はある。