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5年ぶりの高揚感だった。
九州電力キューデンヴォルテクスの齊藤剛希(ごうき)が1月18日に東京・AGFフィールドでおこなわれた日野レッドドルフィンズ戦(リーグワン ディビジョン2)に先発した。2020年1月19日(におこなわれたトップチャレンジのマツダ戦)以来の公式戦出場だった。
背番号14のジャージーで80分ピッチに立った。チームは30-25のスコアで逆転勝ちした。
31歳の小柄なランナーは試合後、「これまで怪我が続いていました。80分出たのも本当に久しぶりです。勝利に貢献できて良かった」と相好を崩した。
明大から九州電力に入社したのが2016年の春。今季が8年目のシーズンになる。
しかし、左右の膝の前十字靭帯を何度も断裂した。これまでの公式戦出場は9戦にとどまっていた(トップリーグカップは除く)。
怪我をしては手術、リハビリ、復帰しては怪我。そんなサイクルを繰り返した。
前シーズンの開幕前、プレシーズンマッチの東京サントリーサンゴリアス戦で、それまでとは違う側の膝を痛めたときには絶望した。
「調子が良かったのですが。そんな時の怪我でしたから、辞めようかな、という思いも頭をよぎりました」
しかし、周囲の声に励まされて顔を上げた。復活できたら自分本来の走りを見せられる。そう信じて復活を目指した。
そうやって今季開幕前にピッチに復帰し、この日の出場に漕ぎつけた。
試合メンバー入りを告げられた時は「武者震いしました」。
「チームに貢献する」と胸に強く誓って立った久しぶりのピッチ。齊藤はトライを取ることこそなかったが、勝利を引き寄せるパフォーマンスを見せた。
16-22で迎えた後半15分。相手キックを受けた味方からパスを受けて走った。
左サイドへ。多くのディフェンダーがいたが、「狭いスペースを抜いて走るのは自分の強み」だ。巧みに前進し、FBに入っていた加藤誠央にボールを渡す。
加藤は腰の強い走りでインゴールに入った。その直後のWTB萩原蓮のコンバージョンキックも決まり、23-22と逆転した。
そのシーンを解説する。
「事前に(チームのスカウティングもあり)ブラインドサイドにチャンスができやすいと分かっていました。誠央さんの姿が見えた。トライを取り切ってくれると信頼してパスをしました」
最終的にチームはもう1トライを追加して接戦を制したのだが、齊藤はディフェンスでも粘り強さを見せた。
30-22とリードしていた70分過ぎ、相手に自陣深く攻め込まれる。その局面で相手が短いパスを受けようとした瞬間、後走していた齊藤がうまく体を入れてボールを奪い返す。
「後半に入って、キックパスでトライを奪われていました。自分の動きも良くなかったので、(それ以後は)意識していました」
繰り返した「チームへ貢献したかった」の言葉を、高い集中力で現実のものとした。
明大では中村駿太(横浜キヤノンイーグルス)、松橋周平(リコーブラックラムズ東京)、田村熙(浦安D-Rocks)らと同期。リハビリ中、仲間の活躍をテレビで見るしかなかった。
悔しくて悶々としていた。
仕事先で、「またメンバーに選ばれなかったね」と声をかけられる。悪気がないのは分かっているけれど、どうしようもなく悔しくて、「絶対に復活してやる」と唇を噛んだのは一度や二度ではない。
練習やプレシーズンでの姿を見て、この日は「自信を持って送り出した」という今村友基ヘッドコーチは、齊藤のこの日のパフォーマンスを振り返り、「持ち味をしっかり出してくれました。ボールを持てばチームを勢い付けてくれるキャリーをし、ディフェンスではハードワークを続けてくれる選手。それを80分間やってくれた」と評価した。
ウォーカーアレックス拓也主将(NO8)も、「大きい怪我で苦しんでいる様子、リハビリで努力している姿を間近で見ていました。活躍は本当に嬉しいですね。そういった選手は、チームのエナジー、勢いを引き出してくれます。一人の選手として、キャプテンとして、それも嬉しく思います」と先輩の復活を喜んだ。
父・信泰さん、兄・玄樹さんも、九電ラグビー部出身。そんな環境で育ったため、チームが大事にしているものは、よく理解しているつもりだ。
「ひたむきにプレーし続ける。ディフェンスに強さとプライドを持つ。チームのそんなカルチャーは、今年のチームも大事にして戦っています」と言う。
父は今回の復活の日に活躍できるよう、宮崎県高千穂町の天岩戸(あまのいわと)神社まで足を運んでくれた。
ヴォルテクスのSOとして長く活躍した兄も今回の自分の出場が決まった後、「出るね、と多くの人から声をかけられたよ、と連絡をくれました」。
家族、仲間が喜んでいる姿を見ると、諦めなくて良かったとあらためて思う。
復活を目指していた雌伏の時間に、トップリーグはリーグワンとなった。初めて踏んだ新しくて華やかになった舞台。「ディビジョン1は憧れの舞台ですね」と言って続けた。
「チームは、そこを目指しています。みんなと一緒に、ディビジョン1に上がりたい。それに貢献することを、自分のラグビー人生のゴールにできたら嬉しいですね」
80分走り切って、膝がなんともないのが嬉しい。目標に向かって、前へ出続ける。