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歓喜、涙、そしてリスペクト。4連覇・帝京と敗れた早稲田、ピッチ上の実際、心の動き
4連覇を達成した帝京大の青木恵斗主将が、ベンチ外の仲間たちが待つスタンドの方へ駆ける。(撮影/松本かおり)

歓喜、涙、そしてリスペクト。4連覇・帝京と敗れた早稲田、ピッチ上の実際、心の動き

田村一博

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 60-7(6月16日)。
 14-38(8月18日)。
 17-48(11月3日)。
 そして年明けの1月13日は33-15となった。
 同じ顔合わせで7か月の間に、スコア、勝者がこれだけ変わるのだからラグビーは深い。

 1月13日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた全国大学選手権決勝は、帝京大が早大を33-15と破って4年連続の大学日本一となった。
 関東大学対抗戦では7トライと3トライで早大が完勝も、頂上決戦ではトライ数5対2と、真紅のジャージーが赤黒に快勝した。

帝京大・青木恵斗主将(左)と早大・佐藤健次主将(右)は桐蔭学園時代の同期。互いに、お互いの存在があったから高みに向かって進めたと認め合った。(撮影/松本かおり)


 帝京大は2か月前の対戦時から先発を7人変更し(ポジション変更も1人)、早大は先発メンバー全員が同じだった。
 ただ全国大学選手権に入ってからは、帝京大も準々決勝から準決勝の先発変更は1人だけ。準決勝と決勝は、1番と2番だけを変えて大一番に臨んだ。

 最終的な結末から推測するなら、FW(特にスクラム)とディフェンスの強化に特化して成長した帝京大が、固定メンバーの成熟を進めた早大を追い越したように見える。
 決勝は、帝京大FWの圧力が勝敗を引き寄せた。

 帝京大は前半5分と12分にトライを挙げて14点を先行した。その後2トライを返され、前半を14-12で終える。
 後半2分のPGで一時は14-15と逆転されるも、5分、27分、37分とトライを重ねて歓喜の時を迎えた。

 この日、帝京大の選手たちが秘めた闘志は、特にFL⑥青木恵斗主将のプレーから伝わってきた。
 コリジョンの局面で芯を食うヒットを見せて相手を何度も吹っとばし、豪快なボールキャリーで前へ出るシーンも数多くあった。
 先制トライも2つめのトライも、主将の動きが大きかった。

 青木がディフェンスを蹴散らしてチャンスを作り、最後はPR森山飛翔がインゴールに入ったのが前半5分。
 12分には、早大陣ゴール前のスクラムでの相手反則から仕掛けてトライラインに迫り、最後は背番号6がインゴールに入った。

 また、直接的なプレーでは青木主将の動きがトライに結びついたが、ファーストスクラムで帝京大がペナルティを奪ったことが、その後の展開に大きな影響を与えた。

 14点を先行された早大は、15分にラインアウトから攻め、CTB福島秀法のオフロードパスを受けたFB矢崎由高がインゴールに入った。
 24分にはボールを大きく動かしてオーバーラップ状態を作り、最後はタッチライン際で待つNO8鈴木風詩がインゴール左隅に飛び込んだ。

前半12分、帝京大・青木主将のトライ。(撮影/松本かおり)


 風下ながら2点ビハインド(帝京大14、早大12)でハーフタイムを迎えられたのは上出来だった。
 また、後半開始直後にPGで逆転。そのまま勢いを増すかとも思われた。

 そうならなかったのは、帝京大FWの前への推進力とディフェンスの圧力が早大本来のアタック力を出させなかったからだ。
 特にスクラムの優位性が帝京大に与える力は大きかった。

◆涙が止まらなかった早大・佐藤健次主将。


 この日、帝京大が奪った5トライのうち4トライはペナルティが起因(敵陣への侵入理由など)で、スクラムでの反則がきっかけとなったものが3つあった。
 早大のHO佐藤健次主将もファーストスクラムで反則を取られ、相手に勢いを与えたことを涙ながらに悔やみ、逆の判定だったらその後の展開が変わったかもしれないと話した。

 試合後の早大・大田尾竜彦監督は、「持てるものは全部出しました。結果は残念ですが、チームを作ってくれた佐藤健次以下 4 年生には本当に感謝しかありません。帝京大学が素晴らしかった」と、この日に合わせてチーム力をピークに持ってきた相手を称えた。

 ピッチ上の詳細については「申し訳ないですが、いまはまだ戦評はしたくありません」と言い、「去年の大敗からここまで立て直してくれた健次と4年生に感謝しかない」と繰り返し話した。

早大写真、左上から時計回りに。FB矢崎由高は1トライを奪ったものの思うように動けなかった。SO服部亮太は中盤で走るも、チームを勝利に導けず。FL田中勇成の低いタックル。CTB福島秀法はオフロードパスなどで活躍。(撮影/松本かおり)


「(きょうは)負けましたけど、ここまでの歩みの中で去年のウイークポイントや課題を克服しながらやってくれました。そこは本当に彼らの力だと思います」
 そして、「試合ですので(内容については)いろんなことがあるとは思いますが、帝京大が素晴らしかった」と、相手への称賛を繰り返し口にした。

 佐藤主将は、仲間やコーチ陣への思いを吐露した。
「コーチ陣を含め多くの方に支えられながら、この1年やってきました。最後は不甲斐ない結果でしたが、早稲田ラグビー部で主将をやれて幸せでした。この1年はラグビー人生の中でも、もっとも素晴らしい一年だったと思います。1 年生から 4 年生、早稲田の全員で優勝という結果をつかみたかったのですが帝京さんの方が強かった。次は誰がキャプテンになるか分かりませんが(後輩たちには)頑張ってほしいですね」

 ファーストスクラムも含め、敗戦の責任を一身に負っているようだった。
 帝京大の方が勝利への執念で上回っていたとし、「自分たちも勝ちたい気持ちがありましたが、(帝京大主将の青木)恵斗の方がチームをうまく引っ張れた。(チームは)主将以外は勝っていた」とベクトルを自分に向けた。

 そして、「大田尾監督のもとでラグビーをやれて幸せでした」と続け、最後の1年は監督を胴上げするつもりでいたがそれを実現できずに「申し訳ない気持ち」とした。

 スクラムについては、今季はヒットに注力してきたと話した。
 しかし決勝戦では「ヒットに出る段階までは自分たちが仕掛けられましたが、その後の重さで劣った。ヒット後に崩れてしまった」と体感を伝えた。
 最初にペナルティを取られた後も、パニックにならないように戦った。しかし、結果的にはスクラムの優劣が勝敗に直結した。

試合後、涙が止まらなかった早大・佐藤健次主将。(撮影/松本かおり)


◆自分の言葉でチームを牽引した帝京大・青木恵斗主将。


 4連覇に届いた帝京大の相馬朋和監督は、「今シーズンは本当にいろんなことがありました」と話し始めた。
「そのたびに強くなり、立ち上がるキャプテンを、チームが一丸となって追いかけていくシーズンでした。青木がチームを引っ張り、ここにたどり着いた素晴らしいシーズン。4年生が次のステージでさらに輝くことを祈りつつ、きょうは喜びに浸りたいと思います」

 シーズン中は1番、2番を背負ってきたPR平井半次郎と當眞蓮をベンチスタートにまわし、梅田海星、知念優来を先発で起用した理由については、「必ずしもリザーブにまわった2人が弱いわけではなくて、これまでのシーズンを通していろんな印象が(レフリーも含む)皆さんについていたと思います。メンバーを入れ替えることで、(先入観なく)まっさらな状態でレフリーにも見ていただきたいと思いました」とした。

「ヒットして組み合うことさえできれば自分たちの形になる」自信はあった。しかし、「今シーズン主要な試合では組み合うことなく、スクラムが終わっていた」という背景からの判断だ。
「どうやって組み合うかを考えて、最初の瞬間に自分たちが有利な状態であるようにする」ことに注力し、準備を重ねてきた。

 その点について青木主将は「誰が出てもスクラムの強さは変わらなかったと思う」と前置きして、「メンバーを変えることが正解なのかゲームが始まるまでわかりませんでしたが、決勝戦で帝京らしさを出せたことが嬉しかった」と言った。

「11月3日に早稲田大学に負けた(17-48)。その現実をチームとしてしっかり受け止め、一人ひとりが何が足りないかを考え、努力し続けた結果、きょうこうやって優勝することができました」

帝京大写真、左上から時計回りに。先制トライのPR森山飛翔に駆け寄る仲間たち。攻守にパンチ力があったLOカイサ・ダウナカマカマ。4Gを決めたCTB大町佳生。ディフェンスでも圧力をかけ続けた。(撮影/松本かおり)

 キャプテンはこの日、迷いのない表情でピッチに入った。
 起きた時から、ラグビーしてきていちばん気持ちいい朝だったという。
「すっきりしていました。最後の試合というプレッシャーもありましたが、純粋に大学ラグビーの最後を楽しみたいという気持ちがあったのでロッカールームでも笑顔でいられたし、いいウォームアップもできて、自分自身(試合を)心の底から楽しめました」

 準決勝で明大に快勝し、「このチームで日本一になれるという自信が出て、勝っても負けても最後、楽しもう」という心境になれたそうだ。

 今季はなかなかチームの調子が上がらなかった。その頃を、「公式戦で勝ち続けている中で、これ(ぐらい)で勝てるだろうという空気の中でプレーしていた」と回想する。
「勝つ前提のラグビーというか、これまでの勝ちパターン」を追い求めていた。

 悶々とした胸の内は、関東大学対抗戦で早大に負けてもなかなか変わらなかった。しかし、ひとりで悩むのではなく、全員が自分たちの問題としてくれた。
「なかなか変われず、どうしたらいいのか悩みました。(そんな時)みんなが支えてくれ、150人(の部員)みんながどうやったら変われるか考えてくれるようになってから、急ピッチでチームが成長しました」と仲間に感謝する。

 実際のピッチの上では、「ボールを持つ時間を増やしたり、コンテストキックの精度を上げたり、一つひとつのプレーを丁寧にやることでチームとしてラグビーのレベルが上がっていった」ように感じた。

 14点を先行した決勝戦の前半終盤、2トライを返されて2点差に迫られたシーン、主将は、応援席の控え部員たちの方を見た。
 ハドルで「引きずっても何も生まれない。自分たちが思うラグビーをしよう」と話したあとだった。
「スタンドのみんなの応援を聞いて、チームとして(士気が)落ちそうなときに力をもらえました」。

4連覇の帝京大は、これで通算13回目の大学日本一。(撮影/松本かおり)


 相馬監督は青木主将のこの1年の成長を愛でた。
 公式戦初戦の記者会見、自分の隣に、どう話し出せばいいか分からないリーダーがいたことを覚えている。
「そこからのスタートでした。しかしいま、(青木は)自分の言葉で考えを話せます。最初は自分の思いを言語化するのも難しかったのに、言葉が出てくるようになり、より深く考えるようになった。もともとフィールドでは圧倒的な力を持っていました。(その変化によって)仲間がより(主将の考えを)理解して、チームが目指すところへ進むようになったと思います」

 青木主将も「去年まではパフォーマンスでチームに勢いをつけることを考えていました。(主将になっても言葉で思いを)どう伝えていいのか分かりませんでした」と認める。
 そんな状態から、「誰かの真似でなく、思うことをしっかり伝えようと考えるようになって」変われた。
 そこからチームにも変化が出た。

 大学ラストゲームの試合前のロッカールームで、仲間たちに「勝っても負けても最後。楽しもう、思い切ってラグビーをしよう」とだけ言った。
 飾ることなく本心だけを伝えたら、みんなが一緒に躍動してくれたことは一生忘れない。
 これからの人生の支えになることを、ほしかったタイトルとともに手に入れた1年だった。

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