logo
イーグルスが今季初勝利。移籍後初先発のFL古川聖人もハードに、黙々と貢献
FL古川聖人が得意とするのは相手との接触プレー。ジャッカルのタイミングを見計らって、ブレイクダウンに頭を入れる。(撮影/松本かおり)
2025.01.05
CHECK IT OUT

イーグルスが今季初勝利。移籍後初先発のFL古川聖人もハードに、黙々と貢献

田村一博

 今季初勝利は、ホストエリアから遠く離れた福島の地だった。
 1月4日、横浜キヤノンイーグルスが浦安D-Rocks相手に40-12と快勝した。6トライを奪い、ボーナスポイントも獲得した。

 福島県広野町にあるJヴィレッジが戦いの舞台となった、この試合。当日朝は、前日の夜に降った雪がグラウンドをうっすらと覆っていた。
 しかし試合開始の正午、空は青く、芝は緑。好コンディションが用意された。

 イーグルスは前半を21-7とリードした。この日の赤いジャージーは、はじめから積極的に攻めた。
 先制点も、PK機にSHファフ・デクラークがタップキックから前に出て、全員が続く。最後は右のアウトサイドを攻略し、WTB石田吉平がスペースを走り切った。

 21分には右ラインアウトからのアタックをFB小倉順平が仕留め、ハーフタイム直前は、ラインアウトからFWがトライラインに迫った後、最後はSO田村優が軽やかに防御間を抜き去った。

 後半最初のトライを相手に許して21-12。そのままのスコアで残り20分を切る時間帯まで進むも、そこから地力の差が出た。
 27分にSO田村、FB小倉のコンビでトライを追加すると、さらに2トライを追加して得点は40に達した。

 沢木敬介監督は「チームのエナジーとパッションが伝わる試合だった」と思うと話し、連敗スタートという重苦しい空気を打ち破った選手たちの躍動を評価した。

 CTB梶村祐介主将も「いい準備がいい結果につながった」と話し、アタッキングマインドの強さを示した点について、PK時に速攻を仕掛け続けたことを挙げた。
「自分たちの方が走り勝てる自信があった」からどんどん攻め、相手の体力を削っていった。

179センチの古川。「サイズに恵まれない者にも、強さを発揮できる高さがある」。(撮影/松本かおり)


 開幕から3戦目での初勝利に、イーグルスの選手たちは誰もが穏やかな表情をしていた。
 この日背番号7を背負った古川聖人(まさと)にとっても、イーグルスに来て初めて、笑顔でフルタイムを迎えられる試合となった。

 過去2戦はベンチスタートだった。本人は「先発だからとかでなく、イーグルスの一員として勝利できたことが嬉しい」と話し、「自分の役割は遂行できたし、強みであるタックル、ジャッカルも出せたと思います」と続けた。
 シーズンは長い。この先も、「自分に与えられた仕事をまっとうしていきたい」と、走り続ける思いを言葉にした。

 トヨタヴェルブリッツで5シーズンを過ごした後、今季から活躍の場をイーグルスに移した28歳。179センチ、94キロとバックローとしてはビッグサイズではないが、ブレイクダウンの仕事人として評価は高い。

 この日も、外国出身選手のハードなボールキャリーに低く刺さり、ブレイクダウンに頭を突っ込み続けた。
 ボールの近くに、いつも姿あり。自分らしいプレーで、80分間ピッチに立った。

 試合前日、初先発について「イーグルスの7番として試合に出られるのは光栄」と話した。
 しかし、「チームが変わった状況でも必要としてもらえて、自分のこだわっているポジションで試合に出られるのは嬉しいですが、やることは変わりません」と平常心も強調した。

 経験豊富。起用法にアジャストできるのも強み。「試合の途中から出る場合は、ベンチから状況を見た上で、その時に必要なプレーをします。先発ならチームにモメンタムを与えることが求められる。ゲームを作ることが重要」と明確だ。

 職人気質は自分の存在価値を、「オープンサイドフランカーとして、ワークレート高くプレーし、タックル、ジャッカルなどの局面で、日本人の7番にしかできない泥臭いプレーを求められている。そこは、自分の強みと合っている」と話すところからも強く感じられる。

 開幕からの2連敗について、「相手というよりは、自分たちのミスやイーグルスのラグビーのスタンダードでないところが出た」とレビューし、「自分たちにベクトルを向けて練習してきた」と話した。
「負けて学ぶことはありますが、負けっぱなしでは意味がない。こだわっているところを出し切る」と覚悟を決めてD-Rocks戦に挑んだ。

この日、6番でプレーしたビリー・ハーモンもイーグルスの新戦力。マオリ・オールブラックス、元ハイランダーズの実力者は、この日も活躍した。(撮影/松本かおり)


 キャリアを重ねる中で、熟練の技を身につけてきた。得意とするタックルやジャッカルへのアプローチにも変化がある。
「タックルに関しては、昔は、気持ち(重視)で、低くいけばいいと思っていましたが、いまは、よりスキルを使っています。サイズがない選手でも、相手に強く当たれる高さがある。そこをスキルとして出すことを、トヨタ時代にフーパー(元オーストラリア代表主将のマイケル・フーパー)から教わりました」

 ジャッカルもがむしゃらが正解ではない。相手より先に、は前提。その上で、「イメージを持ち、タイミングを見計らって仕掛ける」。ペナルティしないことは何より大事。
 年齢を重ね、よりスキルフルに進化している。

 イーグルスに加わってあらためて感じているのは、意思疎通の重要性だ。「監督が日本人だと、コミュニケーションがとりやすいし、イメージが直接伝わってくる。どういったラグビーをしたくて、自分に何が求められているか。詳細が詰まった状態で伝えられるので理解しやすい」と話す。

 その上で、自分への期待を感じるから意気に感じる。
「自分がこだわっているポジションに対し、7番として必要としてくれたチームです。その期待に応えたいし、感謝しますし、恩返ししたい」
 チームが目指しているところを理解し、「自分の持っているものを出し切って優勝に貢献したいですね」と力強い。

 同じ7番には、第2節のコベルコ神戸スティーラーズ戦でイーグルスの生え抜き選手として初めて100キャップを達成した嶋田直人(33歳)もいる。
 ふたりは立命館大学の先輩後輩。レベルの高い両者の競い合いと協働が、少し遅れて始まったチームの加速を支える。

「体を張ったプレーで、仲間、ファン、コーチ陣の信頼を得たい」と古川。鞘ヶ谷ラグビースクール→東福岡→立命館大と成長し、ヴェルブリッツを経て、今季からイーグルスの28歳。日本代表キャップ3。(撮影/松本かおり)


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら