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前シーズン、28-65と大敗した相手に雪辱を果たした。
2025年1月2日に国立競技場でおこなわれた全国大学選手権準決勝で早大が京産大に31-19と勝利し、1月13日、秩父宮ラグビー場でおこなわれるファイナルに進出した。
前大会での3回戦敗退から374日、その悔しさを忘れたことはなかった。HO佐藤健次主将は試合後、「勝ててよかった。去年(前シーズン)は京産大に負け、4年生が引退しました。リベンジするのは、自分の中の(今季の)ターゲットのひとつでした」と話した。
前半に4トライを集めて26-0。高い集中力で先に主導権を握っての快勝。後半に入って31-0とした後、3トライを許したことについて主将は、試合終盤を振り返り、「攻めるマインドが薄れ、受けに回ってしまった」と反省し、決勝戦へ向け、「試合中のコミュニケーションをもっと高めていかないといけない」とした。
大田尾竜彦監督も後半の乱れについては修正が必要と話すも、「前半から攻め込まれる場面も多かったのですが、規律高くプレーできた。スクラムで反則せず組み勝ってくれたのも、ディフェンスからボールを取り返したあとの(全体の)リアクションも良かった」と選手たちのパフォーマンスを評価した。
大敗で終えた前シーズン後、首脳陣と部員のコミュニケーションをより深くするなどの変化を経て、覇権奪取まであと1勝とした早大。
今回の京産大戦では佐藤主将をはじめとしたフロントローや、SO服部亮太、FB矢崎由高など、キーマンたちが活躍した。その中で、指揮官がMVP級の働きと愛でた選手がWTBの池本晴人だった。
183センチ、90キロと大型の2年生は、この試合の後半11分にトライを奪っただけでなく、要所でよく働いた。
先制トライを呼ぶ走り、強力なランの相手留学生を止めるハードタックルのほか、キックへの対応力も高かった。
前半7分にLO栗田文介が挙げたトライはラインアウト後。スローワーのHO佐藤主将がパスアウトのボールを受け、走った内側に池本が入った。背番号11がトライライン近くまで走った後に背番号5がインゴールに入った。
「用意していたオプションの中のひとつでした。練習から何度も合わせていたプレー。京産大の(防御の)出方もわかっていたので、やってきた通りにできた」
自らのトライについて、「(FB矢崎)由高がうまくオフロードしてくれたので、僕は置くだけでよかった」と振り返る池本は、自分やチームがうまく戦えたのは、試合に出られない選手たちのサポートがあったからと強調した。
「急に逆目を攻めてくるサインなど、京産大がやってくることを練習で再現してくれました。4年生が、一人ひとりの動きの特徴を分析したものも伝えてくれた」
そんな準備もあったから、強い留学生相手に、低く、芯に入るタックルもできた。
ハイパントへのポジショニング、体の入れ方も良く、うまく対応できたのも、練習で繰り返しキックを受けてきたからだ。
「4年生の清水翔大さんが、(京産大SH土永旭と同じように)左足からのキックを何度も蹴ってくれました。(チーム)練習後もお願いして蹴ってもらいました」
「感謝です」の言葉に思いがこもっていた。
「打倒・京産大」を強く誓って戦った、この日の早大。池本も、その思いを胸に挑んだ。
昨シーズン、チームが大阪の地で散った時の試合はメンバー外。大量失点を喫するシーンは、上井草で、テレビを通して見た。その試合には、3学年上の兄・大喜が5番のジャージーを着て出場していた。
結局、その試合に敗れた兄は学生ラグビーを引退した。そんな大事な一戦を、自分はテレビで見ることしかできなかった。もどかしかった。
「そこに自分がいない、そして、何もできない悔しさ。それが今シーズンのスタートでした」と話す。
Aチームへ絶対に這い上がる。
そう誓って臨んだ新チームでの日々は、睡眠時間を十分に取るなど、私生活もラグビー第一の意識で過ごした。
その成果は春シーズンから出た。関東大学春季交流大会から出場機会を得て、15番のジャージーを着た。
「由高が(ジャパンから)戻ってきたらウラ(FBの控え)かな、と思っていたらWTBと言われ驚きました」と、秋になってからの起用法は、本人にとっては意外だった。
父・信正さんも早大ラグビー部出身でFL。LOの兄も含め、FWの体格を継いでいるからサイズには恵まれている。
大田尾監督からもフィジカル面の強さを生かすことを期待され、バックスリーにもかかわらず、「タックルや強いプレーを心がけてプレーしてほしいと言われています」。
浦安ラグビースクールでタグラグビーに取り組み、ハンドリングを高め、中学時代はワセダクラブでSO。早実でもSO、FBでプレーしてきただけに、「WTBは違和感しかない」けれど、「試合に出られるならどこでもいい」と、監督にも意志と意欲を伝えている。
準決勝の京産大戦後の記者会見、前述のように大田尾監督が池本のパフォーマンスを高く評価していたと聞くと、「ようやくチームの一員になれた気がします。周りはスター選手ばかりなので」とおどけた。
続けて、「自分は運動神経がいいわけでもない」と、本音を吐露した。
「だから、できることは限られています。やれることをやるだけ。WTBなのでトライは取れたらいいのでしょうが、チームの勝ちにつながるプレーを常に心がけてきました」
関東大学対抗戦開幕以来、全国大学選手権準決勝まで今季の全試合(9試合)に11番で先発し、そのすべの試合で80分ピッチに立ってきた。
「フルで出ているのは、『お前はスターじゃない。由高、服部は大事だから(途中で)代えるけど、お前は怪我がない限り出といて』という意味だと理解しています」と、ここでも明るく周囲を笑わせた。
ただ、これだけ試合に出続けてきても本心は、「いまでも試合でダメだったら(メンバーから)落とされる、に変わりはありません。日々、部内争いが続いています」。
なんとしても帝京大との決勝戦も最後までピッチに立ち、日本一になった時にだけ歌うことが許される『荒ぶる』の輪の中に加わりたい。