2019年の創部から6年目。また新しい歴史を作った。
花園初出場は2021年(3年目)。その翌年には聖地初勝利も挙げた。
そして今大会で2勝し、正月を大阪で迎えた。
2025年1月1日の3回戦でAシードの大阪桐蔭に0-69と完敗するも、倉敷高校ラグビー部(岡山)の歴史にまた、3回戦進出という誇らしい足跡が刻まれた。
戦いを終えてゲームキャプテンを務めたSHの若狭正和(3年)は、涙を浮かべていた。しかし、下は向かなかった。
憧れの第1グラウンドで、Aシードの強豪校と戦った。「誇らしかった」と正直な気持ちを口にした。
「自分たちがやってきたことがあります。その中でも、出せたこと、出せなかったことがありました。前半に点差を離されましたが、後半は、声を出そう、前へ出よう、思い切り戦おう、と言ってプレーしました」
その切り替えはスコアにも表れた。
前半は7トライを奪われたが、後半は4トライ。攻め込んだシーンこそあったもののトライラインを越えられず、完封負けには違いない。
しかし、後半の抵抗が新チームのさらなる成長につながる。
1回戦で九州学院を29-12のスコアで倒し、2回戦で65-7と近大和歌山に大勝した今大会。チームは、一戦ごとに戦う内容も高めた。
九州学院戦はエリアをうまく取れず前半は8-7。後半途中まで僅差の展開となった。
その反省を生かした近大和歌山戦は地域を意識して戦った。若狭は「自分たちにとって危険ではないエリアで戦ったので心に余裕を持って戦えた。それが結果に結びついた」と快勝の理由を話した。
自分たちのパフォーマンスについて的確にレビューできる聡明さ。そこを買われてゲームキャプテンを任されている3年生は、高校ラグビーを終えてすぐ、これまで以上に受験勉強に全力を注ぐ。
大学入学共通テストは1月18日、19日に迫っている。大会期間中も朝や練習時間の合間に机に向かっていた。
若狭は玉島西中出身。地元・倉敷ラグビースクールで、このスポーツを始めた。
県外から多くの選手たちが進学してくる同校。大阪桐蔭戦の先発15人の中で、地元・岡山の出身者は若狭だけだった。
中学時代から学業の成績が良かった。地元の公立校、玉島高校へ進むことも頭にあったものの、梅本勝監督にラグビーでも勉強でも全力を尽くせる環境を整える、人間教育も、と熱を伝えられ、倉敷高校で文武両道を貫く決心をした。
特進コースに学ぶ。同校ラグビー部では、兵庫・灘中出身で京大理学部進学を目指すCTB宮崎凜がたびたびメディアにも取り上げられてきたが、若狭も負けていない。
千葉大国際教養学部への進学を志す。
毎日午前3時に起床し、朝練が始まる時間まで勉強に集中する生活を送ってきた。
部には尊敬できる前年の先輩たちより、1分刻みでさらに早起きして勉強に取り組む流れがある。その法則に従えば、午前2時50分台の起床となるはずだった。
しかし若狭は、「その時間帯の数分は大きい。3時まで寝て、そのぶん、もっと集中して勉強する」判断をした。
京大志望の宮崎とは、学内での成績で1番、2番の座を常に2人で争ってきた仲だ。
地元出身だけに実家から通うこともできたが、「寮には県外から来たいろんな仲間がいる。人との出会いは自分のためになる」と判断し、あえて寮生活の中で自分を律した。
ラグビーと勉強だけでなく、監督の言うとおり、人としての成長も感じられる3年間を過ごした。
千葉大進学を志すのは、ずっと岡山、倉敷で暮らしてきたから、「他県に出ていろんな世界を知ってみたい」から。大学として留学に力を入れているところに惹かれた。
国際教養学部を目指すのは世界を視野に入れた活動をしていきたいからだ。梅本監督はみんなに、海外でも活躍できる人間になれと、くり返し言ってくれた。
「いろんなところへ行き、知って、自分にできることを探していきたい。ラグビー、倉敷で学んだことを発信していけたら」と将来に目を向ける。
地元名産のデニムをモチーフにしたジャージーを着て、ラグビーを通し、人々に感動を与えてきた。「想像していた以上のものを得られた3年間でした」と自信を持って言える。
大海へ船を漕ぎ出す準備はできた。