2024年12月27日、花園ラグビー場第Ⅲグラウンドの第2試合には、大勢の観客が足を運んだ。
京都工学院が、前身の伏見工時代の2015年度以来、9年ぶりに晴れ舞台に戻ってきたからだ。
同校は、現校名初の花園での試合に112-0と大勝した。前後半とも9トライずつ。多くの局面で上回り、相手を終始寄せ付けなかった。
敗れた聖光学院(福島)は、グラウンドを取り囲んだ多くのファンが作る独特な空気にも飲まれたかもしれない。
常に強豪校に揉まれる環境にある京都工学院のスキル、パワー、スピードはレベルが高く、その差も強く感じたようだ。
1年生ながら4番のジャージーを着て先発したアニセ マウシオは、「スキルもそうですが、フィジカルの強さがまったく違いました。そこをもっと頑張らないといけない」と体感を口にした。
「ラックでもタックルでも、接点で負けることが多かった」と振り返ったルーキーは、「相手は攻守の切り替えがはやく、そこでも負けました」。
この先、反応力も磨いていくと話した。まだ2年ある。
大敗、そして大量失点は悔しい。
ただ、なんの抵抗もしなかったわけではない。「いいディフェンスをできたシーンもあった。そこに力を入れてきたので、やってきたことを出せたのはよかった」と笑顔を見せた。
父は東芝ブレイブルーパス東京に所属するアニセ サムエラ。198センチ、118キロの体躯を誇る38歳のベテランだ。フィジー生まれ。日本代表キャップ12を持つ。
日野自動車(現・日野レッドドルフィンズ)、横浜キヤノンイーグルス、静岡ブルーレヴズにも在籍し、日本ラグビーを深く知る。
そんな偉大な父を持つ『シオ』(愛称)はフィジーのスバで生まれ、1歳になる前に日本へ。それ以降、東京で育った。
多摩ラグビースクール、多摩R&Bジュニアラグビークラブで楕円球を追った。
八王子市立別所中卒業後、聖光学院を進学先に選んだのは、イーグルスで父とともにプレーしていた宇佐美和彦先生が2023年の春にコーチに就任したからだ。
「先生はFWの理論に詳しく、世界を知る人です。その人からラグビーを教わりたかった。知識量も多く、いろんな場面への対応の仕方も知っている。何を質問してもすぐに答が返ってきます」
同コーチを含め、いろんな人に刺激を受けて成長する。
今回の京都工学院戦前には、父からもアドバイスをもらった。
「自分たちを(必要以上に)下に見ることなく、しっかり力を出して。強気でいけ。と言われました」
細かいことは言わない。強い気持ちで、と勇気を持たせてくれる。勝ち負けを気にするより重要なのは、積み重ねてきたことを出し切るためのマインドセットだ。
京都工学院戦の中で想像していた以上のプレッシャーを受け、気づいたことがある。
「これまで、福島の中だけ(の基準)で考えていたな、と。相手のやっているのは、自分たちが思っているラグビーと大きく違っていた。価値観が変わった」
やることも変えなければいけない。そのための第一歩がフィジカルの強化。そこから始めないと近づけないと思った。
「そこを強化して、来年また、ここに戻ってきたいと思います」
初めて親元を離れての寮生活を、「家では親がやってくれていたこともしないといけなくて大変なところもありますが、グラウンドの外でもチームメートと関われて楽しい」と話す。
178センチ、103キロ。高校入学後、身長は3センチ伸びたけれど、父ほどのビッグサイズになることはなさそうだ。
コーチからの進言もあり、新チームになってからはプロップに挑戦する予定。
「父と同じポジションは自分にとってプレッシャーにもなるけど、励みにもなっていました。来年からはプロップをやって、近場、近場で勝負し、前に出られるようなタイプの選手になりたいと思っています」
今回が6年ぶり2回目の出場だった聖光学院は、まだ花園で勝利をつかんだことはない。
福島の冬は寒い。けれど、仲間との日々は充実している。あと2年のうちに花を咲かせたい。
「自分たちが(勝って)歴史を変えたい」