信頼できる人、気の合う仲間と過ごした時間だから濃密な3年間だった。
林香凜(はやし・こうりん)の高校ラグビーは、全国高校ラグビー大会最多出場回数(72回)を誇る名門・秋田工を追い詰めるも敗れ、終わった。
12月27日に開幕した『花園』の初日、キャプテンの林が率いる高川学園(山口)は29-35のスコアで涙をのんだ。
ただ、その試合内容は立派だった。
試合開始直後はFWに強いボールキャリアーがいる相手に接点で前に出られ、3連続トライを許す。
前半12分までに0-21と引き離される展開となってしまった。
しかし、時間の経過とともに落ち着いた高川学園は、やがて反撃に転じた。
15分のトライは、敵陣ゴール前のラインアウトから。最後尾でスローイングを受けたFWは、タテに走り込んだCTB大嶋惺楽にショートパスを渡す。背番号13がインゴールに駆け込んだ。
7-21とした高川学園は、20分にトライ、ゴールを許して7-28とされたが、28分、30分と5点ずつを刻み、17-28として前半を終えた。
ショートパントからチェイサーの反応がよく、挙げたもの。フェイズを重ねて全員で奪ったトライもあった。
後半に入っても勢いは続いた。8分に再びCTB大嶋がインゴールに入り、24-28と4点差に迫った。
そして12分にはターンオーバーから切り返し、WTB山下仁大が走り切る。ついに29-28とスコアをひっくり返した。
最終的に後半17分にトライを奪われて敗れるも、点差をつけられても折れなかった心や、用意してきたプレーを積極的に出し、やり切る遂行力など、持てる力を出して戦った60分は立派だった。
試合を終えた林主将は、遠方から応援に足を運んでくれた人たちの前で、感謝の言葉を口にしながらも、「ベスト16まで勝ち進むつもりだったのに1回戦で負け、悔しい。勝つつもりでいたので、すぐには言葉が見つからない」と正直に話した。
「この1年間、練習でも試合でも、苦しい時間がたくさんありました。でもそれらも、きょう勝てばすべて報われるぞ、と話して試合に臨みました。やってきた努力を必ずここで証明しようと話していました」
その思いは序盤にスコアを離されても揺るがなかった。ピッチの上でも、「やってきたことを貫こう。自分たちのスタイルを出し続けたら最後は勝てるから」と言い続けた。
宇部・小野田ラグビースクールで楕円球に出会った。高川学園に進学したのは中学からだ。
心臓に持病があった。しかし、「野村賢二監督は、ラグビーを続けられるかどうか分からない僕のことを『大丈夫、一緒にやろう』と受け入れてくれたんです」。
だから、高校で他の有力校に進学する気はなかった。
「野村先生に拾ってもらったと思っています。だから野村先生、市山先生(良充部長)と花園に行かないと意味がない、と思ってやってきました。部活は苦しいこともいろいろありましたが、みんなとやり切れた。それがいちばんの思い出です」
2年時に部史上初の花園出場を果たしたが、「先輩たちに連れていってもらった」感覚があった。しかし、今回の花園は「つかみ取った」気がした。
「だからこそ、もっと上に行きたかったのですが」と唇を噛むキャプテンは、「飛び抜けた選手がいない分、全員で戦うチームでした」と仲間たちのことを誇らしいと話した。
後輩たちには、「妥協するのは簡単。一日一日、全力を尽くしてほしい。それが本当の勝負所で出るから」とメッセージを残した。
野村監督は、「中学から見ていて、人間的にももっとも成長した選手だったのでキャプテンを任せました」と林との6年間を振り返った。
卒業後は中大に進学してプレーを続ける。
敗戦後もチームの先頭に立ち、気丈に振る舞っていた主将の涙腺が緩んだのは家族から声をかけられた時だった。
「恥ずかしくない試合だった。胸を張って帰っていい。いい仲間に恵まれたね」と声をかけられると、母の腕の中で肩を震わせた。
感情の決壊は、成長と切り離せぬものでもある。
泣きやんだその顔は、さっきまでより、もっと大人びていた。