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【車いすラグビー日本選手権】史上初の金メダルに沸いたパラリンピック・イヤーを国内頂上決戦で締めくくる。
競技歴25年、日本の車いすラグビー界を牽引してきた島川慎一(左/BRITZ)にとって2024年はメモリアル・イヤーとなった(右は池崎大輔)。(撮影/張 理恵、以下同)

【車いすラグビー日本選手権】史上初の金メダルに沸いたパラリンピック・イヤーを国内頂上決戦で締めくくる。

張 理恵

 日本の車いすラグビーが世界の頂点に立った2024年。
 新たな歴史を刻んだビッグイヤーを、国内最高峰の戦いで締めくくった。

 12月20~22日、クラブチーム日本一決定戦「第26回車いすラグビー日本選手権大会」が横浜武道館(神奈川県横浜市)で開催された。
 今大会には、予選とプレーオフを勝ち抜いた8チームが出場し、クラブチームのプライドをかけた、情熱ほとばしる熱戦が繰り広げられた。

激闘を繰り広げたFreedom対TOHOKU STORMERSの準決勝(左・橋本勝也、右・池透暢)


 大会屈指の好ゲームとなったのが、「Freedom(高知)対TOHOKU STORMERS(東北)」の準決勝。
パリ・パラリンピック日本代表キャプテン、池 透暢が選手兼ヘッドコーチを務めるFreedom(プールA・1位、3勝0敗)、パリ金メダリストの中町俊耶と橋本勝也を擁するTOHOKU STORMERS(プールB・2位、2勝1敗 以下、STORMERS)。
 第24回大会では決勝で対戦しFreedomが優勝、前回(第25回)大会では準決勝でSTORMERSが勝利を収め連覇を阻止と、ライバル関係にある両チームの戦いとあって、大きな注目が集まった。

 試合は、期待通りの白熱したバトルとなった。
 Freedomは次世代エースの白川楓也と池のロングパスでスペースを広く使って展開する。一方のSTORMERSは橋本の機動力と中町のゲームメークでスコアを重ねていく。
 一進一退の攻防。ひとつのミスがターンオーバーにつながり、リードを奪い合う大接戦。

 前半を28-28の同点で折り返し、後半に突入しても拮抗した状況が続いた。
 39-40、STORMERSの1点リードで迎えた第4ピリオド。STORMERSボールでスタートし、39-41と突き放しにかかったところでFreedomの反撃が始まった。
 ボールハンドリングのミスをすかさず突き、連係が一瞬ゆるんだところを見逃さずパスをカット、Freedomが5連続得点を挙げて一気に流れを変えた。
 STORMERSは意地のターンオーバーで追い上げを図るも、Freedomが逃げ切った。52-48で決勝へと駒を進めた。

STORMERSの橋本勝也は「日本一」の目標を果たせず悔しさをにじませるも、「パリ大会では成長した部分をしっかり見せつけることができた」と今年を振り返った。

「第4ピリオドで2点差がついて受け身に入ってしまった。Freedomは絶対取らなければいけないところでアグレッシブにきて、そこに押されて負けた。自分自身の弱さが原因」と、キャプテンの中町は勝敗を分けたポイントを語った。
「世界一と日本一を獲る年にする」と今大会に臨んだ橋本は、その目標が断たれたことに大きく悔しさをにじませ、唇をぎゅっとかみしめた。

 2024年のラストを飾る大一番、決勝。
 2大会ぶりの王者奪還を目指すFreedomに立ちはだかるのは、ここまで全勝で勝ち進んできたディフェンディング・チャンピオン、BLITZ(東京)。
 BLITZは、パリ金メダルメンバーの島川慎一―池崎大輔―小川仁士―長谷川勇基と、誰が見ても国内最強のラインアップをスタメンに起用した。

 世界に誇るJAPANの鉄壁の守備を再現するかのように、BLITZはオールコートにディフェンスを張り巡らし、Freedomのスペースとパスコースを塞ぐ。Freedomにとっては、池と白川の個人技に頼らざるを得ない苦しい展開が続く。
 ラインアップを替えても勢いの衰えないBLITZは、1点、また1点とその差を広げ、試合時間残り4秒で島川がトライ、ターンオーバーからさらに追加点を挙げようと池崎がトライラインへと走り込むも、そちらはノートライに終わり、55-42でノーサイドのブザー。BLITZが2大会連続、10度目の優勝を果たした。
 点差こそ開いたものの、池vs池崎の世界トップレベルのマッチアップや、最後まであきらめずに戦う闘志あふれるプレーに、会場からは惜しみない拍手が送られた。

BLITZが2大会連続、10度目の優勝を果たした。


 試合後、BLITZ設立メンバーのひとりである島川は、「2005年1月にこのチームを立ち上げて、来月で20年。そういう節目の年に優勝ができてうれしい。これにおごらず、しっかり強くなって3連覇を目指したい」と喜びを語った。
 そして、「(今年)1月の日本選手権から始まって、日本代表の海外遠征と、めまぐるしい一年だった。車いすラグビーを25年やってきて、ようやく金メダルが獲れた。目標としていたものを達成してほっとしている。年が明けたらまた通常モードで、まずは1年1年しっかり代表に食い込んで、実戦レベルでプレーしていきたい」と、激動の一年を振り返った。

 パリ・パラリンピック日本代表の12名全員が出場した今大会。
 Okinawa Hurricanes(沖縄)でキャプテンを務める若山英史は「最高で最幸。家族も増えて、自分の中でもいい一年になった」と目を細め、AXE(埼玉)ではアシスタントコーチも兼任する倉橋香衣は、「パラリンピックだけでなく、今月おこなわれたウィメンズ・カップ(※)も今年の初めからずっと楽しみにしていたし、AXEでは日本選手権に向けて練習してきたことをみんなで実行した。やっぱラグビー楽しいな!っていう、そんな一年でした」と、とびっきりの笑顔を見せた。
(※女性選手だけによる、車いすラグビーの国際大会。12/4-7にフランス・パリで第4回大会が開催され、18か国・60名の選手が参加。日本からは倉橋と月村珠実の2名が混合チームで出場した)

倉橋香衣(右)と月村珠実(左)は女性選手のみの国際大会「WOMEN’S CUP」でもベストプレーヤー賞を受賞した。


 また、パラリンピック初出場を果たしたFukuoka DANDELION(福岡)の草場龍治は、「パリ大会に出場するという思いで今年1年がスタートして、たくさんの国際大会を経験させてもらった。その中でクラブチームでも、自分が引っ張っていかなければいけないという意識が強くなってきた。まだまだ課題はあるが、パリを経験できたことはとても大きかったので、自分の役割をしっかり理解してチームに貢献していきたい。今年一年、本当にラグビー漬けの一年だった」と、ひと回りも、ふた回りも成長した姿で語った。

 そして、パリではチーム最長のプレータイムで、日本の金メダル獲得に大きく貢献した池 透暢も、充実した表情をのぞかせた。
「これまでの努力とか挑戦というものが、目標に到達できたという思いがすごくある。パラリンピック後に、たくさんのイベント、体験会、講演、メディアに呼んでいただいて、車いすラグビーというスポーツの認知度をさらに高め、ファンを増やしながら、みんながそれぞれ動いていると感じている。自分自身も今年が本当に人生のピークというくらい、いろいろな意味で報われたし、達成できたし、到達できて、すごく満足した一年になった」

池透暢は「目標に到達することができ、人生のピークというくらい満足した一年になった」と充実感をのぞかせた。


 史上初のパラリンピック金メダル獲得に沸いた、車いすラグビー。
 2025年は、日本代表にとってパラリンピック後初の国際大会となる「2025ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」(2月6~9日、千葉ポートアリーナ)から始動する。
 華麗なチェアワークに巧みな戦術、チームの勝利のためにハードワークする姿が人々の心を熱くする車いすラグビーに、今後も注目だ。

【第26回車いすラグビー日本選手権大会 最終結果】
優勝  BLITZ(東京)
準優勝 Freedom(高知)
3位  TOHOKU STORMERS(東北)
4位  Fukuoka DANDELION(福岡)
5位  AXE(埼玉)
6位  RIZE CHIBA(千葉)
7位  WAVES(大阪)
8位  Okinawa Hurricanes(沖縄)

準優勝のFreedom
3位のTOHOKU STORMERS

【個人賞】ベストプレーヤー賞
クラス0.5 倉橋香衣(AXE)
クラス1.0 草場龍治(Fukuoka DANDELION)
クラス1.5 月村珠実(RIZE CHIBA)
クラス2.0 朴 雨撤(Fukuoka DANDELION)
クラス2.5 青木颯志(AXE)
クラス3.0 池 透暢(Freedom)
クラス3.5 橋本勝也(TOHOKU STORMERS)

【大会MVP】小川仁士(BLITZ)

ベストプレーヤー賞に輝いた各クラスの選手(左からクラス3.5→クラス0.5)


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